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    オールトの沈没船

    @ortship_0503

    作った文を適当に流します
    妄想、幻想、CP雑多、たま〜に🔞
    雑プロットみたいなのが多いデス

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    あ″〜〜!!!!!
    ダラダラ書きすぎて終わらないので一旦進捗
    「ひとりにしないでくれよ」のプロローグ
    💚💗 💗HBD

    ##💚💗

    💚💗🏠-1>> 5月31日

     夜も更けて、時刻は日付が変わろうとしている頃。
     七人の男たちが共同生活シェアハウスをしている大使館の別邸は、静寂に包まれていた。
     
     ――静かな時も、あるもんだな。
     
     本日の主役である猿川慧は、グラスに残った酒をゆっくりと飲みながら周りを見渡した。リビングの一部の電気は消され、淡い橙色の光と台所から漏れる光だけが此方を照らしている。

     最年少で酒も飲めない未成年の男は、呆けた顔で寝息を立てながらソファを占拠している。その隣では、21時には「寝なさい」と言うような秩序の権化が、今日はもう諦めたのか笛を握りしめたまま眠っていた。
     ダイニングテーブルに顔を向ければ、浴びるように酒を飲んでは自分について語り尽くしていた自愛の彼と、それを肯定しながら「セクシーですね」なんて口癖を呟く男が様々な姿で目を閉じている。

    「眠いんなら、寝ろよ」
     
     事ある毎に「死にたい」と呟く男は、ソファの影で全身を使って船を漕いでいた。目を閉じたまま前に揺れては、少しだけ目を開けて戻って。何度も何度も同じことを繰り返す彼にそう言ってやれば、彼は黙ってこちらを見やる。
     何かを言いたげで、きっと気にしなくても良いような色々な事を考えているのだろう。目は合わせず、残った酒を飲み干して空のグラスを机に乗せる。そうすると、彼は皆の寝顔を確認するかのように周りを見渡してから小さく呟いた。
     
    「……おやすみなさい」
    「おう」
     
     それから、すぅと寝息が聞こえてくるまではすぐの事だった。元より静かだったリビングは、より静かになる。
     残るは、白色の蛍光灯の元でカチャカチャと汚れた皿を洗う男のみ。グラスに追加の酒をつぎながら目線だけを向ければ、彼、本橋依央利は楽しそうにしていた。
     
     ――ほんっと、変わらねぇな。
     
     猿川は、気が付かれないように小さなため息をつく。元々幼馴染という間柄で、今や皆も含めて共同生活を送っていた。滅私、貢献、奉仕。そして無我。他人が居ることにより激しくなった主義主張を持つ彼は、ここに来る前よりも笑顔が増えたように思う。
     今だって楽しそうに笑いながら、ちょっと変な歌を小さく口ずさみながら、今日一日で出た皿の山を片付けている。もうほぼ全員が酔い潰れて、騒ぎ疲れて眠っているのだから。明日やればいいものを。
     
     それにしたって、今日の飯は美味かった。
     いつもの依央利の飯だって、それはもう美味しいし、他の皆も大絶賛している。でも、今日は、特別だ。

     
     朝。いつもなら適当な時間に帰宅しても許されるのに、今日は17時には家に居て、なんて皆から釘を刺された。あの伊藤ふみやや、湊大瀬にも。
     
    「はあ?ぜってぇイヤだ」
     
     そう言うと、「じゃあ帰ってこないでいいよ」なんて。テラに煽るように言われてしまえば、帰ってくるしかない。最初はなんの事だかさっぱり分からなかったものの、外に出て今日の日付を見て思い出す。
     
     ――ああ、俺の誕生日か。
     
     朝食の時からコソコソと皆で話していて、準備がなんだのとか、ご飯がなんだのとか、そういう話をしていた気もする。「帰ってくるな」と言われたからには、17時ちょうどに家の玄関を跨ぐ。この家に帰ってくるのは慣れたもので、適当に靴を脱いで、適当に手洗いうがいをして、流れるようにリビングへ足を運んだ。
     
     いつもなら家が倒壊しそうな程の喧騒を起こす家が静かなこと。明らかに何かをしていて、慌てて隠した後があること。静かすぎて、ドアの向こうの様子が手に取るように分かること。全部が何処か嬉しくて、むず痒くて、自然と口角が上がる。いい歳した男なのにな。
     
    「「「「「「ハッピーバースデー!」」」」」」
     
     満を持してドアを勢いよく開ければ、四方八方からクラッカーが飛んできて、一気にいつもの騒がしさに戻っていく。
     
    「おめでと、ちゃんと帰ってきたんだ、偉いね」だとか、「おめでとうございます、今日は一段とセクシーなバースデーボーイですね」だとか、「おめでとう、猿。ほら、これを着けて!」だとか。「はは、慧思ったより似合うね」だとか。「猿川さん、おめでとう、ございます」だとか。
     
