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    rstmomochi

    @rstmomochi

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    もうすぐ‪真ん中BD! 7/2

    現代王女パロ

    夜なべのお供に「プライド」
     囁くような声量でも届いたから、集中の途切れた頃合いだったのかもしれない。顔を上げると、ステイルが出てきたドアを後ろ手に閉めるところだった。
    「ステイル……!ごめんなさい、起こしちゃったかしら」
    「いえ。偶然目が覚めただけですので、お気になさらず」
     普段よりごく控えめな音でドアが閉じられる。数時間前は夕食が並べられていたリビングのテーブルの上に、今はノートと参考書が広がっていた。自室から持ってきた小さなデスクライトだけが手元を照らしている。
    「勉強ですか?」
    「ええ。明日小テストがあるのだけど、なんだか集中できなくて。……うるさかった?」
    「いいえ全く」
     ノートに解答を書き写す手を止める。スマホを開けばいつの間にか日付の変わる時刻だった。睡眠の邪魔になっていたなら自室に戻ろうかとも思ったけど、音で起こしちゃったわけじゃなくて良かった。
     ステイルは「飲み物を飲んだらまた戻りますから」とキッチンへ向かう。
    「プライドも何か、……?」
    「あっ」
    「用意する途中でしたか?」
     そうだった。言われて思い出す。給湯器に水を入れたままだった。
    「そのままで大丈夫です、ハーブティーでよろしいでしょうか」
    「いいの?ありがとう」
     立ち上がろうとしたのを口頭で止められて、お言葉に甘えて赤ペンを持ち直す。キッチンからはカチャカチャと小気味良い音が聞こえてきた。
    「茶葉まで出したのに淹れなかったのですね」
    「そう。その、この間のことがあるから……」
    「この間の……ああ」
     ステイルが納得したように呟いて、沸かしたお湯をポットにそそぐ。やっぱり聞かれた。くすくす笑う声がして丸つけを間違えそうになる。
    「今また警報が鳴ったら、起きる起きないの騒ぎでは済みませんね」
    「もう、ステイル……!」
     頬を膨らませると、「冗談です」と湯気の立つティーカップを置いてくれた。あれは少し間違っちゃっただけで、本当は一人でも紅茶くらい……!そう反論したくなる気持ちを飲み込んで、ひとまずお礼を言う。一口飲むとほっと肩の力が抜けた。
    「数学ですね」
     右後ろから声がした。頷いて、答え合わせの済んだノートのページをめくる。ほとんどは丸だけど、一問だけびっしり訂正で埋め尽くされて真っ赤だった。
    「あとできていないのはこの問題だけなの。でも、どこが間違ってるのか分からなくて」
    「少し見てもよろしいですか?」
    「もちろん」
     ステイルが私のノートを覗き込む。横目に見上げると、真剣な横顔がライトに照らされていた。
     眼鏡がないのが珍しくてまじまじ見てしまう。前髪を下ろした髪には寝癖のひとつもなくて、とても寝起きには見えない。むしろとかした後みたいに見える。これも攻略対象者のチートだったりするのかしら?
    「ここ」
    「っはい!」
     つい集中していなくてちょっと声が裏返った。深夜だったことを思い出して口を手で塞ぐ。ステイルは気にすることもなく「シャーペンお借りします」と、指示棒にしたペンでノートを指した。
     こういう時のステイルの集中力はすごい。見習おう、と姿勢を正す。
    「ここの計算、模範解答と解き方が異なりますね」
     ペン先が筆跡を辿り、ノートの上を滑る。トントン、と指された箇所を目で追う。もっと丁寧に書けばよかった。
    「そうなの。先に括った方が分かりやすいと思って……」
    「俺もそう思います。ただ、そうなると公式に代入する値が変わるので」
    「……。あっ!」
     ステイルがシャーペンを渡してくれる。言われた通り解き直すと、ようやく答えが合った。流石ステイル、まだ習っていないはずなのに。
    「解けたわ……!ありがとう!」
    「いえ、俺は何も……、!?」
     ぱっと顔を上げて振り返る。と、ちょうど間近で目が合った。丸くなる漆黒の瞳に私が映っている。
    「ッ申し訳ありません!!近かっ」
    「ステイル」
    「っ…………」
     後ずさろうとしたステイルの口に、しーっ、と人差し指を当てる。目配せでティアラの部屋を示せばこくこく頷きで返された。ステイルがぐっと口を結んだのを見て手を離す。
    「ありがとう、助かったわ」
    「……お役に立てたのなら良かったです」
    「もし良かったらまた聞いてもいい?」
    「俺でよければ、いくらでも」
     勉強道具を片付けながら、声量を下げてこそこそ話す。デスクライトを消すと、ステイルはスマホのライトを付けてくれた。
    「ですが、プライドならば一人でも最後には解けていたと思います」
    「そうかもしれないけど……教えてもらった方が頭の中を整理できるし」
     それに一人だと、と残った紅茶を飲み干す。
    「紅茶も、飲めないし」
    「それは困りますね」
    「……冗談よ?」
     ステイルが深刻そうに悩む素振りをするから、わざと口を尖らせてみせたあと、二人して小さく吹き出した。
     空になったティーカップが、まだほんのり温かかった。
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