鉄は熱いうちに打て「で、どうする?」
「どうするって……」
そう言われてもとカラムの眉間は未だ深いシワが寄っている。
やってきたのはアニメのグッズなどが売られている店の一角、今ここで自分たちの顔がプリントされたクッキーと飲み物が買えるのだ。しかも特典付きであればプライドの姿がプリントされたコースターまで貰えるという、これを逃す手はない。すぐに売り切れてしまうと発売日の朝イチで訪れた。
「8巻のコースター当たったら嬉しくね?」
そうアランが言えばカラムは真っ赤な顔をして顔を背けた。その顔から「欲しい」と思っているのは明らかで思わず笑った。
「ま、俺は4巻のコースターかな。どれもすげぇ綺麗だけど、この凛々しい顔はこれだけだしな!」
「お前は毎度毎度恥ずかしげもなく……!」
アランからすれば好きなものを好きだと言うことに恥じを感じたことはない。本人に面と向かって言うことは恥ずかしいが周りに言うのは全く躊躇はない。
「好きなものは好きなんだから言えばいいだろ?」
「っ……」
なんてことなく言うアランにカラムは口を一文字に結ぶしか出来なかった。
カラムも面識もないTVの女優やアイドル相手であれば口に出すことは無くともここまで恥ずかしい気持ちにはならなかった。
だが、この国の王女であるプライドとは面識があり、それだけでなく、仲睦ましくして頂いている手前、安易に口に出来ない。
「あーエリックとアーサーも都合付けば良かったのにな」
「そうだな」
真っ赤な顔で俯いてしまったカラムに、仕方ないと、少し話を逸らせばカラムもまた口を開いた。2人を誘おうとしたものの、本日は平日。たまたま空きのあった2人と違い、まだ高校生のアーサーと学年の違うエリックは授業がある為誘えなかったのは残念である。
「お、この機会で注文すんだな!」
アランが店の前に置かれた注文機械の前に立ち操作を始める。カラムも後ろから覗けば広告通りの絵柄のクッキーが表示された。
「やっぱり最初はプライドだろ?」
「プライド〝様〟だ!」
カラムの言葉にアランは聞こえてないかのように自分の欲しいものを注文していく。その操作に戸惑いも淀みも全くない。
「おい、アラン!」
「ん?」
「なんでプライド様と自分のクッキーだけ注文しているんだ!!」
プライドを2枚、プライドとティアラが一緒のを2枚、アラン4枚、計8枚を注文するアランにカラムの顔が信じられないと歪む。
「だってコースター全部で9枚だろ?なら最初にクッキー8枚頼んで、1つはドリンク。これで特典は計9枚になる。欲しいの出なかったらまた追加すればいいだろ?」
「そうでなく!なんでプライド様と自分のしか注文しないんだ!」
「ん?だってさ、9枚で全員は買えないだろ?誰かを省くのもなんかわりーからさ。だったら最初から俺とプライドだけ買えばいっかーってなって、ま、食べたら消えっから誰を買ったかなんてみんな気にしねぇだろうけどさ」
なんてことないように言うアランにカラムはぷるぷると身体を震わせる。プライドを呼び捨てにした怒りではない。
(なんでこの男は自分で、〝自分の顔〟を買うことが出来るのだ!?)
同じ顔を複数枚買うことに抵抗がない目の前の男を恐れたのだ。特にこういう商品は人気順に皆買うもの、つまりは自分の顔を、それも複数枚買うというのはナルシストと同じだ。
もちろんアランはナルシストなわけでは無いことはカラムならよく知っている。
カラム自身、特典のコースター狙いで来たものの1人ではここに入る事さえ出来なかった。丁度よくアランも行くというので便乗させて貰ったのだ。
そしてここに来てからも何を何枚買おうか決まらず悩んでしまっていた。
自分の顔を買うなど店員にどう思われるか。だが、カラムも誰を買うか、誰を省くかは未だ悩みの種であった。何せ全員と面識もあり、言葉も交わし、それなりの交流もあるのだから。
(なんて潔い奴なんだ……)
確かにその買い方なら誰にも迷惑は掛けないだろうし、皆が納得する解決方法だ。だが、自分には到底出来ない。
未だ信じられない顔でアランを見つめるカラムをほっとき、アランは更に注文を進める。注文画面に表示されたのはドリンクの種類だ。
「コーヒーでいいっか!」
ポチッと飲み物とプライドの絵柄を躊躇なく押すアラン。
出てきた注文票を受け取ったアランは「ほら」と未だアランを見つめるカラムに場所を譲る。
カラムは更に眉間に皺を深くし、ふぅーと一息ついてから髪を指で触り、心を落ち着かせてから注文機械の前に立った。
その顔にはもう迷いは無かった。
「で?特典はどうだった??」
注文を終え、ドリンクと共に渡された特典をカフェの椅子に座り見る。
「一応全部揃った」
「やったな!で、何がダブったんだ?」
