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    mee30232362

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    mee30232362

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    ほまれの結婚前夜。ほまれが荷造りする姿を、ハムスターのような小動物のハリーはベッドにちょこんと座ってぼんやり眺めていた。

    季節は春。
    ほまれは明日、結婚する。


    ***

    リストルとビシンは、もぐもぐと一緒にほまれのお母さんと散歩に出ていた。
    ハリーも誘われたが、そんな気分にはなれなくて。

    「ビシンたちがいないと暇でしょ。ハリーも行けば良かったじゃん」

    ほまれが呟く。

    「別に。今日はゆっくりしたかっただけや」

    なんて素っ気なく応えてみたが。
    そんなハリーを見てほまれが笑う。

    「素直じゃないなぁ」

    荷造りをしていたかばんを閉じて、部屋の隅に置いた。
    荷造り、と言っても明日の式の準備で、中には着替えや付け爪やアクセサリーなどが入っていたりする。

    最後に入れた星の髪飾り。
    ほまれによく似合っている。

    「ありがとうね。ホントは私の準備に付き合ってくれたんでしょ?」
    「そ、そう言う訳じゃ…っ!」

    ハリーがぷいっと視線を逸らす。
    ほまれはベッドの横に座り、そんな小さなハリーを人差し指で軽くつついた。

    「もう少し素直になったらきゃわたんなのに」

    笑うほまれを見てハリーがはぁ、とため息をひとつ。
    こんなやり取りは、あの時3匹でほまれに拾われてから毎日のはずなのに…。

    何だか少し複雑な気持ちになる。

    ぽん!って軽い音を立てて、小動物だったハリーは赤い髪の青年に変わった。
    見た目は高校生くらいか、もう少し上か。

    ほまれは驚きもせず彼を見ていた。

    「なぁ、ほまれ…」

    ハリーはほまれのベッドに座って、項垂れる。

    「ほまれはさ、その…」

    行く当てもなく彷徨っていた孤児の俺たち。
    兄弟と言っても血の繋がりはなく、産まれたばかりのビシンを抱えて路頭に迷っていた。

    そんな時に声を掛けてくれたほまれ。

    『…ハリー…?』

    今にも泣きそうな顔で、でもとても嬉しそうに俺の名前を呼んだ。
    初めてあったはずの彼女のことを、何故か俺は信用することにした。

    ほまれは、何も聞かずに、何も言わずに俺たちをこの家に置いてくれた。
    感謝してもしきれない。
    大袈裟かもしれないけど、ほまれは俺たちの命の恩人だ。

    「ほまれは…あの時、何で俺らを助けたん?」

    リストルも何となく気付いてはいるようだが…。
    ほまれはたぶん、俺たちに出会う前から、俺たちのことを知っているようだった。

    ほまれは何も言わない。
    ただ、いつも俺たちを見守ってくれる。

    「自己紹介はしたけど…前から俺らの名前も、知ってたんとちゃうの?」

    ハリーはベッドに座って静かにほまれを見た。
    ほまれもそんなハリーを見る。

    「ずっと聞きたかったんや。俺らは、ほんまはもっと前に、ほまれに会ったことあるんちゃうか?」

    前にも似たような質問を、したことがない訳ではない。
    その時は軽く流されてしまったが、否定はしなかった。
    ほまれは静かに答える。

    「うん。あるよ。ずっとずっと前にね」

    ほまれは少し難しい顔をする。

    「別に隠してた訳じゃないんだ。始めは話すつもりで、みんなを家に連れてきた」

    ほまれは話しながら、ハリーをまっすぐに、じっと見つめていた。

    「でも、信じられないでしょ。私が中学生の頃、タイムスリップしてきた大人のハリーに出会ったなんて」

    目を見開いて驚くハリー。
    思考がイマイチ付いて行かず、頭が真っ白になる。

    「私ははなやさあやたちと伝説の戦士プリキュアになって、ハリーたちが住む未来の世界を救ったんだ」

    まるで夢物語を語るようだ。
    と、ぼんやりその話を聞く。

    「信じたくなければ、それでもいい」

    言われて首を横に降る。

    「ほまれは嘘吐かへんから、信じる」

    うん、と頷いてほまれは話を続けた。

    「ハリーはね、ハリハリ地区って言う所で育ったんだって。病気でたくさんの兄弟を失って…。みんなそれぞれの守りたいものや幸せのために、リストルやビシンとも戦った」

    信じられない。
    でも、本当にほまれが嘘を吐いているようにも見えない。

    「何を言いたいのか、まとまらないんだけど…」

    と、前置きをする。
    少し考えながら、ほまれが言葉を紡ぐ。

    「あの戦いで私たちプリキュアは、絶望の未来から希望の未来へ変えることが出来た」

    プリキュア、と小さく口の中で呟く。
    何だか、不思議な気分だ。
    知らないのに…知っているような…。
    でも、やっぱりわからない。

    「それから私は大人になって、もう一度ハリーと出会った。でもハリーはハリハリ地区ではなくて、今ここに居る。リストルもビシンも失わない今がある」

    ほまれは優しくハリーに微笑む。
    安堵した表情。
    俺たちが仲良く暮らしていることを、心から喜んでくれているんだと思う。

    「あの戦いで未来は変わった」

    でも、少しだけ寂しそうな表情。

    「たぶん…ハリーはハリーだけど…私が出会ったハリーとは…違う」

    中学生の頃にほまれか出会ったハリー。
    それは俺だけど…たぶん俺は、そいつとは違う未来へ向かっている。
    戦いのない未来へ。

    経験が人格を作るのなら、俺が成長しても、きっともうほまれの知ってるハリーにはならない。
    と、言うことだろう。

    時折寂しそうにほまれは笑う。
    その笑顔が、胸に刺さる。

    何だろう…?
    何だか、すごく…悔しい。

    何だか…、

    「会いたいんだ…そのハリーに」

    つい、意地悪なことを言ってしまう。
    大人のハリーは、きっとそんな風にほまれを困らせたりはしないんだろう。

    「そうだね。会いたい…かな」

    目を伏せて呟くほまれ。
    そんなほまれを見て、胸がきゅっと締め付けられる。

    最低だ…俺…。

    ハリーが俯く。

    きっと…俺は俺に叶わない…。

    「でも、彼がいたから、ハリーに会えたんだよ」

    言われて…、ふわりとほまれの香りに包まれる。

    「ハリーは彼じゃないけど…私にとって何より大切な家族。ハリーの代わりは、どこにもいない」

    ほまれはぎゅっとハリーを抱きしめる。

    「いつも側にいてくれてありがとう」

    ハリーは何も言えなくて。
    ただその場で、瞳を閉じる。

    「彼は私の初恋だった。もう会えない人には絶対に叶わないの。ズルいよね」

    耳元で響くほまれの声が心地良い。

    「だけど、彼を忘れなくていいって言ってくれた。それも全部含めての私を…受け止めてくれる人にやっと出会えた」

    はつこい。

    その言葉が胸に刺さる。

    「だから…私はあの人と結婚することを決めたの」

    ハリーは涙が溢れそうになるのを必死で堪える。
    明日は結婚式。

    もう少し…。
    せめてもう少し…早く産まれていたら。

    「ほまれ…好き」
    「私も、ハリー好き」

    たぶん、ほまれの好きはリストルやビシンの好きと同じ好き。
    俺の好きとは…違う。

    本当は俺が、ほまれの気持ちを受け止めたかった。

    でも…もう遅い。


    「ほまれ、結婚おめでとう」




    End***



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