12月。街がクリスマス一色に変わる12月。
みんなが何だかそわそわわくわくしていて。
そんな街が、今は少し嫌い。
***
ハリーは未来に帰る。
そんなこと、分かっていた。
分かっていたのに…。
現実を突き付けられると身体が動かなくなる。
えみるも、ルールーも、この別れに気持ちの整理が付いたように見えた。
それなのに私は…。
クリスマスカラーになったビューティーハリーを見ながら、ぎゅっと胸が締め付けられるように感じた。
12月に入って最初の週末に合わせて、今日は店内をクリスマス仕様に飾り付けしている。
未来を、時を止める訳にはいかない。
でも。
・・・・でも。
いつ終わるのか。
どんな結末に向かっているのか。
分からない。
ハリーと、いつまで一緒居られるんだろう。
ほまれの身長より大きなクリスマスツリーを店内に飾った。
カラフルな飾り付けに、綿の雪。
後はてっぺんに星を飾る。
これもまた、大きく輝く金色の星。
そこに映る自分の顔に、笑顔はない。
「あれ?」
さっきまで近くにあった椅子がない。
手元の星とツリーの天辺を見比べる。
・・・・いけるかな?
星を手に、その手を伸ばす。
少し背伸びをして…
「…っ、あと少し…」
だけど、やっぱり無理か。
諦めて力を抜く。
と同時に、何となく金色の星に目をやれば、それに自分以外の顔が映っていた。
「なんやほまれ、届かんのか?」
少し勝ち誇った笑みを浮かべて、静かに星を奪われる。
難なくハリーはその星を飾った。
「案外小さいんやな」
言って背後からほまれの頭をハリーがぽんぽんと叩く。
小さい子どもにするように。
「・・・・っ!」
呆気に取られ飾られた星を眺めながら、自分の顔が少しずつ赤くなっていくのを感じる。
「か…買い出し、行ってたんじゃ…?!」
「今帰ったで」
ハリーは手に持った大きめのビニール袋を2つ見せた。
ほまれもそれを見る。
ハリーが袋に手を入れてガサガサと何かを取り出す。
「ほれ、ほまれにはコレ」
手を出して受け取ると、カップのチョコミントアイスだった。
「この寒いのに…アイス?」
聞くとハリーがニッと笑う。
「仕事終わりに、この暖房の効いた暖かい部屋でまったり食べるチョコミントアイス…!至福の時間や!最高やろ?!」
「…うん、分からなくも…ないかも」
自然とほまれも笑みがこぼれる。
ハリーはいつもそうだ。
悩んでいたり、迷っていたりすると、こうして何気ない気遣いで私たちに接してくれる。
何も、聞かずに。
「冷凍庫入れとき?後で食べ」
「うん。ありがとう」
話が終わったのを見計らうように、とんとんとんっと軽快な足音が聞こえて来た。
階段を見ると、はなとさあやが顔を出す。
「ハリー、おかえり〜」
「おう。探しとったの売っとったでー。さすがハグマンや!」
「ありがとうー!」
はなが袋を1つ受け取る。
「みんな飾り付けありがとさん。ちょっと休憩にしよか?」
「やったー!じゃあルールーとえみるも呼んでくるね!」
はなが階段へ向かう。
「じゃあ私、紅茶でも淹れようかな」
ほまれはアイスを手にキッチンへ向かった。
さあやがそれを追う。
「ほまれ、私も手伝うよ」
あ、と小さくハリーが呟いてさあやを引き止める。
「コレ。少しやけど、お茶菓子も買うて来たで。適当な皿に入れて出してな」
さあやは笑顔で袋を受け取る。
「ありがとう」
中身を確認すると、クッキーやチョコの入ったお菓子のバラエティーパックが2袋と、カップのチョコミントアイスがひとつ。
「このアイスは…?」
「ああ、それな。俺の仕事終わりのご褒美やねん。冷凍庫入れといてー」
「…うん。入れておくね」
さあやはアイスとお菓子を手にキッチンへ向かう。
キッチンでは先に来たほまれが、紅茶のTパックを準備していた。
さあやはほまれにお菓子を渡して、冷凍庫を開く。
「あ、やっぱり」
「ん?さあや、何か言った?」
「ううん?何でもないよ」
さあやはほまれのアイスクリームの横に、もう一つのアイスクリームを並べた。
End***