カラムは置かれていた今回のチラシの中から複数枚手に入れた物を指さす。それにアランはにっこにこと笑顔を返した。
「んじゃ、これとこれ交換してくれ!」
「ああ」
ランダムで渡された特典、残念ながらアランはコンプリート出来なかったが、カラムはクッキーを全種類+ドリンク1種類を選んで計13個の特典を買った為、一度でコンプリート出来た。
その中からアランがダブった物を交換する。
「んじゃ、後でもう一回買ってくるわ!」
「ああ」
それでもコンプリート出来なかったアランは後で再び並ぶ事にした。
「先に逆再生をさっさと撮っちゃおうぜ!」
そう言うと自分の携帯のカメラを起動させる。
「本当に崩すのか?」
ここに来てまたカラムの腰が引ける。
目の前に浮かぶ泡には麗しいプライドの姿が。これを崩すのには勇気がいる。
「んー、でもさ、これ長く保てない言うしさ。だったら綺麗な内にぐちゃぐちゃに掻き回して飲んじまった方が面白いだろ?」
アランの言う通りだと分かっていても形あるもの、それも想い人がプリントされた泡を崩すことにカラムには抵抗があった。
「まずは俺の方からやるからカメラで撮っててくれ。流石に片手だとやり辛いわ」
「ああ、分かった」
流石のカラムの他人の買ったものに対して反対は出来ない。素直に携帯を受け取ろうとするも
「あ、待ってくれ。最初にツーショットを撮るから」
「っ!!」
アランは自分の顔がプリントされているクッキーをプライドの印刷された飲み物に近付け写真を撮り始めた。それだけでカラムは顔を真っ赤にさせた。
「ま、お前も後でやっとけ。このドリンクとのツーショットは今しか出来ねぇんだからよ!」
「………………」
確かにこれは今しか出来ない。期間中にまた来てやることも出来るが、1人ではとてもここに来る覚悟は出ない。
そしてそして今しなければ一生後悔することも想像に容易い。返事の代わりに赤い顔のまま目線を逸らすカラムだった。
ぐるぐるとアランが木べらを回すとどんどんとその麗しい姿を失っていくプライド。2周、3周とすればもう原型は留めていない。
カラムはあまりの事に『もういいだろ』と言いたくなるが、手に持つカメラに音声が入ってしまうとぐっと堪える。
「ん、これぐらいでいいだろ」
上機嫌な声が終わりを告げ、停止ボタンを押した時にはもうそこに何が描かれていたか分からないピンクと白い斑模様の泡が浮いていた。
今から自分もやるのかとドリンクを見れば印刷されたプライドの姿はさっきよりもしっとりとして崩れ始めていた。
確かにこれは勿体ぶっていると麗しい姿がどんどん失われていく。まるで九相図のようだと一瞬だけ思ったが、縁起でもないと自身を叱咤する。
「じゃまずはお前とのツーショットから撮ろうか!」
ぽんとアランに軽く背中を叩かれ、カラムは力なく首を垂らしてゆっくりと振る。
まさかここまで来てやらないつもりか?と思ったアランだったが、
「もう一度買ってくる」
とボソッと言うカラムの言葉に大きく口角を上げ歯を見せた。
カラムはそれを背中で感じながらも手に財布を持ち、若干頭を垂れ、トボトボとした足取りで注文機械の前に行くのであった。
その後、カラムの部屋にはしばらく特典のコースターと共に全員のクッキーが賞味期限間近まで飾られ続けたのであった。
おまけ。
「で、誰から食べるんだ?」
「……お前から食べてやるよ」
「好きな奴からか〜」
「はぁッ!?」
後書き。
『薔薇が似合うカラム』の次は『プライド様なら飾りそうなカラム』ですか、そうですか。
物凄く分かりますし!!
何よりも貴方とカラム先輩の仲の良さに悶えるんですよ!!私は!!
ということで妄想第二弾です。
カラム先輩の財力ならもう一周ニ周してもおかしくない気がするけど、オタクでないから1個あれば十分と思うだろうなと。
で、ドリンクも特典付き買ってアランのコンプリートを手助けするのです。
初日の朝イチなので、他のお客様でガヤガヤしながら開店を待つ、整理券有り、とは思いつつ、そこら辺のリアリティは消しました。
そしてあのおちゃらけ世界は現代パロでないことも理解しつつ敢えての現代パロです!
だって、カラ隊長ならツーショット撮らないだろうしさ……大学生なら欲望のまま葛藤しつつ負けてくれるかな?って……。
カラム先輩はどのコースター好きなんだろ?やっぱり7巻なのかな?でもこっそりと8巻は大切にしていると思うんだよ。想い人と親友とのスリーショットだしさ。何だかんだでカラム先輩アラン先輩のこと大好きだし。
そして何よりもあのプラ様可愛いしさ。
絶対、青薔薇渡された時を思い出して顔を真っ赤に染めてると思うんよ!!
頑張れカラ隊長!!
妄想突貫ss読んで頂きありがとう御座いました。
本当にアラカラ好きです!!
毎回アラカラですみません!!
アラカラ好きです!!