貴方の隣にいたことを。ひとりになると思い出す。
あの時のハリーの顔。
ハリーは茶化さずに、誤魔化さずに。
私の想いに応えてくれた。
嬉しかった。
でも。
***
冬の風が気持ちいい。
大会が終わって一息着いた平日の午後。
ほまれは少しだけ久しぶりに、学校帰りにビューティーハリーに向かっていた。
足取りが重い。
あれから私は初めてハリーに会う。
ビューティハリーが遠目に見えて来て、ほまれは立ち止まった。
告白して良かった。
後悔はない。
モヤモヤしていた気持ちに整理が付いたし、子どもだからって誤魔化したりぜずに、きちんと向き合ってくれたハリーはやっぱり私の好きになったハリーだった。
でも。
すぐに全てが元通り、なんて訳でもない。
私は、ハリーにどんな顔で会えばいいんだろう…。
いつも通り。
…いつも通り?
いつも通りって、どんなだっけ?
重たい足を一歩踏み出す。
と、カサっと頭に何かが触れた。
「何してるんや?」
「・・・・っ?!!」
振り向くとそこには、いつものアイツ。
「はっ!!ハリー?!!」
頭に何かが当たる感触。
カサカサと音がする。
小さな紙袋??
紙袋が、頭に乗ってる??
ほまれが頭に手を伸ばすと、それを見てハリーが紙袋から手を離した。
「何…コレ」
「イケメンサンタからのプレゼント」
笑顔で応えるハリー。
それはいつもと変わらない、あの笑顔。
ほまれは小さな手のひらサイズの紙袋を開いて中身を見る。
「あ、クッキーだ」
うさぎの形のアイシングクッキー。
「近くの店で見かけてな。なんや、ほまれが好きそうやなぁと思ってん」
ほまれはクッキーを眺める。
どこかで見た形…、
「このうさぎ…なんか、似てる」
「ん?」
クッキーを見て思わず微笑む。
「私の持ってるぬいぐるみに似てる」
ハリーもクッキーを覗き込んだ。
「ああ、お泊まり会した時のうさぎか?」
「うん。きゃわたん。こんなの食べられないよ」
よく見ると細かく模様が描かれたクッキー。
食べるのが勿体ないのは、たぶんそれだけじゃなくて。
ほまれはクッキーを紙袋に仕舞う。
「ありがとう」
ハリーはいつも通り。
「どういたしまして」
変わらず私に笑いかける。
いつも通り…今日はアイスじゃないけれど。
こうしてまた、私を甘やかしてくれる。
優しくしてくれる。
私だから、特別じゃない。
でも、気を使わずにいてくれることが、今はとても心地良い。
「ほな、行こか。
みんな待っとるで」
言ってハリーが歩き出した。
「うん」
ほまれはハリーの横を歩く。
あと少し。
あと、少しだけ。
あなたの隣に居させて欲しい。
End***