密室の恋??ガタン、ゴドンという音と衝撃に目を覚ます。
「ん?ここは……??」
「起きられましたか?」
至近距離から声を掛けられ見上げれば思った以上に近くにカラム隊長の顔があった。
「キャッ!?」
思わず後ろに飛び上がった。
「危ない!!」
すぐに彼の腕が頭と肩をガードするように後ろに回り、引き寄せられ、逆に彼の胸へダイブすることになった。
何!?と思ったけどすぐに今いる場所と状況を思い出せば壁に激突する寸前だったのだと理解する。
鍛え上げられた胸板が衝撃を吸収してくれたから全く痛みはない、が。
「────……ッ」
じわじわと寝ぼけてしまったこととカラム隊長の胸に抱かれている状況を理解すれば身体中熱で熱くなる。
「大丈夫でしょうか?」
「大丈夫……です……」
カラム隊長の腕が緩んだところで身体を離し隣に大人しく座る。
「良かったです」
笑顔のカラム隊長は普通だ。
そりゃそうだ、彼からすれば私は主人で護衛対象、今のも騎士として守ってくれただけ。
改めて自分の今の状況を確認すれば、カラム隊長の団服が私の肩に掛けられ、カラム隊長と私の間に置かれたクッションが私を支えてくれていたのだろう。
勝手にカラム隊長の肩を借りた上に団服とクッションで完全に寝て下さいというこの至りつくせりな状況に〝子守り〟という文字が頭に浮かんだ。
カラム隊長からプレゼントされた花言葉を思い出せば全くその通りだ。
カラム隊長が団服を脱いでも気づかないほどぐっすり眠ってしまっていた事が今更ながら恥ずかしい。
成人した王女、そして次期女王がこれでいいわけがない。本当に迷惑を掛けてしまった。
「心配かけてすみません。肩もクッションも団服すらお借りしてしまい、あの…ありがとうございます」
「いえ、昨日今日はとてもお疲れでしたから仕方ありません。まだ国は遠いですし、もっとおやすみ頂いても構いませんよ。見守っていますのでご安心ください」
本当に優しいことを言ってくれる。
少し遠い国の式典に昨日は参加した。
式典の時間が押したことで帰りの時間が遅くなり、夜あまり眠る時間が取れなかった。そして昼間は滅多に見られないその国の市場などを楽しんだ結果、国へ帰る帰路でその疲れが出てしまった。馬車の揺れに思わず気持ちよく眠りの世界へと誘われてたのだ、カラム隊長の肩を借りて。
「団服はお返しします」
「いえ、それは嫌でなければまだお使いください。窓から冷気が入って来てますので身体が冷えてしまいます」
団服を返そうとするもその手を止められる。
確かに団服のおかげで寒くはなかったが、今カラム隊長は薄着だ。大丈夫か聞けば笑いながら鍛えてますので、と言われてしまった。
確かに細身に見えても我が国の騎士団の隊長だ。先程の胸板の感触を思い出せば、頼もしい身体をしてらっしゃると実感も出来る。
ならば有り難く使わせて貰おう。
今この馬車の中にいるのはカラム隊長とアラン隊長だけ。
向かいからアラン隊長がいつもよりニヤニヤとした笑顔で私とカラム隊長を見ていて、それが更に恥ずかしくて目線が下がってしまう。
カラム隊長が「アラン」と厳しい目線を投げても「わりー」と謝るだけで全く反省はしていない。そんなにも私がカラム隊長の肩で寝ていた姿が遊びにはしゃぎ疲れた子供に見えたのかしら?
