君と未来 1ひとりになると、ふと思い出す。
いつも見ていたアイツの横顔。
もう会えない、私の初恋の人。
***
学校も練習もない、休日の午後。
「ねぇ、ほまれ」
学年もひとつ上がり、ほまれはスポーツ特進クラスに戻った。
そのせいか、学校では格段に会う機会が減り、久しぶりに会ったさあや。
今までと何も変わらないふたり。
カフェでたわいもない話をして、笑い合う。
「変なこと、言うかもしれないんだけど」
少しの沈黙の後、急にさあやの笑顔が消えてが真面目に話し出す。
「ん?」
並んだ紅茶と食べかけのケーキ。
「私…ルールーたちが未来に帰ってから、ずっと気になってた事があるんだ」
もう懐かしその名前。
ほまれはそれを聞いて、ケーキを食べていた手を止める。
「一度だけ、あれは映像みたいなものだったけど。私たちハリーと一緒にハリハリ地区や時間の止まった未来を見たじゃない?」
ーープリキュア。
私たちがそう呼ばれていたあの頃。
クライアス社をみんなで倒し、はぐたんはキュアトゥモローへと成長した。
そしてルールーと、ハリーと、クライアス社にいたみんなは、トゥモローのミライクリスタルの力で未来へと帰っていった。
あれから半年。
私たちには日常が戻ってきた。
たくさんの思い出を胸に、はな、さあや、えみる。
それぞれが新しい道を歩み出そうとしていた。
それはほまれも例外ではなく。
あれからほまれはもう1つ、大会で優勝を飾った。
毎日練習を頑張って、自分を磨いて。
いつかアイツを、見返してやるために。
あの失恋から立ち直ったと言えば嘘になる。
でも、ようやく少しずつ思い出を口に出せるようにはなった。
不意に懐かしいその名前を聞く。
何度も思い出しては胸にしまった、アイツの名前。
胸がぎゅっと締め付けられる。
「あったね。そんなこと」
ほまれは感情を抑えて、自然に振る舞う。
さあやは綺麗な顔でまっすぐにほまれを見ていた。
「のびのびタワーがあったのを覚えてる?あそこは確かに、はぐくみ市の未来だったはず」
ほまれは少し首を傾げる。
「そうだね」
さあやが何を言いたいのかわからない。
ほまれは静かに続きを促す。
「ハリーは確か、”ここよりずっと未来”から来たって言ってたよね?」
その質問には、頷いて返す。
「ここよりずっと未来の世界って、どの位先なのかしら?」
言われてほまれはきょとんとする。
「・・・・?
わかんないけど。言葉の通り、ずっと先ってことかな?」
考えた所で途方も無い気がして、あまり気にしていなかった。
ハリーだけじゃない。
ルールーも、トゥモローも口にしていた。
“未来の世界”。
だって考えたって、もうハリーやみんなは帰ってこない。
「でも、あの映像の景観は…今のはぐくみ市とそんなに変わらなかった気がするの」
あまりはっきりは覚えてはいないけど。
言われてみればそうだった気もする。
「10年、50年先くらいなら分かるけど、未来って100年とか数百年って単位で言うのなら…のびのびタワーやはぐくみ市は、まだあるのかな?」
さあやは紅茶を手に取り、一口飲む。
あのね、とさあやが切り出した。
「記憶がハッキリしないんだけど、”ここよりずっと未来”、遠い未来の世界って言う感じの言葉を使ったのって…ハリーだけじゃなかったかしら?」
言われて思い返す。
“未来”。
ルールーがよく口にしていた言葉。
ずっと遠い、未来?
「どうだったかな…?よく思い出せないけど、そんな気もする」
でも、だから何なんだろう。
さあやの言いたいことがよくわからない。
「1秒先でも未来だし、何百年先だって未来って言葉に違いはないの」
さあや自身も、考えながら言葉を話す。
「ハリーは…いつの未来かを、悟られないようにしたかったんじゃないかな、なんて」
言われて少しだけ、理解する。
ハリーたちのいる未来がもし、私たちが想像しているより近い未来だったら。
いつか私たちは、また巡り会えるのかもしれない。
…と、言うこと?
「でも、ルールーや、他のみんなも。ハッキリとは未来について話さなかった」
さあやはケーキ用のフォークを手に取る。
「何言ってるんだろうね、私。
何でもない。忘れて」
さあやはケーキを口に運んだ。
「うん。美味しい」
「…うん」
そんな訳、ない。
だって、みんなはもう”遠い未来”に帰ったんだ。
ハリーにはもう会えない。
でも何故だろう。
何かがすとんっと、心にハマったような気がした。
何でかな。
何か…。
何か大切なことを、私は忘れているような気がした。
***