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    李丘@練習中

    チェンゲの竜馬さんが大好き。隼竜/隼竜隼

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    李丘@練習中

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    続き。
    いちゃいちゃしてるだけ。
    20240620

    【14】誓いの色は 嘘をつかれる自分など、見たくなかった。
     そのとき特に喧嘩をしていたとか、俺が忙しくてすれ違っていたとか、そんな不具合も起きていなかったのだ。
     いつも通りの日常だったのに。
    「竜馬なら、ゴウたちと外出したぞ」
     と普通の調子で弁慶に返されて、そんな予定を俺は聞いてなかったから、思わず息が詰まった。
     そもそもその時間は俺とマシンのセッティングについて打ち合わせする約束をしていて、それを
    「先にゴウと地図の確認をするから、終わったら行く」
     と言ったのは竜馬だったのだ。
     だから待っていたのに、たまたま廊下ですれ違った弁慶に竜馬たちの様子を尋ねたら、ゴウや渓たちと出かけていると知らされた。
    「地図の確認?
     そんな話は聞いてないぞ」
     と弁慶は首を傾げていて、最初から皆で出かけると決まっていたと言われた。
    「……」
     どうして、そうだと言わなかったのか。
     俺に嘘をつく理由は何なんだ。
     胸の底が、じりっと焦げ付くような痛みを覚える。
     こんな竜馬は、今までなかった。


     その嘘を何でついたのか、いずれ絶対にばれると分かっていて思わず口走ったのは、どこかで許してもらえるという甘えがあったのだと、竜馬は思っている。
     どうしてもそのときしか出て行く時間が取れなくて、でも先に隼人と話す予定が入っていて、それより優先させても違和感のない理由が必要だった。
     地図を確認するって話は、今日じゃなかったがゴウとはやろうって出ていたからな、こっちは本当なんだと言い訳しながら、とっさにそれを持ち出した。
     自分がタワーに居ないことは弁慶にでも会えばすぐに知られることで、約束を破ったことを怒るだろうなとは思ったが。
     用事があった。
     俺にとっては大切な。
    「神司令、喜ぶかな」
     と前を歩く渓が振り返って言うのを、
    「さあな。
     あれは興味がねぇだろうからな」
     と答えながら、それでも、隼人の気持ちに関係なく自分がそうしたいのだと、改めて思った。
     ゴウが「いいと思う」とぼそっと呟いて、「似合いそうだけどなぁ」と凱が笑って、外は北風が吹いて寒いけど何となく新鮮な気持ちで皆浮かれていて、こういうのもいいんじゃねぇかと、晴れた空を見上げた。


     だから。
     タワーに帰ったら想像以上に不機嫌な隼人の顔を見て、失敗したとすぐに分かった。
    「黙って外出してごめんなさい」
     としおらしく頭を下げる渓と凱には「弁慶に伝えていたならいい」と答えるくせに、それからこちらに寄越した視線は明らかに尖っていて、一言も声をかけない。
    「悪かった」
     と言ったけど短く「ああ」とだけ返したらすぐ目を逸らす様子は、嘘をついたことを確実に責めていた。
     そんな差は身近にいる竜馬だからこそ分かることで、司令室を出てからゴウが「怒られなかったな」と言うのをお前らはな、と思いながら、竜馬はため息をついた。
     俺には。
     大切な用事だったんだ。


     その夕方、食事の時間になって司令室に迎えに行ったら「忙しいから後にする」と断られ、「お前の部屋にいるからな」と小さな声で返したけどそれに返事はなく、ほかに人もいればそれ以上プライベートな会話は難しくて、竜馬は大人しく引き下がった。
     この様子じゃ、喜ばねぇかもな。
     そう思ったけれど、客観的に見れば嘘をついた自分が悪いのであって、それを隼人がどう思ったか、胸がちくりと痛んだ。
    「……」
     伴侶であり、パートナーだから。
     責任や義務がつきまとう関係であるのは理解しているが、隼人の場合はそれ以上に向けている信頼を裏切られるのを嫌う。
     いろんな葛藤や悩みを乗り越えて手に入れた今だからこそ、そこを揺らされると角砂糖が欠けるような脆さで自信を失う。
     それが隼人の事情だった。
     結ばれた絆は強くて、背中を預けることにためらいのない関係で、”それなのに”嘘をつかれることは、隼人にとってはショックだろうと想像がつく。
     たとえば、同じことを自分がされたら。
     その理由が分かれば笑顔になるかもしれないが、隼人はどうなのか。
     こちらに投げられた視線の冷たさを思い出すと、竜馬は少しだけ不安になる。
     ……最初から、正直に言えばよかったか。
     それを避けたのは単純にサプライズをしたい自分がいたからで、その提案をしてくれた三人の気持ちも汲みたかったし、何が正解だったのかごちゃごちゃと考えていた。

