ハロウィンの後に。ハロウィンイベントが終了して、片付けが少しずつ進んでいた。
楽しかったダンスパーティーが終わっていく。
***
ハリーは片付けをぼんやり眺めながら、ビューティーハリーショップのバルコニーにいた。
「ハリー?」
衣装をまだ着替えないまま、狼男のハリーに声を掛ける。
「なんや、ほまれ。
まだ着替えてへんかったのか」
「ハリーこそ、まだ狼男じゃん」
手摺に掴まって、ほまれはハリーの横に並ぶ。
ハリーは笑顔で、でも少し寂しそうに片付けを見ていた。
「なんや、着替えてしもたら…
全部終わってしまうみたいでな」
何となく、今日のハリーは元気がない。
はなも心配していたのは知っている。
「今日、楽しかった?」
ハリーを覗き込む。
あまり表情はわからないが。
「ん?せやな、楽しかったで」
視線をそのままに、微笑むハリー。
「なんか色々考えとったけど。
そろそろ俺も、前に進まなあかん時が来てるんやろうな」
誰を、想っての言葉なのか。
それはきっと、私じゃない…あの人。
そんな優しい顔で微笑むんだ。
ほまれはハリーの顔から目を背ける。
何も知らないふりをしているから、それ以上の言葉が見つからなくて…。
「ねぇ、ハリー。
ハリーはさ、クライアス社とかのこと、全部終わったら未来に帰っちゃうんだよね?」
言われてハリーがほまれを見た。
一呼吸置いて。
「たぶん、な」
短く返す。
「だよね」
当たり前のこと。
なのに、言葉にして聞くのは少し辛い。
はぁ、と溜息をひとつ。
「写真、撮らない?」
努めて明るく振る舞う。
「未来にハロウィンはないんでしょ?
最初で最後かもしれないじゃん」
ほまれはポケットからデジカメを取り出した。
「せやな」
ハリーはニッコリ笑う。
ほまれはデジカメの電源を入れて、少しハリーに近付いて構えた。
ハリーも、ほまれに近付く。
お互いの呼吸が感じられるくらいの距離。
心臓がドキドキうるさい。
ーーパシャ
デジカメがシャッター音を鳴らす。
「ええやんええやん!」
デジカメの画像を覗き込んでハリーが笑う。
「美男美女やな♪」
自分で言うか…とツッコミを入れつつ、ほまれもデジカメを見た。
良く撮れてる。
「またひとつ、思い出が増えたね」
ハリーと、私の思い出。
「ハリー…
私のこと、忘れないでね」
デジカメの画像に視線を落としたまま、ほまれが呟く。
「どこに居ても。
私は、ハリーのこと絶対忘れないから」
視線を上げて、ハリーを見た。
真っ直ぐに見つめるその瞳。
「当たり前や。
ほまれのことは、絶対忘れへん」
ハリーも真っ直ぐにほまれを見る。
綺麗な茶色のその大きな瞳に吸い込まれそうになる。
ハリーが少しだけ右腕を伸ばした。
ほまれに触れようとして…、でもその手を止める。
「・・・・っ」
行き場のない右手でビューティーハリーの出入り口を指差した。
「はなが呼んどるでっ」
ちょうどドアからはなが大きな荷物を持って出て来た。
「ホントだっ。私手伝って来るよ」
ほまれが駆け出す。
「あ、ほまれっ」
ハリーがほまれの手を握ってそれを止める。
ほまれは不思議そうにハリーを見た。
「ん?何?」
「写真。プリントしてな」
「うん。わかった」
「ありがとうさん」
きっと、忘れることはない。
この時一瞬を。
この大切な思い出を。
絶対に俺は、忘れない。
***End