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    李丘@練習中

    チェンゲの竜馬さんが大好き。隼竜/隼竜隼

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    李丘@練習中

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    続き。
    ブルーノ・マーズの『Please Me』を聴いてて浮かんだ話。
    20240608

    【8】どうか、今夜「おい待てって、隼……」
     そう言葉にする途中で唇を塞がれて、竜馬は自分の顎を掴む指に性急さを感じた。
     ドアが閉まって部屋の照明がついた途端、隼人が手を伸ばしたと思ったら正面から抱きしめられ、驚いたのと同時に誰か来たらまずいだろという思いが浮かび、その腕を外しながら「何やってんだ」と言ったのだが、隼人は無視してふたたび腰に指をかけてきた。
     そのまま引き寄せられたと思ったらキスを求められて、さすがに焦って「おい」と避けようとしたが唇は頬を追ってきて、その腕が力を緩める気配はなくて、竜馬の頭は混乱した。 
     らしくねぇな。
     顎から頬を這う指の力強さに怯むのは、隼人が「こう」なっている理由に想像がつくからで、そしてそれは自分も同じだと自覚がある。
     それでも、いま誰か来たら二人とも終わりだという焦燥が前にあって、
    「なぁ、ロック……」
     と何とか口にすると、隼人は唇を合わせたままで竜馬の体ごと動き、指を後ろに伸ばすと壁のボタンを押した。

     ぽんと設定が完了した音がして、その瞬間に竜馬のなかで何かが外れ、自分の体に回されている隼人の腕を押しのけると今度は自分がその頬を掴んだ。
     歯がぶつかりそうな勢いで交わった唇は、ためらうことなく互いに抱える熱を伝えあう。
     隼人が眉を寄せるのは、自分が先に求めたのに今は激しく唇を押し付けてくる竜馬のなかに同じ欲を見つけるからで、それが火花のような瞬きを心に広げて苦しくなる。
     同じ欲。
     今すぐ。

     キスをしたままで竜馬の指が隼人のシャツのボタンを外す。
     それが床に落ちてから隼人が竜馬の着ているものを剥いでいく。息遣いが荒い。言葉はない。視線も合わせない。
     ずっと唇を探っていれば互いの表情も分からない。それでも、二人の足が迷うことなくベッドに向かうのは、一秒でも早く愛しい恋人を迎えたいからだった。
     なかに。心に。
     触れあって求めあって混ざりあいたい。光に。その毒に。
     もつれるように柔らかいシーツの上に倒れて、竜馬の名前を呼びながら、隼人の指がそのうなじをなぞる。
    「好きだ」
     何度も何度も聞いたはずなのに、低く掠れる甘い声を落とされると、底なしの思いの丈に沈んでいくのを竜馬は感じる。
     隼人。
     溺れていく。
     差し出される剥き出しの愛。


     先日の敵襲で受けた傷が思いのほか深かったのは隼人で、体力は回復したものの手足や腹に残るダメージが尾を引き、痛みで動けない日もあった。
     仕方ないとはいえ、司令室に立てずイライラする隼人に竜馬は「さっさと治せ」と繰り返した。
     それでも五日ほどで傷も癒えてきて、司令室に戻ったときはヤマザキたちがたいそう歓迎していたことを、竜馬はその日渓から聞いた。

