薄暗い、血が染み付いた部屋の中ポツンと一脚の椅子とそれに拘束されている白がいる。白の拘束されているソレは椅子にしては電極やコードが集中しているつまり電気椅子である。項の接続端子は簡単には抜けないようになっており、無理やり抜こうとするものなら電気が流れる仕組みだ。
白が再教育センターに輸送されて数日ほどだっただろうか。白を再教育センターに送った張本人である男はアイスワームのブリーフィングの時より、大人しい印象を受けた。
その日の調整も終わりかけた頃、ポツリと白が口を開く。
「V.IIスネイル。」
「貴方から口を開くのは珍しいですね。なんでしょうか。」
白のコーラル汚染によって赤くなった目が、男が焦がれる金星と似た熱を持っていた目が、男を静かに射抜く。
「……一つ提言を、鳥以外の生き物を鳥籠で飼うのはおすすめしない。」
男は電圧を上げ、一時間後解除するよう職員に命令して部屋を出ていった。
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「全く通信を勝手に切って……。」
少し見慣れてきていた赤らんだ空が珍しく青空を映した日、スネイルが鳥籠に詰めていた爛々と輝く星は、目を離した隙にそこに体だけ遺して消えてしまった。
そこからの記憶はあまり、無い。
命からがら、残ったアーキバス社員とヴェスパー隊員を連れてルビコン3から離れて本社に辿り着いて。事後処理やらヴェスパー建て直しやら懲戒処分やらを受けて、漠然と、色彩が丸々抜け落ちた様に企業に準じて、生きて。
意識が落ちたと思えば急浮上する。ゆっくりと目を開けばそこは古びた劇場のような、スクリーンには「これにて終幕」の文字が映写されていた。
「よぉ、割と長生きしたんじゃないか?スネイル。」
もう二度と聞くことのないと思っていた声が、後ろから聞こえる。
振り返ればあの日のままの、焦がれた星がそこにいた。
「……趣味の悪い夢、ですね。今際の際に、こんなものを見るとは。」
苦虫を噛み潰したようにスネイルが吐き捨てるように言えば、星は笑って、「夢だったら良かったんだろうけどなぁ、残念ながら死んだぞ。」と答えた。
フロイトは後ろの座席からスネイルが目覚めた隣の座席に移動し「ま、お疲れ様。」と声をかける。スネイルが目を凝らせば見覚えのある顔が談笑しているのが見える。
「……何人か年齢がおかしい人物がいるように見えますが。」
「なんでも、外見は最盛期になるんだと、お前だって顔のシワとか無くなってるからな。」
そう言われてスネイルが顔に手を当てれば、なるほど確かに無くなっているような気がする。
「何年、待ってたんですか貴方……。」
「んー、まぁ、ずっと?たまにミシガンとラスティにちょっかいかけて模擬戦してたが。」
「ミシガン、くしゃみでファーロン時代とレッドガン時代に姿変わってなんか凄かったぞ。」と声色を上げてフロイトが喋る。なんでもありか霊体。
「まぁ、途中まではメーテルリンクもスウィンバーンもいたがなぁ。あ、ホーキンスはさっさと行ったぞ。オキーフは……まぁ、あそこでラスティを抑えている。」
フロイトの指で指した先を見れば、見慣れない黒髪とハンドラー・ウォルターとRaDの一団がいるところに走ろうとするラスティと、それを止めて「家族団欒だぞ!やめろラスティ!」と声を荒らげるオキーフがいた。
「何をやっているんです。あの馬鹿は。」
「まぁ、死んでるからなぁ。本心が出やすいんじゃないか。」
「はぁ……。」
スネイルが呆れて溜息を吐けば、フロイトがケラケラと笑う。
「あぁ、そうだ。お前の話を聞かせてくれスネイル。」
「聞かせるもなにも、アレで見ていたのではないのですか。」
スネイルがスクリーンを指すと、フロイトは「あぁ」と答える。
「でも、お前がどう感じたのかは、お前にしか分からないだろ。自分はお前がどう思ってたのかを知りたいんだ。」
「……全く、取るに足らない日々でしたよ。貴方が傍にいた時の方が何十倍も疲れて、腹が立って、それでも充実した日々だったと実感できるくらいには。」
「お前……自分のこと時々好きすぎやしないか?」
フロイトが少し耳を赤くしながらじとりとスネイルを見る。スネイルは少し得意げに、
「えぇ、知りませんでしたか?私、貴方のこと愛してるので。」