御前試合の話(仮)フロイトは眼前に提示されたエアディスプレイの内容を眺めた。ACのこととなれば手放しで喜ぶような男だが、今回は視線を動かすにつれて表情を険しくしていく一方だった。対するスネイルの眉間の方が、よほどなだらかだった。
「御前試合、だそうですよ」
だが、抱えている感情はフロイトと同質のものであった。涼やかな声音と言葉の裏には、多分に苛立ちを含んでいる。
御前試合――要はヴェスパーがどれほど優秀で有用なのかを〝理解していただく〟ための、パフォーマンスの場である。戦績をはじめとしたこれまでのデータを見れば、ヴェスパーが如何にアーキバスに貢献しているかなど猿でもわかるというのに、「この目で見ないことには分からない」などと宣うのだから、上層部の連中にはほとほと呆れてしまった。だが、ここで難色を示して自分の――そしてフロイトの居場所を取り上げられては困る。ゆえに、スネイルは甘んじてその話を受けたのであった。その裡を怒りの炎で燃やしながら。
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