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    mee30232362

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    mee30232362

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    狼さんとネズミさんと。夕暮れ時。
    オレンジに染まる街を見ながら。

    通い慣れた道をほんの少しだけ逸れて、私は歩いていた。


    ***


    今日はスケートリンクの大規模な清掃があり、少しだけ早く練習を終えた。
    夕暮れの、涼しくなった秋風が気持ちいい。

    はなたちと過ごす時間が日に日に増えて、スケートの練習もあって。
    ほまれの毎日はぱっと明るく賑やかになっていった。
    だけど、こうして一人でいる時間も、嫌いじゃない。


    適当に歩いていたほまれは、その見覚えのある道に顔を上げた。

    「・・・・あ、」

    そうだ。
    そう言えばこの道。

    前にも走りながら通った道。


    そのまま歩いて行くと、ふいに視界が開ける。
    そこにはあの日と変わらない公園があった。

    さっきまで子どもたちがいたのだろうか、地面に落書きをした後や少し砂のついた遊具。
    今は全てがオレンジ色に染まり、静かにひっそりと佇んでいる。


    「あの日…、」

    雨が降る中、逃げるように傘も持たずにビューティハリーショップを駆け出した。
    そんな私を、傘一本だけ持って迎えに来てくれたハリー。

    「優しくなんてしてくれなければ…」

    こんな苦しい思いをしなかったかもしれない。

    「・・・・ばか」


    雨の中、何となくこの公園を見つけて、雨宿りをしようと思った。
    ただそれだけだった。

    ほまれは思い出のあの滑り台の階段にそっと手をかける。

    ハリーは、あの日。
    どんな思いでこの階段を駆け上がって来たんだろう。

    ハリーは誰にだって優しい。
    私だから特別に来てくれた訳じゃないんだ。
    分かっていた。

    だってハリーの、そんなところが…

    好きだったから。


    階段に座って俯く。

    考えたくないけど、どうしても考えてしまう。
    ハリーのこと。

    「ああーもうっ!」

    モヤモヤとした気持ちを振り払うように頭を上げた。

    考えたって仕方ない。

    一番星が綺麗に輝き始め、夕暮れのオレンジは次第に夜の空に飲まれ始めていた。

    公園の出入り口。
    ほまれの視界の端に、人影が動くのが見えた。
    人影はほまれに声を掛ける。

    「お嬢さん、ひとり?」

    薄暗い中に見えたのはかつての敵。
    褐色の肌に金髪の男性。

    「こんな時間にかわい子ちゃんがフラフラしてると、狼さんに襲われちゃうぞー。ガオー♪」

    ヘラヘラと笑いながら、チャラリートが近づいてくる。

    「何やってるの?」

    ほまれがふざける彼にツッコむ。

    「ん?俺ちゃん撮影の帰り☆今から帰って動画編集すんの。何ってったって俺ちゃんイケメンニューカマーだから☆」
    「・・・・・」
    「家この近くで、公園突っ切ると近道なんだよね♪」

    チャラリートがほまれの前で立ち止まる。

    こんな所でこんな人に出会うとは。
    さっきまでの暗い気持ちが少しだけ紛れた気がする。

    「ほまれちゃんは?練習帰り?」
    「うん」
    「そっか。練習頑張ってるってネズミが言ってたぜ」

    ネズミ…。
    急にハリーの話になって心臓が高鳴る。

    私がいない時に、そんな話をしているんだ。
    そんな風に見ていてくれたんだ。

    なんて、ちょっとしたことで一喜一憂してしまう。

    そんなほまれを知ってか知らずか。
    チャラリートは続けた。

    「なんかよくわかんないけど、大会とか優勝してたりするんでしょ?」
    「少しだけね」
    「前の大会、ネズミがチケットくれたからパップルと見に行ったんだよね」
    「え…?!」

    驚いて目を見開く。
    そんな素振り、全く見せなかったから。

    「なんか、スゲェなって思った」

    ざっくりとした、素直な感想。
    チャラリートに褒められて少し恥ずかしくなる。

    「ほまれちゃんさ、何か最近…可愛くなった?」
    「・・・・っ?!」
    「いや、別に変な意味じゃなくて。前はトゲパワワいっぱい持ってて、プリキュアになっても、カッコイイって言うか…ある意味近寄り難いみたいな?」