改めて団服を見る。我が王国の騎士団の団服の中でもたった10名しか着ることの許されない隊長服だ。新兵や本隊騎士の団服もかっこいいがやはり金糸の刺繍が入ると更にかっこよくなる。
「あの、こちらに腕を通しても宜しいですか?」
「?ええ、構いませんが??」
許可を貰い腕を通すとドレスの膨らんだ袖が邪魔をするも何とか通った。もう一方も通して、そして前を閉めようとするも
「あ、あれ??」
残念ながら私のラスボススタイルとドレスの膨らみが邪魔をして閉じれないようだ。
「プ…ライド様……」
「ううっ……」
まさか閉まらないとは思わず、恥ずかしさにかぁ〜と顔が熱くなる。
ドレスを着ているのだから隠す必要はないのに何となく団服の前を引っ張って胸を隠すもやはり届かずに返って恥ずかしい。
私のそんな姿にカラム隊長も真っ赤な顔をし、アラン隊長は苦笑いであちゃーって顔だ。
「す、すみません、カラム隊長が貸してくれたのに……」
「い、いえ、私は構いません……」
着る服を選ぶこのラスボススタイルが憎くなる。
マリーとロッテが作ってくれる戦闘服は私に合わせてるから余裕があるのだと改めて感謝した。
「騎士団の団服がかっこよくて、着てみたかったんです……小さい頃にしか着たことなので……」
騎士団奇襲事件で騎士団長から団長服を着せて貰ったことを思い出す。あの頃は子供だったからぶかぶかで、引きずっていた。それはそれで恥ずかしかったなと思い出す。
「でも無理なようです……」
しょんぼりとしてしまう。
「ドレスを脱げば入るとは思うんですけど」
「それは!?」
ぶわぁぁぁと瞬間的にカラム隊長の顔が真っ赤になった。
「あ、大丈夫です!!流石にそんな時間までお借りしませんから!!ちゃんと馬車降りる時にはお返しします!!」
カラム隊長の驚きに慌てて否定する。流石にカラム隊長から団服を奪ったラスボスに見られたら大変だ。団服を剥ぐなど騎士には屈辱的なのだから、そんな辱めカラム隊長には出来ない。
「そういうわけでは……いえ………」
などブツブツとカラム隊長が何かを呟くも口を手で隠しているのでよく聞き取れない。が、耳まで真っ赤だ。
アラン隊長はそんなカラム隊長を見てまだ苦笑いをしている。だが私と目が合えばニカッといつもの笑顔を向けてくれた。
「プライド様、よろしければ俺の団服貸しますよ。カラムのより大きいのでドレスのまま入ると思います」
「本当ですか!」
確かにアラン隊長の大きな団服なら入るかも!
ルンルンでカラム隊長に手伝って貰い団服を脱いで返し、アラン隊長の団服をお借りする。
腕を通せばやはりカラム隊長の時よりは少し余裕がある。ならこのまま胸部分を納められれば、と前ボタンに手を掛ける……も。
「プライド様?」
モタモタする私にアラン隊長が首を傾げ、カラム隊長も「どうしました?」と聞いてくれる。
「………ボタンが、硬くて着ることが出来ません」
思った以上にボタンの穴が小さく、また生地も分厚く硬くて上手くボタンをする事が出来ない。
服が着られないなんて子供のような私の恥ずかしい姿にアラン隊長は盛大に吹き出した。
「アラン!!」
「わ……わりぃー……すっすみません…プラッイ…ド様……ぶはははは………」
カラム隊長が叱咤するもアラン隊長は息も切れ切れに謝罪の言葉を紡ぐのがやっと、今もお腹を抱えて笑いは止まらない。アラン隊長は悪くない。今ここにアーサーがいたら確実に笑うだろし、私だってまさかこの歳で服が着られない等、他人なら笑ってしまうかも知れない。
「いえ、今はアラン隊長に笑って頂いた方が、心が楽になります………」
王族は自分で服の着脱等殆ど行わない。そして私の致命的過ぎるラスボスゆえの手先の不器用さ、だからこそ少しでも固いボタンでも四苦八苦してしまう。
「我々の団服は傷や衝撃に強く、厚く固く作られていますのでプライド様が着脱出来ないのも仕方ありません」
カラム隊長は一切笑うこと無くフォローしてくれる。
本当に大人でお優しい御方だ。もしかしたら彼も貴族故に何か思うところがあるのかも知れない。騎士団の生活は基本全て自分で行わなければならないのだから。
アラン隊長もやっと笑いが収まったようだ。
「すみません、プライド様。馬鹿にしたわけではありません、ただとても可愛らしかったので、つい」
「可愛らしい!?」
私が!?と思ったがアラン隊長から見れば私はまだまだ子供なのだろう。私もセフェクやケメトが失敗すれば可愛いと思うし場合によっては笑ってしまうかも知れない。
「新しいのは俺達でも難なことありますよ」とまだ涙滲む目を擦り明るく言ってくれた。
「カラム、プライド様の服のボタンしてやったら?」
突然のアラン隊長の言葉にカラム隊長は「なっ!?」と顔を赤くしアラン隊長を睨む。
「だって、プライド様は着たいんだぞ?お前なら人のボタン止めるの慣れてっだろ?」
「あ、ならお願いしたいです!」
カラム隊長が何か言う前に私が先に声を出してしまった。「いえ、それは…」とゴニョゴニョ言うカラム隊長だったが「お願いします」と私が頭を下げれば、困りながらも了承してくれた。
「それでは、失礼します」
私とカラム隊長は長椅子の隣に座りながらも身体を向き合わせる。カラム隊長は顔が赤いが大丈夫だろうか?心なしか手も震えている。やはり王族である私の服を直すのが怖いのだろうか?失敗してもしょっ引いたりはしないのだが。
そんな私の心配も余所にカラム隊長はアラン隊長の団服を少し引っ張って一番上のボタンをすんなりと止めた。
「苦しくはないでしょうか?」
「はい、大丈夫です」
全く問題はない。カラム隊長も慣れた手付きで2つ目以降も難なくボタンを止めてくれる、顔は真っ赤なまま、指先も震えているけどとても器用だ。さっき慣れているとアラン隊長も言っていたし、誰かのボタンを止めてあげているのだろうか?
