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    mee30232362

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    mee30232362

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    明日へ。あれから半年の月日が経った。
    忘れられないたくさんの思い出を胸に、私たちはそれぞれ新しい未来へ進んでいた。


    ***

    ほまれはひとり、暖かい日差しの中ベンチに座ってランチをしていた。
    おばあちゃんの作ってくれた野菜中心のお弁当。
    おにぎりを一口頬張る。

    スポーツ特進クラスに戻った今も、いつもははなやさあやたちと一緒だったり、別の友だちと食べたりもするが…何となく今日はひとりだった。

    いつもの屋上。
    見上げた空は今日も青い。
    彼の瞳のように…綺麗だった。

    「ねぇハリー。
    ハリーは今、幸せ?」

    小さく呟く。
    私は彼の幸せな未来を、守ることが出来たんだろうか?


    ーーガチャ。


    扉が開く音がする。

    はなかさあやか…
    じゅんなとあきか?

    振り向くと、そこには久しぶりに見た意外な顔があった。

    「あれ?輝木さん?久しぶりっ」
    「ひなせくん?」

    向こうも少し驚いたようにこちらを見ていた。
    扉を閉めてひなせはほまれのいるベンチに近づく。

    「4月からスポーツ特進クラスに戻ったんだよね?どう?」

    歩きながら気さくに話し掛けてくる。
    3月まで同じクラスだったが…あまり話したことはない。
    たぶん、はながいつも近くにいたから。

    「楽しいよ。毎日が充実してる」

    前よりも練習する時間も増えた。
    何より、同じスポーツ選手を目指すクラスメイトと共に過ごす時間は充実している。

    「ひなせくんは?確か、今年もはなと同じクラスだったよね」

    はなとさあやは普通科の別々のクラス。
    はなはひなせくんと今年も一緒だったはず。

    「うん。同じクラスだよ」

    ひなせは一言言うと、ほまれから視線を逸らした。
    ベンチの手間で立ち止まり、少しほまれと距離を置く。
    屋上の手摺に手を掛けてほまれに背を向けた。

    「野乃さん…少し変わったね」

    言われて驚き、ひなせを見る。

    「そう…かな?」

    そんな風に思ったことはない。
    ほまれにとってはなは、出会った頃と変わらない、はなだ。

    「告白したんだ、俺。野乃さんに」

    ほまれは何も言わない。
    確信はなかったけれど…。
    ひなせがはなを好きなのは、近くで見ていて気付いていた。

    「ダメだった。何となく分かってはいたんだけどね…。野乃さん、好きな人いるんじゃないかな」

    言われてはっとする。
    はなが変わったって言うのは…そう言うことなんだ。

    「たぶん、本人は気付いてなさそうだったけど」

    思い当たる節はある。

    「だから、付き合えないって」

    ひなせは青い空を見ていた。
    表情はわからないが、悲しそうにも見えない。
    はぁ、とため息を吐く。

    「野乃さんは優しいよね」

    ほまれはそんなひなせを見て、少し前の自分を重ねる。

    想いを告げたこと、きっと彼も後悔はしてない。
    それは私たちにとって前に進むために、必要な言葉。

    「今日もさ、野乃さんに挨拶されたんだ。今週末の演奏会行くねって言われた」

    変わらない日常の会話。

    「告白されたら普通…ちょっとは気まずくなるじゃん?でも、野乃さんは俺に対して前と変わらないんだ。気を使ってるのか、天然なのか」

    はなの笑顔が思い浮かぶ。
    たぶん彼女は…後者。

    「天然じゃない?」
    「ハハッ。やっぱ、そうだよね」

    はなにとって、多少の気遣いはあるのかもしれないが。

    「もう結果は出てるのに、話しかけてもらえると何だか嬉しくて…やっぱ、好きだなぁなんて。未練がましいよな、俺」

    やっぱり、はなは、はなだ。
    ほまれにはひなせのその気持ちが…痛いほどわかる。

    「未練がましくなんかないよ。振られたからって、明日からこの気持ちがなくなる訳じゃない」

    告白したあの日以降も、ハリーは変わらず私に接してくれた。
    ハリーはたぶん…前者だけど。
    その優しさに何度も救われた。
    私も、色々と悩んだけど…最後まで「普通」に、接したつもりだった。

    「私もさ、ちょっと前に振られたんだ…」

    ひなせが驚いた顔でほまれを見る。

    「…もう半年も経つのに…まだ忘れられない」

    ほまれはそんなひなせから目を逸らす。
    やっぱり、自分のことを話すのは少し恥ずかしい。

    「未練はない…と思う」

    目を閉じると、すぐに思い出すことが出来るハリーの笑顔。
    いつだって思い出すのは、楽しかった彼との日々。
    今でも涙が、溢れそうになる。

    「でも…今は無理に、この想いを忘れる必要もないかなって思ってる」

    ほまれは空を仰ぎ見る。
    この青空は、ハリーのいる未来に繋がっているのだろうか?

    「その人は、ずっと遠くに行ってしまって…きっともう会うこともないと思うけど」

    本来なら出会うことのなかった私たちが出会って、未来を変えてしまった。

    変わった未来にいるハリーはきっと、ハリーであってハリーでない。
    だから、もう会うことが出来なくても…。

    「いつか私の名前がその人に届くくらいに、スケート選手として輝いてみせる」

    それは、ハリーの為ではなくて。
    初めて恋した私の為。

    アイツを見返すくらいの自分になる為。

    「いつか、その人より大切な誰かが現れるかもしれない。その時のために、今は自分を磨こうと思う」

    視線の端にひなせがこちらを見ているのが何となくわかる。
    ほまれもひなせを見た。

    「それまでは…まぁ、このままでもいいかなって」

    目が合って、ひなせが少しだけ笑う。

    「時間薬…だね。本当」
    「うん」

    ふたりの間に、静かに時が流れる。

    私たちが守った今と言う時間。
    それは時に残酷で、でも時に優しく。

    「今はまだ…彼の恋を応援は出来ないけど…。それでも大好きな彼の幸せを願ってる」

    それは嘘偽りのない言葉。

    「…そうだね。僕もいつか、」

    たぶんひなせにとってもそれは同じ。

    「心から野乃さんの幸せを願える日が…来るといいな…」

    ひなせくんなら大丈夫。
    そんな日が、来るよ。


    ねぇ、ハリー。
    ハリーは今、幸せ?

    想いを伝えたい人に、
    その想いは伝わったのかな。

    結果は…知りたくないけど…。


    あなたの幸せな未来を、私が守ることが出来たのならーー






    「お互い、またいい人に巡り会えるといいね」



    End***


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