全力で寄りかかるカラムの膝に頭を乗せ、手持ち無沙汰の手で太腿を撫でる。服の上からでも分かるほど筋肉質の硬く太い感触が気持ちいい。
「プライド。本は?」
「読み終えたわ」
一度読んでしまえば頭に入ってしまうこのラスボスチート、勉強に使えば便利ではあるが、物語等でもう一度同じ感動を得たいと思っても忘れてくれないというマイナス点もある。だから一度読んでしまった本を再び開こうとは思えなかった。
「そうか……」
パタンとカラムが読んでいたページに栞を挟み本を閉じた。
「あ、カラムは読んでて!」
「こんな悪戯されたら読んでいられないよ」
カラムの大きな手が私の手を包んで止める。考えてみれば他人に下半身を撫でられて気が散らないわけがなかった。とても悪いことをしてしまった。
「ごめんなさい」
「いや、区切りもいいところだったから気にしなくていい。暇なら身体を動かすか??」
「ステイルに怒られないかしら?」
「小言は言われるな」
「ダメじゃない」
クスクス笑うカラムにムッと頬を膨らます。
「小言は全部私が聞くから気にしなくていい。鍛錬場へ行くか?」
「……いえ、今日は大人しくしているわ」
婚姻してからカラムは私と手合わせしてくれるようになった。ステイルには毎度小言を言われるけどカラムは一切気にしてない。近衛騎士だった頃なら絶対にあり得ないことだけど、私と婚姻して王配という立場になり、カラムは変わった。自分の立場を理解し適切に行動している。
切り替えが上手いと思ったが、カラムから「生まれてからずっとそうやって生きて来た」と聞けば納得もした。
貴族として厳しく教育されたカラムには立場によって態度を変えるのはごく普通のことなのだろう。
だから今は王配として、そして私の前では夫として……
カラムはいつ心を休めているのだろうか?
いつも私ばかり甘えて、甘やかされて、今だってカラムが本を読んでいたのに邪魔をした。騎士にしては細く長い優しい手は私の髪を撫でてくれている。いつもこの優しさに甘えてしまっている。
これはあまりにも幼稚だ。
子供のように全身でカラムに寄りかかり過ぎている。妻として夫を支えられていないのではないか?
ムクッと身体を起こしてカラムから離れる。カラムは不思議そうな顔を私に向けた。
「私はカラムに似合う妻になるわ!」
「はい?」
「だからカラムがしたいことをしましょう!静かに本を読みたいなら私は部屋を出て行くわ!」
カラムの側にいたら、また邪魔をしてしまうから
。それは配慮のつもりだった。
しばらくカラムと向き合い、そしてカラムから一息吐き出された。
「私がしたい事をしていいのか?」
「ええ!どんな欲求でもでも受け止めるわ!」
いつも我儘を許してくれるのだからそれぐらいしなければ、そんな気分だった。
「ならば──」
カラムの手が私の脇の下に伸ばされ、気付いた時には私はカラムの膝に乗り、そして抱きしめられていた。
「カラム?」
「ずっとあなたを抱きしめていたいです」
まさかな回答に私の目が大きく見開いてしまう。
「あなたが甘えてくれるのがどんなに嬉しいか。このままずっと時が止まって欲しいとさえ思っているのです」
優しい赤茶色の目で伝えてくれる言葉。
カラムは意外と甘えん坊だとアラン隊長が言っていたのを思い出す。
歳上で、いつも頼りになって、付き合うまで甘える姿を想像出来なかったのに……
私にも見せてくれるのはそれだけ心を開いていると考えていいのだろうか?
「……ご迷惑ですか?」
不安そうなカラムの声、気付けば敬語になっている。怒る時や不安になると敬語になることが多いのは昔の癖なのだろう。
「いいえ、私も同じ気持ちだもの、嬉しいわ」
不器用な私たちはとてもお似合いなのかも知れない。
私はカラムの首に腕を、頬に自分の頬を寄せ、全身で寄り掛かった。
◆後書き
バレンタインが近いのでチョコ話ではありませんが短い甘い話を書いてみました。
カラちょなら甘えるプラ様に癒されているんだろうなと思うので。