     隼人がコーヒーを飲もうとサーバーを置いてある小さな部屋に入ったとき、そこには渓と竜馬がいて話しているところだった。
    「よう」
     竜馬が声をかけるのを手を挙げて受けて、渓に「ゴウたちはどうした」と尋ねながら、隼人はカップを手に取った。
    「いつものようにマシンの整備をしてるよ」
     と返す渓は普段と変わらない明るさで、隼人に「元気になってよかった!」と笑顔を向けた。
    「こいつはしぶといからな」
     とからかうように竜馬が言って、渓が
    「竜馬さんよりはデリケートでしょ」
     と返して小突かれ、何すんのよと食ってかかるのを見ながら、隼人はサーバーから注いだコーヒーに口をつけていた。
     二人がじゃれる姿なんて珍しくなくて、竜馬が渓に対して気さくに声をかけることに、今さら嫉妬はない。
     同じパイロットとして、性別にこだわらず渓の存在を尊重しているのは、接し方を見ていればわかる。
     それは歓迎するべき姿だと、隼人はわかっている。
     「そろそろ俺たちも行くか」と竜馬が言って、頷いた渓が「神司令、また後で」と手を挙げた。
     「ああ」と返す。
     二人が自分の前を通るとき、竜馬がこちらを見た。
     視線が合う。隼人の胸がちくりと疼く。
     自分を見る瞳にはいつもの光が浮かんでいて、それは自分より近い距離で話していた渓を見る目には一瞬もなかったもので、言葉より雄弁に思いを伝えてくる。
    「じゃあな」
     そっけない声と裏腹に意思のある瞳が、隼人の呼吸を少しだけ浅くする。
     すれ違いざまに、竜馬の指が自分のシャツの上を滑るのを、隼人は見逃さなかった。

     その夕方に、竜馬と弁慶がマシンの報告で司令室を訪ねてきた。
     今は落ち着いているが、先日の件を受けて備えを万全にしておきたいのが弁慶の気持ちで、隼人とは毎日話し合っていた。
     隼人と弁慶が意見を交わすのを横で聞きながら、竜馬は部屋をちらりと見回す。
     ここは、あんまり長居したくねぇんだよな。
     難しい顔でモニターを睨む所員に、ファイルを抱えて隼人のそばを離れないヤマザキ、常に最前線に立つ竜馬にとって、司令室はちょっと空気の変わる場所だった。
     そこに、誰よりも居て当然の雰囲気で溶け込んでいる隼人は、たまに声をかけるのをためらうほど真剣な顔をして周囲と話している。
     用事がなければ足を向けることのない場所であって、今も、隼人の言葉を後ろに控えて書き留めるヤマザキの姿に、わずかな緊張を覚えた。
     来れば隼人には会えるが、自分とふたりのときとは完全に違うその佇まいが、竜馬は少し苦手だった。
    「よし、じゃあそれで」
     と弁慶の声がして、我に返った竜馬はこちらを見る隼人の目とぶつかった。
     「行くぞ竜馬」と促す弁慶にああと答えながら、隼人の視線を避けたのは、少しだけ心が狼狽えて動揺が伝わるのが嫌だったからだ。
    「竜馬」
     そんな自分におそらく気がついていて、背中から隼人の声が飛んでくる。
     弁慶に続いてドアに向かっていた竜馬は、顔だけ振り向いた。
    「後でゲッター1について話がある」
     誰と話すときも同じ表情をしているその瞳が、今だけ違う色を浮かべている。
     俺だけが知っている。
     貪欲な、毒を持った熱。
    「分かった」
     そう言って、竜馬は部屋を出た。
     それは、二人の時間を持つというサインだった。

     夕食が終わって少しみんなで話して、雑談が続いているのを見て二人で席を立ち、隼人の部屋に向かったのだった。
     入るなりキスを求めてベッドに向かうなんて、自分も隼人も「らしくねぇな」ともう一度竜馬は思う。
     でも、隼人の傷が癒えないせいで触れ合うことができなくて、医務室で過ごす時間が長かった隼人とは二人きりで話す機会すらなかなか持てなくて、いい加減待てなくなっていたのが、自分の真実だった。
     隼人もそうだと分かるから、その性急さに司令室で見た瞳に浮かぶ色を思い出すから、いつもより早く歓喜の波が体に湧いてくるし、「もっと」とその首に腕を回すのだ。
    「隼人」
     喘ぐ声は高くなる。荒い呼吸で自分の首筋から鎖骨に唇を下ろしていく恋人は、答えてくれることもなく腰を抱く指に力を込める。
     傷は本当に大丈夫なのかと心配が頭をよぎるが、それを口にすれば熱が途切れることになる。
     やめるな。
     もっと。
     もっと。
     自分の裡から流れる光と、隼人の唇から与えられる毒が、今夜も一緒になって落ちていく。
     揺れる意識を手放さないように、「好きだ」と何度も呟いた。
     その口を塞がれて、甘い毒が体を廻って、竜馬は目を閉じた。