だが私の胸付近でやはり団服の余裕がなくな戸惑っている。もっと強く引っ張れば余裕は生まれるのだが、紳士的なカラム隊長だからこそ無遠慮に引っ張る事も出来ないのだろう。
「あの、もっと胸を潰しても大丈夫です」
「むねをつぶすッ!?」
「はい、こう……どうでしょうか?」
私が自分で服の上から胸を潰せばまた少し余裕が出来る。カラム隊長は私を待たせないようにか素早くボタンを止めていく。その顔はさっきよりも真っ赤で焦っているようにも見える。
私が押さえていた手を離すと胸は元に戻り窮屈さはあるもののこれでやっと着れる!!という達成感で胸がいっぱいになる。
最後までボタンを止めてくれたカラム隊長にお礼を伝えれば「いえ……」とだいぶお疲れの声が返ってきた。
やはり二の腕、肩、胸は窮屈だが激しく動かなければ大丈夫だろう。
本当なら立ち上がって姿見の前でくるくる回りたかったが今は馬車の中、大人しく座って自分の姿をルンルン気分で見つめる。やはりかっこいい。
「これで少しは騎士の気分になれました!」
「……それはとても、良かったです」
息を吐き、だいぶ顔色の戻ったカラム隊長は優しく笑ってくれた。が、正面を向いてムッと怒った顔をする。なんだろうと私もそっちを見てみれば、先程から大人しいと思っていたら……真っ赤な絵の具を塗りたくったような顔色のアラン隊長がいた。
「なんで団服を貸したお前がそうなっているんだ!!」
カラム隊長は怒りからか呆れている。
大丈夫だろうか?アラン隊長はたまにこうなってしまうことは知ってはいたけどいつも心配になる。
「アラン、アラン、おい、なんでいつもいつもお前はそう極端なんだッ!!」
隣ならバシバシ肩や背中を叩いているのだろうが、今は向かい合っているからアラン隊長の太腿をバシバシと容赦なく叩くカラム隊長。
だがアラン隊長の意識が戻ってくることはない。
「アラン、勤務中だ!アラン!!こら動け!!」
昔のTVのようにバシバシ叩いて再起動させようとするカラム隊長だがアラン隊長は全く戻ってこない。アラン隊長の太腿そんなに叩いて大丈夫だろうか?
