海色のマリッジ 生家に帰るのはずいぶんと久しぶりだった。
見慣れたはずの玄関のドア。くすんだ茶色のドアと塗装がほんの少し剥げかけた銀色のバーハンドルに懐かしいといった気持ちはあまり湧かず、そういえばこんなのだったなぁと他人事のような感想を抱いた。毎日この玄関を通っていたのは遠い昔のようで、その日々のことを思い出すのは難しい。あの頃はこの家に帰ることが当たり前だったから、こんなに玄関の様子をまじまじと観察したのは初めてかもしれない。
あまり音を立てないようにゆっくりとハンドルを引くと、ドアは抵抗することなく小さく音を立てて開いた。施錠されていたらどうしようと思っていたけれど、不用心だなあとも思う。玄関には年中出しっぱなしのお父さんの革靴と、女性もののカジュアルなスニーカーが一足。
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