口封じ「こんな夜分に間食ですか、お姉さま」
あんずは大きな瞳をぱちくりとひとつ瞬かせて、それから長いこと油を差していない機械みたいにぎこちなく声のした方を振り向いた。声をかけた司はまるで悪戯が見つかってしまった子供のようだなと思う。
資料やらで散らかったあんずのデスクに広げられた簡易な包装のパウンドケーキは手作りの品だろうか。バナナのような白っぽい果物が中に散りばめられている。もぐもぐもぐ、ごっくん。あんずは口の中のものを綺麗に飲み込んでから、ようやく口を開いた。
「これは、夕飯だからいいの」
「おや、それっぽっちを夕食の代わりになさるおつもりで? あまりお体に良いとは言えませんよ。近頃は毎日三食栄養Balanceの整ったものを召し上がっていると伺っておりましたが——、どうやら虚偽の申告だったようですね」
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