「アラン隊長」
私もあまりの顔色と呆けた姿に心配になり、そっと手を伸ばした瞬間だった。
ガタンッと馬車が大きく揺れ、私は前屈みから勢いよく後ろの背もたれに背を打ち付ける。
カラム隊長も今度は反応が遅れ何とか壁と私の頭の間に手を滑り込ませるのがやっとだった。
アラン隊長も私の危機にやっと目を覚ましたようだが、遅かった。
私はというと、カラム隊長の手と背もたれのクッションがあった為怪我も痛みも全くなかった。
だが、ブチッと嫌な音が私の耳に届くと共に窮屈だった胸が一気に開放された。
そして3人は見た。
スローモーションで弾け飛ぶ重厚なボタンを。
瞬間的に私はあまりの恥ずかしさに顔を覆ってしまう。
「プライド様お怪我は!?すみません反応できませんでした!!」
「申し訳ございません!大丈夫ですか、プライド様!?」
カラム隊長もアラン隊長も立ち上がり私の身体を確認してくれる。「大丈夫」となんとか呟くも顔から手を退けることは出来なかった。
それが更に2人の不安を仰ぐと分かっていても「大丈夫」としか言えない。身体は何とも無い。
だが、心の中は暴風雨が吹き荒れていた。
豊満な胸元のボタンが何かの弾みで吹き飛ぶ、それは漫画やアニメではよくある描写だ。それもラブコメイベントとしてベタ中のベタで、今では完全なるギャグの域だ。
私もアニメや漫画やゲームで何度も見て笑った記憶がある。
こんなことになるわけ無いじゃん、と当時は今よりも大きく無かったからギャグとしかみていなかった。
それなのに疑っていた自分がそれを実証してしまうなんて……。
飛んでいくボタンも、それをキャッチするアラン隊長の手の動きもバッチリとスローモーションで見えた。それも昔見たアニメのままに。
この乙女ゲームの世界で1人でラブコメのような展開を繰り広げてしまったのが恥ずかしすぎる。
そしてもしこれが本当の乙女ゲームのラブコメであれば目の前の2人の男性、もしくはどちらかが攻略対象者で顔を赤らめたり、爆笑したりとその事にリアクションをしてくれるのだが、残念ながら2人共この状況の意味を全く理解していない。
弾け飛んだボタンにも、はだけた団服にも気付いたところで何も思わない。
ひたすら私の身体を心配してくれるだけだ。
当たり前である。この世界に本はあっても漫画やアニメ、ゲームは存在していない。本だってその殆どが貴族向け、そんな下品なラブコメ話など売っているわけはない。
彼らからすればただ、ボタンが飛んだだけ、しかも下が裸や下着ならまだしもドレスである。はだけたところで私が恥ずかしがる理由が分かるわけはない。
裸足を見られるよりも穴の空いた靴下を見られた時の方が恥ずかしい、そんな心境を説明しろと言われても出来ないようなものだ。
「大丈夫です……少し驚いてしまっただけです。……すみません、アラン隊長。団服ボタン飛んで壊してしまいました。騎士の誇りなのに、すみません……」
「いえ!!そんなことよりプライド様が無事ならいいんです!!俺こそ申し訳ありません、俺が不甲斐ないばかりに危険に晒してしまいました」
「「申し訳ありません」」
とアラン隊長だけでなくカラム隊長まで頭を下げられた。
「いえ!?私がこんな我儘を言ってしまったのが発端ですし、本当に身体は大丈夫ですから!頭を上げて下さい!お2人にはいつも守って頂いて感謝しています!!」
頭を上げるもやはり2人共、複雑そうな顔をしている。
「あ、団服ボタン付けてから返しますね」
「いえ!自分で付けられますので!!」
「ですが、私が壊してしまったので。大丈夫です、マリーもロッテも団服は作り慣れていますので」
ここで私がと言えないのがもどかしいが、大切な団服はやはり素人の手には負えない。ただの服ではない、命を守るものだから。
「いえ、プライド様のお気持ちは有り難いのですが……」
アラン隊長は目だけでカラム隊長に助けを出した。
「横から失礼します。これくらいの事であればアランはしょっちゅうですので慣れております。それに我々騎士がボタン付けの為だけにプライド様、そしてその専属侍女の大切な時間を消費する方がアランも心苦しいとのことです」
カラム隊長の説明にアラン隊長の方を見ればうんうんと頷いている。
本当に2人は仲良しだな。まるでステイルとアーサーのように息がぴったりだ。
そこまで2人に言われたら今返した方がいいだろう。私も自分で出来るなら食い付けるが、専属侍女とはいえ私のせいで仕事を増やすのも悪いだろう……。
「分かりました。ではお返しします」
その返答に2人もホッとしたようで長椅子に座り直した。
さて脱ごう、とボタンに手を掛け───
