とある朝の日常柔らかな明かりに浅く目が覚める。
目はまだ開けられないけど、意識は段々と浮上して行く。
まだ寝ていたいのにと思いながらもどんどん意識は覚醒へと誘われる。ならばと最後の抵抗に隣にある筈の熱をと手を伸ばすもそこには何もなく空を切るだけだ。
おかしい。
いつもならすぐ側にいてくれるのに。裏切られた気分で目を開ければやはりそこには何も無かった。なら何処に?もう出掛けてしまったのだろうか?いや、今日彼は休みだしこんなにも早く出掛けるなどない。
窓からの明かりでまだ明け方過ぎくらいだと判断する。私の起きる時刻ではないが彼なら起きていてもおかしくは無い。
なら一体彼はどこへ?
彼のいない隣がとても冷たい。まるで元からいなかったかのようだ。
今まで見ていた物語全て、あのラスボスのプライドが見た、ご都合主義の満たされた夢だったのではないか?とまで思ってしまった。
だったら目など覚ましたくなかった。
生ぬるい温度のお湯に浸かったまま死にたかったな。もう一度眠ればまた同じ夢を見れるのだろうか?
まだ寝惚けた頭でそう考えていると、パラリと音が聞こえた。とても小さな音だが確かに聞こえた。
王女である私以外がこの部屋にいる、と分かれば即身体を起こし部屋を見渡す。ソファに彼の後頭部が見えれば心がギュッと痛んだ。
いた。
喉の奥が痛みを訴える。泣きそうになりながらも我慢して彼の名を小さな声で呼べば彼が振り返る。
間違いなく我が愛しき彼なことに安堵した。
「おはよ。起こしたか?」
「……ううん」
パタンと本を閉じた彼が私の方に来てくれる。その眼差しはいつもと変らず優しい。
「本は?」
彼の指が私の頬を撫でてくれる。大きくて硬くて少しカサついてる私の大好きな騎士の手だ。
私が手を添えればいつもの様に指を絡ませて繋いで指先にキスをくれる。
「区切りが良かったから後で読むよ。寂しかったのか?」
私の冷えた心を癒やすように顔中にキスをしてくれる彼に私からもキスを贈る。そしてカラムはベッドに座りいつもの様に頭を撫でて抱きしめてくれた。
「ねぇまだ眠いわビザ枕して」
「畏まりました、我が愛しきプライド」
カラムがベッドに座り直したところで膝に頭を置く。
彼の変わらない硬い太腿、熱、香りを満喫すれば、やっと心が満たされた。
彼がいる。
私を愛してくれている。
彼は私の伸ばした手を必ず掴んでくれる、それが私の現実だと、やっと実感出来た。
「今度は私がしてあげる、ひざ枕」
だから今はうんと甘えさせて、朝が来るまで。
「それはとても楽しみにしているよ」
カラムの指が私の頭と髪を撫でる。これが現実だと信じて私はまた眠りにつく。
朝が来れば私は王女にならなければならない。だから今だけは
ただの彼の妻でいさせて。
ある朝の日常。