     隼人。


     不意に電子音が鳴り、はっとした竜馬が顔を上げるとドアが開いた。
     そこにいたのは隼人で、ソファに座る竜馬を見てまたすぐに目を逸らした。
    「隼……」
     が。
     次の瞬間またすごい勢いで顔が戻ったのは、テーブルに置かれた花束を目にしたからだ。
    「隼人」
    「……」
     隼人の視線がそれに釘付けになったのを見て、竜馬のなかで突然恥ずかしさのような熱がかっと湧いた。
    「あのな」
     どくどくと、小さな鼓動が胸を回る。
     それを。
     買いに行ってたんだ。
    「……」
     言おうとして言葉が続かなかったのは、隼人の顔からふうっと緊張が解かれるのが分かったからで、釣り上がっていた目尻が力を抜いて流れる瞬間を見てしまった竜馬は、胸のなかにぱんと弾けるような瞬きを覚える。
    「まだ買えるところがあったのか」
     隼人の口から、穏やかな調子で言葉が出る。
     視線はテーブルの花束に向いていて、場違いな色を放つそれを楽しむような、明るい光が瞳に浮いているのが見える。
     昼にここに帰ってきたときはあった、静かな怒りと拒絶が消えている。
    「ああ。ゴウたちがな、パトロールのときに見つけた店があって。
     まともに営業できるほどじゃねぇが、売ってたって」
     そう答えながら、竜馬のなかで、生まれた熱が鼓動と一緒にじわじわと全身を侵していく。
     そうか、と言って隼人がこちらに歩いてくる。
     迷いのない、確かな足取りで。
    「いいな、薔薇は好きだ」
     はっきりとした口調でそう言いながら、隼人が竜馬の隣に座った。
     口元が緩む笑みを浮かべて、いつものように脱力してソファに体を預ける隼人がすぐ近くにいて、竜馬の心が不安定に揺れる。
     お前に似合うと思ったから。
     贈りたくて。
     それと。
     あと。
     言いたいことがあるのに、胸が打つ鼓動の激しさに動揺して、言葉が上がってこない。
     そんな竜馬を横目でちらりと見てから、
    「俺に嘘をついたと思ったら、これだったのか」
     と小さな声で呟くが、その響きが浮かれたように高くて、紅い薔薇が押し込まれた花束に戻る瞳がきらきらと光るから、それに見惚れて何も出てこない。
     愛しい、人。
     何事かと思ったぞ、と続ける隼人が花束に手を伸ばす。
     それを掴んだのは、言うことが別にあると気がついたからだ。
    「悪かったな」
     声がでけぇと思ったが、隼人が驚いたように身を止めてこちらを見たのは、そこに真剣な響きがあったからだ。
    「……ああ」
    「今日のあの時間しかあいつらが揃わなかったんだ。
     あいつらが、お前にどうだって、サプライズでプレゼントすればって言って、それでな。
     俺も、お前に贈りたくなって」
     一気に言ってから、嘘をついて悪かったと、もう一度口にした。
    「……」
     隼人の瞳が真っ直ぐに竜馬を捉える。
     いつもの、あたたかい色に混じって小さな光が見える。ぱちぱちと弾けるそれが竜馬の心にも届いて、その喜んでいる気持ちが伝わって、胸の奥から痛いくらい思いの塊が湧いてくる。
     ああ。
     こいつのことが。
    「そうだったのか」
     掴まれた手に目をやって、自分の指を滑らせて絡ませながら、隼人が笑った。
     俺のために。
     言葉にしなくても、そう思っているのが分かる。
    「お前に、似合うと思って……」
     呟く声がなぜか小さくなる。
     二人きりになるまで抱えていた不安が、この隼人を見て吹き飛んでいく代わりに、全身を支配するのは愛しさばかりになって、狼狽える。
    「薔薇は好きだ」
     紅がいい、とそんな竜馬を見る視線がふらりと揺れて、別の思いが浮かんで瞳に流れるのは静かな闇で、赤く滲む目尻が色気を連れてくる。
     つないだ手はあたたかくて、ついた嘘を許してもらえたことも、贈った花を喜んでもらえたことも、竜馬のなかに安心を超えた衝動を生む。
    「隼人」
     囁く声の色が変わっている。
     黙って顔を上げる隼人の、少し伏せた瞼の奥に見える仄暗い闇と瞬きが、誘っている。
    「……」
     愛してると言えない。
     それを超える愛情を何と呼ぶのか、二人とも知らない。
     黙ったまま、正しく傾いた互いの頬が近づいて、唇が重なって、竜馬の脳に痺れるような甘い痛みが走る。
     隼人。
     伝わってしまえば止められなくて、声を漏らしながら舌を受け入れる隼人が自分と同じように興奮しているのが分かって、どうしようもなく湧いてくるものに流されそうになる。
    「竜馬」
     隼人が怒っていたのは悲しかったからで、でもその嘘の理由が自分への愛だと分かって、そこにもう別の感情は必要なくて、素直に歓喜を伝えてくれることに、竜馬はめまいがするような幸せを感じる。
     逃さねぇと、言ったんだ。
     お前は俺のもんで、だから喜んで欲しくて、自分ひとりじゃちょっとためらうような買い物もあいつらがいてくれて、それで。
    「竜……」
     解いた指を背中に回して引き寄せながら、隼人の声が掠れていく。
     そこに交じるのがここにしかない甘い毒で、自分だけに流されるものだと分かるから、竜馬のなかで激しい瞬きがずっと生まれている。
     このまま。
     抱き潰してしまいたい。
    「隼人」
     息が崩れていく。ああ、と漏れる隼人のため息が熱くて、自分の名前を呼ぶ声が揺れている。
     シャツに指をかけると、それを止められた。
     顔を離して隼人の表情を窺うと、上目遣いにこちらを見る瞳はもう膜が張ったように潤んでいて、それなのになかの色が戻りつつある。
    「待て」
     そう言って竜馬の肩を掴んで姿勢を戻して、自分もふうと息をついてから、
    「花をちゃんと見せろ」
     と言う顔は、理性を取り戻そうとしているのが分かった。
    「……おう」
     意識がそれから離れていなかったことが、竜馬には物足りないような、でも嬉しいような、複雑な感慨を覚えた。
     ……俺より薔薇、か。
     花束を抱えてなかを覗き込む隼人の、またきらきらと光を浮かべる瞳を見つめながら、竜馬は大人しく待っている。