恥ずかしさで再び真っ赤な顔を両手で隠す。
「ごめんなさい、本当にごめんなさい」
「いえ、これくらいなんてことありません……」
団服を脱ごうとしたところで私一人では脱げずカラム隊長の手を借りる羽目になってしまった。
アラン隊長は身体ごと後ろを向いて声は押し殺しているがお腹を押さえその肩は大きく震えているのを見れば大爆笑しているのは明らかだ。
カラム隊長も今はほっとく事にしたようだ。
しかし……、と罪悪感はありつつも、カラム隊長の顔を至近距離で見るのも目のやり場に困る。
この乙女ゲームの世界の貴族だからか、凄く顔が綺麗なのよねカラム隊長。攻略対象者のステイルとアーサーにも負けてないイケメンだし、そこにこの大人の魅力はとても素敵過ぎる。これで女性がいないのが本当に不思議だ。
いや、直接は聞いたことないから真実は分からないけど、婚姻をする気もなかったと言っていたし、今も婚約者候補を辞退しないのはそういう事なのだろう。
いや、貴族でないアラン隊長やエリック副隊長もイケメンだし、ハリソンさんも……怖いけど顔は整っているのは間違いない。ロデリック団長とクラーク副団長もイケメンだし、そう考えると騎士団の隊長格以上のイケメン率高すぎるのよね。顔は選考外な筈なのに、不思議ね。
それで今私はそんなイケメンのカラム隊長に服を脱がして貰っているのだが、着せて貰っている時は団服が着れるとワクワクしていたけど、脱がされるのは……その……なかなかに恥ずかしいものだと知った。
顔を見つめるのもと思い、スルスルと簡単にボタンを外していくカラム隊長の手の動きに注目する。本当に器用で、脱がすのも慣れている手付きに思えてやはり目が泳いでしまう。
マリーやロッテのように小さい頃からして貰っている同性ならまだしも、今目の前にいるカラム隊長はその……男性だ。
しかも私の婚約者候補であり、つまりはもしかしたら未来こういう事をする相手かも知れ────そこまで考えて、かぁ~と顔だけでなく身体が熱くなる。カラム隊長の顔や手先から目を逸らしたらいつの間にか復活したアラン隊長とバチッと目が合った。
そしたらフッといつもは見せない大人の顔で笑われてしまった。
ボッと頭から火が出たのではないかと思うほど身体が熱くなった。
「プライド様どうかされましたか??」
カラム隊長が不思議そうな目で私を見る。その顔は相変わらず赤くて、それがやはり夜を思わせて慌てて首を振る。
「ダダダだ大丈夫です!!!」
全く大丈夫ではないのに、それどころかカラム隊長からすれば何故突然私が発熱したのか分からないだろ。
「あーカラム終わった?」
不思議そうなカラム隊長が口を開く前にアラン隊長が話しかける。
「ああ、全部外しは終えた。後は腕を抜くだけだ」
腕、つまり今から私はカラム隊長に脱がされる……?
いやいやいや、下はドレス!!おかしくは無い!!カラム隊長はみっちり詰まっている私の腕を抜くのを手伝ってくれるだけだもん!!
私が「お願いします」と後ろを向けば、カラム隊長の手が丁寧にアラン隊長の団服を押えてくれる。
さっきまで全く気にならなかったのに後ろにカラム隊長がいるって思うだけで何故か心臓が激しく大きく脈動し身体全身に熱を送り耳すら圧迫しているようだ。
早く脱いで終わらせたいのに私の袖はやはり団服の袖にみっちり詰まっていて全く抜けない。
わたわたして更に混乱して、腕を抜くだけでなんでこんなにも大変なのだろうか??
「あの、プライド様」
「は、はい!?」
腕が抜けなくてモタモタしていたらカラム隊長から呼びかけられ、驚きに声が裏返った。
「腕は一本ずつ抜いたほうが早く抜けるかと思います」
「そ、そーですね……」
呆れたようなカラム隊長に涙目で答えるしか出来ない。
焦っては駄目だということを学んだ………。
再びクククッと肩を震わせて笑い出したアラン隊長、流石にカラム隊長が「アラン!!」と一喝してくれたけど、「わりぃー」と謝りつつも笑いのツボに入ったようでしばらく笑い転げていた。
それを見ながら私はアドバイスされたように一本ずつ腕を抜くのだった。
今は子供のように笑っているアラン隊長だが、さっき見せた大人の男性の顔もアラン隊長なのだろう。
あれは私がカラム隊長を婚約者候補と意識したから……??
もし、カラム隊長が私を女性と見てくれる日が来たら、その時はどんな顔をするのだろうか??
やはり恋愛経験のない私には想像出来ない。
さっきのアラン隊長だって、あれだけが彼の大人の男性の魅力ではないだろう、本当に見せたのは氷山の一角なだけなのだろう。
やはり大人な2人から見たら私は子供なのだと心で泣いた。
早く私も大人になりたい。