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    mee30232362

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    mee30232362

    ☆quiet follow

    人魚姫。薄暗い海の中。
    私はゆっくりと沈んでいく。

    身体が重いーー。

    見上げれば、水面に揺れる月が見えた。

    なんで?
    だって私は泳げるはずなのに。

    モヤのかかった頭が少しずつはっきりしていく。

    これは夢?
    現実?

    ーーそうだ。
    私はもう、人魚じゃない。

    王子様は、私を選んではくれなかったんだ。


    ゆっくりと瞳を閉じる。


    ハリーは未来へ帰った。
    『お姫様』と幸せになるために。

    王子様に選ばれなかった人魚姫は、泡になって消える運命。

    でも…、
    ハリーが幸せなら、それでいい…。

    お姫様と王子様。
    笑い合うふたりの顔が浮かぶ。

    胸がチクリと痛んだ。

    心にぽっかりと穴が空いたように虚しくて。

    でも、消えてしまうのなら…もう何も考えなくてもいいんだ。

    泡になって消えるって、案外楽なのかな。


    でも私、ハリーを好きになった事…後悔してないよ?



    次第に意識が遠のいていく。

    薄れ行く意識の中、誰かがぎゅっとほまれの腕を掴んだ…気がした。



    ***


    ここは、どこ?

    「……ま…れ…?」


    最後に見たのは水面に揺れる月だった。
    その月が今は綺麗に輝いている。

    「…ほまれっ」

    名前を呼ばれてハッとする。
    慌てて身体を起こした。

    ここは、浜辺だ。
    王子様と出会った浜辺。

    「・・・・っ?!」

    身体が重い。
    それと同時に寒くて、呼吸が苦しくて肩で息をする。

    「……なん…で…?」

    苦しい…?
    私は、生きている?

    びしょ濡れで重くなったほまれのドレスは、あの時王子様に選んでもらった黄色のドレス。

    「ハリー…っ」

    見上げれば、心配そうに見つめる赤い髪の王子様。
    やっぱりびしょ濡れで、重たそうな赤い上着が放置されていた。

    「ハァ、ほまれ…、良かった…」

    ハリーはほっとしたように膝から崩れ落ちた。
    彼もまた、肩で息をしている。
    荒い息遣いで苦しそうに見えた。

    「ハリー何でっ?大丈夫?!」

    お姫様に向けたものとは違うけど、優しくほまれに向けられた、少し困った笑顔。
    ハリーは呼吸を整えながら小さく頷く。

    「俺は、大丈夫や…。ほまれは?」
    「私も…大丈夫。だけど…」

    何だか久し振りに見たような気がするその顔に涙が溢れた。
    同時にたくさんの不安が胸を過ぎる。

    「なん、で…?」


    本当は…、

    すごく悲しくて。
    辛くて。
    悔しくて。

    でも、やっぱり大好きで。

    諦めきれなくて…。

    彼女が…少しだけ憎い…。


    「ハリーは…だってハリーは、キュアトゥモローと…っ」

    一緒に未来に帰ったはず。


    《恋が叶わなかった人魚姫は…》


    ほまれは俯く。

    こんな思いをするのなら…。

    「だから私は、泡に…」

    視界に入った自分の両手。

    「ハリーに触れることが出来ない手なんて、いらない…」

    その両足。

    「ハリーに近付くことが出来ない足なんて、いらない…」

    こんな思いをするのなら…、いっそ泡になった方が楽かもしれない。

    その手に涙がこぼれる。

    「…消えて…しまいた…
    「そんなん、絶対許さんからな」

    ほまれの言葉は低い声に遮られる。

    「消えるなんて、絶対許さん」

    言われてぎゅっと肩を掴まれた。
    痛いくらいの肩と、いつもと違う彼の雰囲気に少し驚く。

    …怒ってる?

    恐る恐る顔を上げると。
    ハリーが真っ直ぐにこちらを見ていた。

    「何で俺、こんな大事なこと忘れてたんやろ…」

    辛そうなハリーの顔。
    怒っているのはほまれにか、自分自身になのか…。

    「何してたんやろ…。急にほまれのこと思い出して…必死に探した。そしたらここで、初めて会ったこの場所で…海に沈んでくほまれがおった…」

    怒りを露わに、でも少しの悲しさを含んだ複雑な眼差し。

    「ここが《人魚姫》の世界だって気付いて…、ほまれが…泡になるかもしれんって思ったら…必死で海に飛び込んどった」

    肩を掴んでいた腕が背中に回り。
    身体が引寄せられる。
    ぎゅっと抱き締められて。
    その体温を感じて…。

    「怖かった…。
    ほまれが居なくなるかもしれへんって…考えただけで、怖かった…」

    その手が震えているのがわかった。

    「もう、絶対に離さへん。俺が絶対に、泡になんか…させへんっ」

    もう離すまいと、その腕に力が篭る。

    「俺の一番大切な人は…、」


    少し間があって、ゆっくりと耳元で囁く。
    時が止まったような感覚。


    「ほまれや」


    ただただ涙が溢れた。
    胸がいっぱいで。

    「…ありがと…」

    絞り出すように声を出す。
    涙がとまらない。
    ほまれは濡れたままのハリーのシャツをぎゅっと掴んだ。

    「いつになるかはわからんけど…必ず迎えに行く。せやから、待っててくれ」

    ハリーの表情はわからない。
    でも、真剣に考えてくれているのはわかる。
    ほまれがその腕の中で頷く。

    「うん…。待ってる。
    いつまでもずっと、待ってるから…っ」



    End***


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