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    mee30232362

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    mee30232362

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    いつか思い出になる日の為に。済んだ空気に、星の綺麗な日。

    いつもと変わらない夜。
    でも少し、何かが違う夜。


    ***

    12月に入って急に寒くなった。
    はぐたんを寝かし付けて、ハリーは再びビューティハリーに戻る。

    ーー輝木ほまれは、
    ハリーのことが大好きです。

    面と向かってほまれに、そんなことを言われるとは思わなかった。

    ほまれは強い。
    きっとこの失恋からも立ち直って、俺なんかより素敵な相手を見つけることが出来るはず。

    コーヒーでも飲もうとやかんに手をかけた時、ドアの方から音がした。

    こんこんっと扉を叩く音。

    「ねーずみっ!遊びに来てやったぜっ」

    気を使ってなのか小さい声が聞こえる。
    でも、いつものテンションのそれに、思わず笑みがこぼれた。

    「ネズミちゃうわ。ハリハムハリーさんや!」

    言いながら扉を開けるとチャラリートがいた。

    「こんな時間になんやねん」

    と、聞いてはみるが。
    たぶんはぐたんが寝た頃に合わせてわざわざ来たんだろう。

    「今日は飲もうぜーっ」

    笑ってコンビニの袋を差し出す。
    中を見ると缶ビールに缶チューハイが数本と、ワインが1本。

    「こっちはつまみな」

    ほいっと手渡してチャラリートは勝手にビューティーハリーへ入っていった。




    チャラリートはソファに座って缶チューハイを開ける。

    「カンパーイ☆」

    飲みたい気分、と言う訳でもないけれど。
    ハリーも缶を開けて、つまみを皿に出した。

    「ほんま、何やねん。
    何で今日やねん」

    少しそれに口を付ける。

    ひとりになりたいような、誰かと一緒に居たいような…。
    察したようにやって来たチャラリート。

    「ん?何でって、ハリーが振られたって聞いて」

    ・・・・?

    一瞬、沈黙が流れた。

    フラれた?

    「俺が、振られた?誰に?」
    「誰にって、決まってんじゃん」

    驚くハリーをチャラリートは笑うでもなく、ただ見て言った。

    「輝木ほまれちゃん」
    「・・・・?!」

    その名前に胸を締め付けらる。


    何?

    俺が?

    振ったのはむしろ俺なのに。

    「何言って…」
    「そんなシケた面してっからだよ」

    頬杖をついてチャラリートは一口、チューハイを口に運ぶ。

    「ほまれちゃん。この前の大会最高に輝いてたぜ。何があったか知らないけど」
    「・・・・・」

    ほまれは輝いていた。
    これからも、この経験をバネに大きく成長していくんだろう。

    フィギュアも。
    新しい恋も。

    それなのに、俺は。

    「それに比べてネズミのシケた面〜」
    「ネズミやない!ハリハムハリーさんや!シケてないし!」

    ぐっと缶を握ってそれを飲む。

    はぁ、と溜息がひとつ聞こえた。

    「じゃあ俺ちゃん、ほまれちゃんに本気出してもいい?」

    ・・・・・っ?!

    驚いて顔を上げる。
    チャラリートは真っ直ぐこちらを見ていた。

    「…何、言うてんねん」

    言葉が出なくて。
    一言振り絞るのがやっとだった。

    「だってほまれちゃん美人だし。最近なんか可愛いし、性格だって悪くない。頑張り屋さんでおまけにスタイルもいい」

    チャラリートにも笑顔はない。
    頬杖をついて、片手にチューハイの缶を握っている。

    「何言うてんねん…」

    心臓が、ドクンと脈打つのがわかる。

    分かっている。
    それを止める権利は、もう俺にはないことを。

    でも。

    「そんなん…
    そんなん、俺が…っ」

    言いかけてハッとする。
    チャラリートがニヤリと笑うのが見えた。

    「俺が??」

    ハリーはチャラリートから視線を落とした。


    ーー俺が、諦めた意味がない。

    歯を食いしばる。

    ーー本当は。

    本当は、この右手で彼女に触れたかった。

    いつもみたいに頭を撫でてやりたかった。

    その肩を、背中を、その小さな身体を。

    抱きしめたかった。


    ハリーは自分の右手を見つめる。

    「俺は…、」

    何もない右手を、ぎゅっと握った。
    あの時、何も出来なかった右手。

    「いつか、未来に帰らなあかんのや。何で、別れなあかんのわかっとるのに…!俺は、ほまれを幸せには出来ん!わかっとるのに…っ」

    瞳を閉じれば、あの時のほまれが思い浮かぶ。
    綺麗な涙を流すほまれ。
    きらきらと輝く、強くて純粋な少女。

    らしくない。
    でも、何も考えずに言葉を紡ぐ。

    「わかっとる…のに。好きです、なんて…言えんやろ…」


    ーーほまれは強い。

    きっとこの別れを、ほまれなら乗り越えられる。

    いつか現れる本当にほまれが大切に想える相手。
    ほまれを大切に想う相手。

    その人と、幸せになるために。



    ーーでも、


    「俺は…ほまれみたいに、強くなれへんねん」

    ぽつりと呟く。

    ほまれが大切だから。
    大好きだから。

    ほまれの想いに気付かないフリをしていた。
    自分の気持ちに蓋をして、そのまま未来に帰りたかった。

    隣にいるのが当たり前になった彼女との別れを、乗り越えられる自信がない。

    そんな未来なら、捨ててしまいたい。

    「ズルイな。大人は」

    薄く笑うハリー。

    チャラリートはチューハイを机に置く。

    「ズルくねぇーよ」

    俯いたままのハリーを見る。

    「カッコ悪いけど、」

    その手でぐしゃぐしゃっとハリーの頭を撫でた。

    「よく頑張りました★」

    ニッと笑う。

    「何すんねんっ」

    顔を上げてその手を雑に振り払う。
    いつものハリー。

    「ワイン開けちゃう?
    ちょい高いの買ってきてやったんだぜっ」
    「おー。グラス用意するわ」

    言ってハリーは席を立つ。

    「大人は辛いねっ。
    色々考えちゃう」

    ワインを用意するのに、チャラリートはチューハイをぐいぐい飲む。

    「お前は何も考えてないだろー」

    溜息まじりにハリーが呟く。

    「失礼なネズミっ」
    「ネズミちゃうわ!って、何回言わすねん」

    ハリーが笑うのを見て、チャラリートも笑う。

    「こんだけ想われるほまれちゃんも、幸せだねぇ」




    ***End

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