遺書雅楽代 夜鷹へ
遺言を残しておく。
これを読むという事は、丹生桂一郎は抗争関係か、あるいはまた別の問題で死んだのだろう。
所有していた土地や建物、財産に関しては別に残した方にすべてまとめてある。
組に残していたものは全て処分、自宅に残してあるものに関しては雅楽代夜鷹に全て任せるという形にしようと思う。
好きに捨てるでも、残すでもしてほしい。
これを読まない日が続くことを祈ってはいるが、仕事柄いつ死ぬかわからないし、下手したら単なる事故で死ぬかもしれない。
もしくは、何か夜鷹に命の危険が迫っており、アイツの代わりに俺が死ぬ、という選択肢を取ったのかもしれない。
人間何が起こるかわかったものじゃないしな。
あまり長々と書くのも得意ではないので、簡潔に。
夜鷹。
お前と会った最初の頃から噛みついてくるお前が面白くて仕方がなかった。
そのくせ言葉巧みに煽ってくるお前が腹立たしくて仕方がなかった。
その余裕ぶった表情を崩して見せたいと思っていた。
思えば、そこからお前の事が好きだったのだろう。
兎角気に入らないし、気に入っていた。
最近になってようやっと、自分の感情を、お前に対しての恋慕を理解する事が出来た。
これを恋慕と呼ぶにはあまりにも重い気もするが、俺達にはちょうどいいだろう。
ずっとお前を好いていた。
ずっとお前を愛していた。
俺が死んだ後も、どうか、俺だけを見ていてほしい。
誰かのものになる事もないまま、そのまま俺だけに縛られていてほしい。
きっと誰かのものになってしまったら、地獄から化けて出てくるかもしれない。
なるべく、そうならないでいてほしい。次に会うのは地獄がいい。
どうか、俺の物のまま死んでくれ。
この手紙の近くに、扇子を置いておいた。
もし気に入ったのなら、これを使って落語をしてほしい。
気に入らなかったら、そのまま捨ててくれ。
きっと俺はいい後生を迎えるんだろう。
それもこれもお前のおかげだ。
ありがとうな、夜鷹。
お前の事をいつまでも愛している。
丹生 桂一郎
死にたくないなあ