     ドアから部屋の中を見たとき。
     やっぱり真っ先に目が行くのはソファに座っている竜馬の姿で、こちらを見る表情がわずかに緊張しているのが分かって、なぜかほっとした。
     俺が怒っているのは気づいているはずで、それを流そうとしないことに、安心した。
     昼間、タワーに戻ってきた四人は「どうしても行きたいところがあって」としか言わなくてその詳細は尋ねなかったが、ひとまず無事に帰ってきて報告をくれたことが、嬉しかった。
     竜馬を除いては。
     何があったのか、話してくれるだろうとは思ったが。
     それでも、抱えた痛みがすぐ消えるわけではないのだ。
     視界をよぎる異質なものに気づいてふたたび目をやったら、それは薔薇の花束で、そのとき、これを買いに行っていたのだと分かった。
     これが、嘘をついた理由だったのか。
     俺に贈るために。
     忙しい隙間を縫って、おそらくタイミングが被ったのだろうなと、想像がついた。
     だから。
     悲しかった気持ちも、胸の底で焦げ付いていた不安も消えて、ただ嬉しいと思った。
     竜馬の気持ちを、今は優先して大切にするのが正解なのだと。
    「……」
     こんなことを。
     この男がするなんてな。
     言ったことがないからお前が知るはずはないが。
     紅い薔薇は好きだ。


     花瓶がねぇな、と竜馬が言って、ヤマザキに調達を頼もうかと隼人は考える。
    「お前に花なんて、どうかと思ったがな」
     と竜馬が笑う。
     こんな戦場で、薔薇の花なんか愛でている余裕はなくて、
    「だから贈ろうと思ったんじゃないのか」
     と返しながら、隼人はこの日を忘れずにいようと思っている。
     誕生日でも記念日でもない、いつもの日常に降った幸運なら。
     こんな記憶だけで生きていける。
    「それで?」
     花束をテーブルに戻した隼人に、竜馬が何でもない調子で声をかけた。
    「何が」
    「返事は」
    「返事?」
     何の、と言いかけて口をつぐむ。
     竜馬がこちらを見ている。
     その瞳から、きらきらと光が降ってくる。
     竜馬の意図がやっと分かる。
    「……」
     こんなことを。
     この男がするなんてな。
    「逃さねぇと、言っただろ」
     何度でも繰り返す。
     その気持ちを伝える機会があるのなら。
     竜馬の瞳がそう続けている。
    「そうだな」
     思わず笑いがこみ上げる。
     何だよ、と竜馬がそっぽを向いて、その頬に指を伸ばしながら隼人の瞳が歓喜で曖昧に揺れる。
    「竜馬」
     もらってくれるのなら。
     薬指にはもう絆の証がはめられているとしても。
     何度でも繰り返す。
    「俺を、捧げる」
     この魂ごと。


     紅い薔薇。
     揃えた本数が大した数でなくても、それがたった一本でも、今ここに在ることに意味が生まれる。
     これが、竜馬の誓いなら。
     俺は。
     何を以て報いればいいんだ。
     めまいがするようなこの祝福を。


    「……」

     絡む視線の奥で、裡に抱える愛は同じなのだと伝え合う。
     愛してると言えない。
     それを超える愛情を何と呼ぶのか、二人とも知らない。


    -了-
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