Kiss「――――それで、舌が痺れたと。なるほどね」
ぴんっとカップの縁を弾くと、それは真っ逆さまにテーブルから落下し、お気に入りと謳っていたノリタケは音を立てて壊れた。まだ半分は残っていた毒入りの紅茶はフローリングに広がり、じんわりと染み込んでいく。テツヤは割れたカップを手袋をはめた手で持ち上げるとワゴンに乗せた。ティータイムはこれでおしまいだ。
持ってきていたジョージアンターコイズはペアで揃っていた。そのうちの一つを壊したとなると、もう一客もこれから日の目を見ることはない。また新しいカップとソーサーを探しておかなければと、その原因でもある毒入り紅茶を飲んだテツヤは、たかが舌が痺れる程度の神経毒一つでここまで激怒した兄である征十郎に視線を戻した。
2355