【掌編】争いはなにも生まない「争いは、なにも生みません。」
美青年がにっこりと微笑んでいる。
今や洋館には陽の光が差し込み、青年の横顔を静かに照らしていた。
今の彼はきっとどの宗教画よりも神々しい。
「争いはなにも生みません。どんなに争っても、散らばる銃弾、周囲を汚す煙……それらに被害を受ける動物や自然の尊さに、人間は遠く及ばないのです。」
私は青年の言葉に耳を傾けざるおえない。
「争いはただ、周りのことも、自分自身のことも傷つけるだけです。だから私は、自分を傷つけるものを、瞬殺できるぐらい強くなることを選んだのです。」
私は最後の言葉を――――今や肉塊同然になった私は、しゃべるのもままならないが――――人生最後のこの世界への足掻きを口にした。
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