    褒められてるのか貶されてるのか。

    「でも、最近の頑張ってるほまれちゃんは、素直に応援したくなるし。なんか…何っつーか、うん。可愛くなった」

    たぶん、褒められてる。
    やっぱり恥ずかしくて、ちょっとくすぐったい。

    「・・ありがとう」

    こう言う時、素直に相手の顔が見れない。

    「学校とかでモテるっしょ?」
    「・・・え?そんなことないよ」

    一緒にいる天使さあややルールーがモテるから考えたことなかったけど。

    「うそー!絶対モテる!俺ちゃん保証する!!」
    「いらないよ、そんな保証…」

    そう言えば最近、ラブレターをもらった。
    あと、男子に話し掛けられる機会も増えた気がする。

    ・・・・けど。

    「でも、1番振り向いて欲しい人は、」

    きっと私を見てはくれない。

    言いかけて止める。
    こんなことチャラリートに言っても、仕方ない。

    「・・・・・」

    何かを察して、珍しくチャラリートも口を閉じる。
    少し気まずい雰囲気。

    「ごめん…忘れて」

    沈黙を破ったのはほまれだった。
    チャラリートはほまれを真っ直ぐに見ている。

    「青春だねっ」

    一言つぶやいて、にっと笑う。

    「たくさん悩んだり、壁にぶち当たったりして行くもんなんじゃない?楽しいだけじゃないんだよ、恋って。…って、パップルが言ってた」

    全くだ。
    分かりすぎて、笑ってしまう。

    「振り向いてもらうだけが全てじゃないじゃん?」
    「そう…だよね」

    チャラリートを見ると、いつもの笑顔。
    変わらないその態度に、チャラリートの優しさを感じる。

    「ぶつかってダメなら、回り込んで前進めば?」
    「・・・?回り込む??」

    妙な表現にほまれも思わず笑みがこぼれる。

    「ほまれちゃん可愛いから大丈夫。美人だし、大会で優勝とかして、たくさん自分を磨き上げて、見せつけてやれば?」
    「何それ」
    「うーん…例えば、俺ちゃんと浮気してみる?!」
    「ぇ…遠慮しとく…」

    なんて言って少し笑う。

    「ありがと。話聞いてくれて。
    なんかちょっとスッキリしたかも」

    ほまれは立ち上がる。

    「そろそろ帰るわ」

    夕日は沈み、辺りは薄暗くなっていた。
    あちこちの家に明かりが灯る。

    「送るよ?」
    「大丈夫。私も家そんな遠くないし」

    笑顔で手を振るほまれ。

    「りょ。本物の狼さんに気を付けてね。何かあったら俺ちゃん胸貸したげるから☆」
    「うーん。考えとくよ」

    チャラリートはほまれに手を振る。
    ネズミさんにもね、と小さく呟いた言葉は、ほまれには聞こえない。

    ほまれは公園の出入り口へ向かった。
    辺りはすっかり暗くなり、丸い月が輝いていた。

    公園から一歩出た所で後ろを振り返る。

    チャラリートは反対側の出入り口に向かっていた。

    あんまり周りにはいなかったタイプの人だ。
    適当にあしらわれているのか、何なのか。
    でも、そんな適当な言葉も、今の私には必要なのかもしれない。

    「自分を磨く、か…」

    ほまれは着ていたパーカーのポケットに手を入れた。
    コツンと手に当たる、小さなヘアピン。星の形をしたヘアピンを何となく髪に刺した。

    考えたって仕方がない。
    だってこの気持ちを伝えるまでは、

    「私の恋はまだ、終わってない」

    明日はこれで、ビューティーハリーショップに顔出してみようかな。


    ***

    ほまれは公園に背を向けて歩き出そうとした。
    でも、そこで足を止める。

    人気のない道。
    月明かりに照らされて、赤い髪の彼が見えたから。

    「ハリー…なんで…?」
    「はぐたん、今日ははなん家にお泊りやから連れてったんや」

    ハリーがほまれに近づく。

    「・・・・?」

    その顔が、いつものように笑っていなかったから。
    なんだかほまれも緊張してしまう。

    「今日は練習やなかったんか?」
    「・・・?練習の帰りだよ」

    言葉の真意が掴めずに少し戸惑う。

    「少し散歩してただけ。
    今ね、そこでチャラ、」

    言いかけたほまれの腕を、ハリーがぎゅっと掴む。

    「・・・っ?!
    痛いよ、ハリー?」
    「すまん…、なんか力加減間違えてもうたわ」

    ほまれの言葉に、ハッとしたように力を緩める。
    そして、反対の手でそっと、星の髪飾りに触れた。

    「お祭りの時のやんな?やっぱ、よう似合とる」

    月明かりに、少しだけ微笑むハリーが見えて、ほまれは恥ずかしくなって目を逸らした。

    「送ってくわ」
    「うん。ありがとう」



    END***



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