忘れられない君へ。はぁ…
と、溜息を吐く。
やっと戻ってきたこの時代。
これが俺の望んだ未来なんだ。
***
横にいる少女に顔を覗き込まれて我に返る。
「どうしたの?ぼーっとして」
色素の薄い綺麗な髪。
大きな瞳が、何処と無くはなに似ている。
キュアトゥモローであるはぐみがハリーを不思議そうに見ていた。
「そんなことあらへん。今日も元気やでっ」
ニッと笑ってみせるハリー。
「またそんなこと言って。少しは素直になればいいのに」
はぐみは困った笑顔をハリーに向ける。
「ハリー、こっちに戻ってからずっと心ここに在らず…って感じだよ」
時々、そんな風にはぐみは呟く。
そんなことはない。
だってこれが俺の望んだ…未来なんだから。
「だから、そんなことあらへんよって。俺は今、はぐみと一緒に居られて、ビシンやリストルとまた暮らせて、それだけでええんや」
これはプリキャアが守ってくれた未来。
ほまれが願ってくれた俺の幸せ。
「そんな顔で言われても…嬉しくないよ」
はぐみが寂しそうに目を伏せる。
ハリーは笑っているつもりでいたが、いつの間にか彼の顔に笑顔はなかった。
「ハリーはあの時代に、大切なものを置いてきちゃったんだよね」
目線の先には、手元にあったミライクリスタルホワイト。
「ママたちのお陰で、この時代にはアスパワワが溢れてる…だから…」
はぐみは顔を上げる。
「だから、ハリーが望むのなら…私はこのミライクリスタルの力を使いたい」
「そんなこと…っ!」
ハリーが声を荒げるが、はぐみはそんなこと気にする様子もなく。
「もしもそれでミライクリスタルの力を失うことになっても…構わないと思ってる」
『ミライクリスタル ハートきらっと!
はーぎゅーっ』
眩い光と共に姿を変える。
『キュアトゥモロー!!』
この世界でハリーを助けてくれたプリキャア。
そして、ハリーが助けたプリキャア。
クライアス社がなくなった今、久しぶりにその姿を見た。
「ハリーはどうしたいの?ハリーの気持ちは…今、どこにあるの?」
大きな瞳でまっすぐにハリーを見る。
雲りのないその瞳は何もかもを見透かされているようで、目を逸らしたくなる。
「目を閉じて…?」
ハリーより小さい背丈のトゥモローは、ハリーを見上げていた。
ハリーはトゥモローを見ながら、言われるままに目を閉じる。
「ハリーにとって一番大切なものは…何?」
真っ暗な瞼の裏側。
浮かんだものは、
綺麗な光の中、涙を流す彼女の姿。
笑顔の彼女。
強くて優しい彼女。
大切な人の幸せを願う彼女。
未来へ向かう汽車の中から、最後に見た…涙を必死に堪える、
「…ほまれ」
ふふっと笑うような声が聞こえて、ハリーは目を開く。
「なんでもできる。なんでもなれる」
トゥモローが笑っていた。
「きっとまた会えるから。大丈夫」
「そうやな。きっとまた…この未来で」
ミライクリスタルホワイトが光り出す。
あの時代に初めて行った、あの時と同じ光。
ハリーは、全てを捨てる覚悟を決めた。
End***