とはいえ大正時代に発禁本とされた怪しい本ばかり集めた本屋に、エロティックを求めふらりと立ち寄った💜がタイムトリップして大正時代に迷い込む話とか見たいっすね。
政治批判や神秘主義。偏ったジャンルの背表紙を素通りして、やってきた本棚には風紀を乱す本が立ち並ぶ。
知ったタイトルの本を一冊手に取り、パラパラとめくると、どうやら発行の際に削除された箇所がそのまま乗った、試し刷りのレアものだと分かった。
「この時代は『痴人の愛』も規制されてしまっていたんですね」
静かな店内では天彦の小さな独り言も、妙に響く。
店の奥に行けば行くほど、卑猥な妄想に取り憑かれた作家の詩篇、西洋の猥褻な翻訳本、中には異常性欲についての研究雑誌なども見られ、天彦は夢中になってしまった。
いつの間にか店の最奥まで足を進めていた天彦は、ふと「今は何時だろうか」とエロティックな描写が踊る褪せたページから顔を上げる。
ーー依央利さんの夕飯に間に合わなくなってしまう、それはいけません。
妙に暗く感じる室内に夕刻を過ぎた気配を感じ、本を棚に押し戻して足早に店の入り口へと戻った。
店に入った最初、入り口近くのレジには老年の男性が座っていた記憶があったが、今見るとそこには和装の青年が頬杖をついて座っている。
ーーおや、セクシーな気配。
そう思った天彦が青年の顔を認識した時、足がぴたりと止まった。
「ふみやさん?」
「ん? 何、随分とハイカラな人だな」
「え、なんで貴方がここに」
「なんで俺の名前を? 前に会ってたら一発で覚えそうだけど、どちら様?」
低く落ち着いた声、魅力的な喉元や、紫の瞳にチラリとかかる黒い髪の毛。そこに座っていた青年はまさしく伊藤ふみや、その人だった。
的なやつ。