ずっと一緒に。誰もいない静かな森の中。
大きな木が一本。
緑が風になびいている。
***
ビューティーハリーショップがあったその場所に、私はいた。
ほまれは何もなくなったその場所をじっと見ている。
風がそっと髪を撫でていく。
瞳を閉じると、昨日のように思い出す、プリキュアとして戦った日々。
ビューティーハリーでみんなと一緒に店を手伝ったり、はぐたんの成長を喜んだり…、
ハリーに恋したあの日々を。
成長したはぐたんとハリーは、未来へと帰って行った。
それを見て、私は身を引くことにした。
身を引く、なんてカッコいい事を言えば聞こえは良いけど…
私はこの想いを、ハリーに告げる事は出来なかった。
ハリーの横にいたはぐたんは綺麗で可愛くて、とても可憐で。
私が叶う訳がない。
でも何より、はぐたんだから。
私の大好きな、はぐたんだから。
2人が未来で幸せになってくれたら嬉しい。
この思いに偽りはない。
今はまだ思い出すと胸が痛むけれど、きっと素敵な初恋だったと思う日が来るはず。
カサッと、草を踏む音が聞こえた。
ほまれは目を開く。
こんな場所に来るのは、たぶんあの4人の誰か。
カサカサと足音が近づいてほまれが振り返る。
「誰?」
笑顔で振り向くほまれ。
でもその人を見て、ほまれは息を飲む。
「・・・なん、で?」
そこにいたのは、赤い髪に黒いジャケット。
何度も、何度も思い出しては涙した、その顔がまっすぐにほまれを見ている。
「なんで?夢…?」
ほまれの頬を、涙が伝う。
嬉しい。
でも、少し複雑で、戸惑いを隠せない。
「夢ちゃうわ」
ハリーはそっと、ほまれの頬に手を添え、親指で涙を拭う。
「ほらな、あったかいやろ?」
言って笑った。
ほまれが小さく頷く。
「色々あって遅くなってもうた。
けど、決めとったんや。どんな結果になっても、またこの時代に来ようって」
ほんの数ヶ月離れていたいただけなのに、ハリーの笑顔が懐かしい。
「またなって言うたやろ?」
「・・・でもっ、」
ハリーにとってここは、簡単に来れる場所じゃない。
またなって言われても、別れは辛いだけだった。
だって、
彼女は…?
ハリーの、想い人。
ほまれは頬にあるその手をそっと握り、自分の頬から離す。
彼女に、申し訳ない気がして。
「はぐたん…は?」
ほまれはハリーから目を逸らす。
「はぐたん?はぐたんはもちろん、プリキュアとして未来の世界を守っとるで。まぁ、クライアス社もなくなってもうて、平和なもんやけどな」
「でも…っ!そうじゃなくて…」
ほまれが口籠る。
「・・・・?」
「でも…っはぐたんは、ハリーの大切な人なんでしょ?!今度こそ、ハリーがちゃんと守ってあげなきゃ…」
言いながら涙が止まらない。
諦めたはずの恋なのに…。
そんなほまれに、ハリーは優しく微笑んだ。
「はぐたんは俺の恩人や。今でも大切だし、何を差し置いても誰よりも会いたいし、守りたい思ってた人や」
ハリーは触れたままの手をぎゅっと握った。
いつの間にか、その顔に笑顔はない。
「でも、はぐたんはもう何も出来ん赤ちゃんやない。自分の足で未来に歩いていける。俺はもう、必要ないんや」
「そんなこと…」
「ビシンもリストルも、自分の足で前に進んどる。せやから、」
一瞬間を置くハリー。
「せやから俺も、俺のためにここに戻って来たんや。はぐたんのミライクリスタルの力でな」
ハリーが握ったほまれの手を自分の方に引き寄せる。
急に引っ張られて倒れ込むほまれをぎゅっと受け止めて、両腕で包み込んだ。
「はぐたんは大切な人や。忘れたくても忘れられへん。でも、それは、好きやのうて…憧れで、恩人や」
心臓がはち切れそうなくらいにドキドキしている。
「ほまれ」
名前を呼ばれても恥ずかしくて顔を上げることが出来ない。
「この時代に来て、最初は誰も信じられへんかった。でも、ほまれが俺を変えてくれた」
ハリーは腕の中のほまれを覗き込む。
やっと、ほまれが顔を上げて。
目が合った。
「俺は、ほまれと一緒に前に進みたいんや。ほまれと一緒の、未来を見たいと思った。この時代で」
ハリーは真っ直ぐほまれだけを見ている。
いつになく真剣な眼差しで。
「好きやで。ほまれが、大好きや」
言われてまた、涙が込み上げる。
諦めたはずの恋だったのに。
「愛しとる」
やっぱり、諦められなかった。
「私もだよ、大好きっ」
ほまれもハリーの背中に腕を回してぎゅっとしがみつく。
「ありがとな。
ほまれはずっと俺の隣におってくれた。これからもずっと、ずっとこんな俺に付き合うてな?」
「うん、…うん。
ずっと、一緒に…居た…いっ」
ほまれが声を絞り出す。
嬉しくて。
涙が止まらない。
そんなほまれの頭を、ハリーはいつものように優しく撫でた。
たくさん辛いこともあったし、
これからもたくさん色んなことがあるけど、これからは、ずっと一緒に。
色んなミライを、2人で。
まだまだキュンと恋したい。
End***
*
ぽんっ
と軽い音を立てて、ハリーはハムスターのような小動物に変わる。
不意のことだったが、ほまれはバランスを立て直してハリーを両手で受け止めた。
「き、緊張したぁ〜〜〜〜〜」
ほまれの手の中でぐったりする。
「ここまで来て、ほまれにフラれたらどないしよー思ったわ」
急な展開に笑いが込み上げる。
ほまれは笑顔でハリーの頭を撫でた。
「ありがとう。
おかえり、ハリー」
「ただいま」
***