     一番に猿川の手を取った依央利に引かれながら、部屋の奥へと連れていかれる。その間に同時に話しかけられた割には全てが耳に入ってきた言葉を、胸の内にしまい込む。一部変な言葉があった気もするが今日は放っておいてやろう。首から下げられた「本日の主役」と書かれたタスキや、頭に付けられたヘンテコな帽子は今すぐにでも取りたいが。
     
     誕生日仕様に改変されたリビングは、男だけで作ったとは思えないほど華やかだった。色んな装飾がされていて、きっと大瀬やテラが中心となって作ってくれたのだろう。そして、何よりも。入った瞬間から鼻腔をつく良い匂いに、テーブルの上に並べられた沢山の肉料理。チャーハンを先陣とした、今まで美味いと言った好きな料理の数々。きっとこれは、依央利が作ってくれたものだ。
     
     ずっと黙って見渡していれば、用意された席に座らせられた。そうすると、
    「誕生日おめでとう、猿ちゃん。これは僕からの誕生日プレゼント」
     なんて。依央利は、両手を広げて誇らしそうな顔で笑う。ありがとう、そんな言葉が口から出ることはなく。ただ呆然と目の前に立つ幼馴染を見つめ返していた。

     そこからは散々だった。
     誕生日プレゼントと称して大喜利大会が始まるし、途中から酒を解禁した成れの果てがこのザマだ。まあ、全員服を着て眠りについているだけマシか。最初から、片付けまで全部やるよと意気込んでいた依央利以外、全員まとめて寝ていやがる。

     ――楽しかった。
     
     久しぶりに大笑いした気もするし、久しぶりにこんなに沢山祝ってもらった気もする。気が付けば水の音は止んで、今度はキュッ、キュッと皿を吹き上げる音が響いていた。片付けはその工程で終わりになるだろう。あと10分もかからない。そうしたら。
     
     猿川は再びグラスを空にすると、静かに席を立つ。なるたけ音を立てないように移動する。依央利が顔だけをこちらに向けた気もするが、振り向かない。
     飲みすぎたせいか足元はふらつくものの、視界は良好だ。
     ゆっくりとリビングを歩いて、各地に散らばる毛布を回収して、寝ている奴ら一人一人にかけてやった。
     
    「ありがとう。……なんて、ぜってぇ言わねぇからな」
     
     口にした後、顔を顰める。言わなければ良かった。「ありがとう」、心の中でそう思っておくだけで良かった。酔いのせいか、いつもより高揚した気分のせいか。なんだかむしゃくしゃして、行き場のない感情が湧いて出る。
     先程まで座っていた席に戻って、更に追加の酒をグラスに注ぐ。明らかに飲みすぎの域に達そうとしていたが、何せ誕生日だ。
     
    「ねえ、猿ちゃん」
     
     いつの間にか隣に立っていた依央利は、酒を一口含んだ瞬間その頬に指先だけで触れた。慌ててグラスを離せば、中に入った明るい紫色の液体が揺れる。
     
    「ん」
     
     そう短く返せば、依央利は笑う。
     
    「あのね、猿ちゃん」
    「おう」
    「誕生日プレゼント、あげるよ」
     
     静かなリビングで、2人の小さな話し声だけが響く。
     
    「ん? もう、貰ったぞ」
    「ううん、晩メシじゃなくてさ。別のものを、ちゃんと用意してある」
    「マジか」
     
     そう短く発しながら見つめれば、依央利は目を逸らす。薄暗くて顔が良く見えないが、何かを企んでるとかそういうのではなさそうだ。
     
    「じゃ、そういうことで。後で僕の部屋に来れる?」
    「ん」
     
     依央利は言い切ると、綺麗になったリビングをパタパタと足早に出ていく。
     
     ――なに。
     
     その背中は少し焦っているようで、今から一緒に行けばいいだろうとか、何をくれるんだ?とか、そういう普段何気なくしている会話を投げかけることは、出来なかった。
     なんだか珍しい依央利の行動に、妙に心臓がうるさいのは気の所為か。

     残った酒を再び飲み干して、使ったグラスを綺麗に洗う。冷たくなった依央利の指先を思い出せば、自分が最後まで使っていたグラスだけ残しておくのは悪い。

     ――行く、か。

     壁にかけられた時計を見れば時刻は23時20分。あと40分で、今日が終わる。
     猿川は、冷蔵庫に入っていたペットボトルの水を手に取ると、電気を消してリビングを後にした。
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