    「わざとやってんのかよ」
     冷蔵庫から水の入ったペットボトルを取ってきて渡しながら、竜馬が尋ねた。
    「何のことだ」
     ベッドの上であぐらをかいた隼人はそれを受け取って、首を傾げた。
     とぼけやがって、とその隣に並んで座った竜馬が言う。
    「お前、今日の昼あそこで会ったときに渓を睨んでただろ」
    「……」
     そんなことはしない、と返そうとして、そのときの自分を思い出す。
     見ていたのは渓じゃなくて竜馬だったが、二人の距離がすぐだから竜馬にとってはそう感じたのだろう。
    「近いんだよ、お前たちは」
     睨んでないと言おうとして出てきたのは本音のほうで、口にしてから隼人は焦った。
    「はぁ?」
     案の定、竜馬から呆れたような声が返ってくる。
    「なんだよ、まだ妬いてんのか」
    「違う」
     違う、嫉妬はもうない。そうではなくて。
    「渓を睨む理由はない。お前たちが近いから、どんな顔で見ればいいか分からんだけだ」
     こっちも本心で、それを聞いた竜馬は
    「どんな顔でって、そのままでいいじゃねぇか」
     と返してから、「ああ、目に出るもんな、お前は」と低く続けた。
    「……」
     人のことは言えないだろうと思ったが、それは黙っていた。
     嫉妬はない。その目がどんな光で渓を見ているか、対等な存在として受け入れている以上の強さはないと知っている。
     お前が好きなのは俺だけで、それは分かるけれど、単純に物理的な距離が自分より近いことがそうできない立場の二人を思い出させるから、心に引っかかるのだ。
     何も言わない隼人に向かって、
    「まあ、お前が嫌なら、離れるけどよ」
     と竜馬が威勢のない声で言った。
    「そうしてくれ」
     とすぐ返して、隼人は水を飲む。
     ペットボトルを竜馬に渡しながら、
    「お前だって、司令室では居心地が悪そうじゃないか」
     と意地悪を言ってみた。
     「うるせぇよ」とひったくるように受け取った竜馬は、ごくごくと喉を鳴らして水を流し込んでから、
    「あそこはな、何ていうか、俺の居場所じゃない気がしてな」
     とぼそっと呟いた。
     そうだろうな、あそこは俺の居るべき場所だから。
     お前たちを守るために。
    「用事もないしな」
     と続ける竜馬に、
    「会いに来てくれたら俺はうれしいがな」
     と、隼人は指を伸ばした。
     「馬鹿か」と返す竜馬の唇に触れ、
    「お前だけだ」
     と呟いた。
     お前だけだ。
     会いたいと思うのは。
    「……」
     その指を食むようにくわえて、竜馬がふっと笑った。
     俺だって。
    「用事はある、か」
     そう言って、竜馬の舌が指先を舐める。
     そのまま吸いついてくるあたたかさに誘われて、隼人が顔を近づける。
    「竜馬」
     取り上げたペットボトルを床に置いてから、隼人が指を引き抜いてみずからの口に入れた。
     その自分を見つめる竜馬の瞳に、新しい光が浮かぶのを隼人は捉えている。
     抱える欲は同じ。
     与える毒も、落ちていく光も、一緒でなければ意味がない。
    「隼人」
     呼ぶ声をやわらかく溶かしたくて、隼人は竜馬の唇を塞いだ。


     俺は欲しがる人間ではないが、お前にだけは懇願してしまう。
     満足させてくれ。
     俺が欲しいものは分かっているはず。
     だから。
     どうか。
     どうか。
     今夜、もう一度。
     この愛をお前に落とさせてくれ。

     廻る毒と、溢れる光で。


    -了-

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