最初で最後の。「よーし!
明日はみんなで、デートしよ!」
はなの提案で。
最後の一日、私たちはみんなで出掛けることにした。
***
一番前にはぐたんを抱っこするはな。
横に笑顔のさあや。
それに続いてルールーとえみる。
そして、私たち。
なんでいつも…、
こうなるんだろう。
気が付けばそばに居て。
私に笑顔をくれるその人。
私の、初恋の人。
楽しい一日はあっと言う間に終わる。
角を曲がればビューティーハリーはすぐそこだった。
もうすぐハリーに逢えるこの道が、大好きで。
わくわくしながら毎日歩いていたのに。
今は何だか…全ての景色が辛い。
きっともう今頃、タイムマシンみらいにかえるくんも完成している。
ーーそんなの、
完成しなければいいのに。
なんて黒い気持ちに蓋をして、ほまれは立ち止まる。
この道を、進みたくなくて。
気付かずに一歩前へ出るハリーの後ろ姿。
手を伸ばせば、届く距離にいるのに。
この後ろ姿を見ることは、
きっと、もうないんだ。
ほまれは手を伸ばして、黒い革ジャンをそっと握る。
ハリーが立ち止まった。
振り返ろうとする仕草に、ほまれが背中に手を当ててそれを止める。
力は入れていないが、察してくれたように動きを止めた。
「ハリー…あのね…」
背中に触れたまま、小さく呟く。
みんなは気付いていないようで、少しずつ離れて行った。
でもそんなの…関係なくて。
「私、ハリーに告白したこと、
…後悔してないよ」
ほまれは俯く。
「忘れようと思ったの。
こんな気持ちのまま、お別れなんて…
辛いから」
今日一日、ずっと堪えていた涙が溢れる。
ほまれは両手でハリーの背中のジャケットを握った。
「でもね、」
迷惑かもしれないのは、分かっていた。
だから隠しておきたかったこの気持ち。
でも、最後だから。
カッコ悪くったっていい。
「でも、やっぱり忘れられないんだ…」
涙が次から次へと溢れる。
「ハリーに優しくされると…、気持ちがどんどん大きくなるばっかりで…っ」
ーー苦しい。
最後の言葉は飲み込んだ。
ハリーはきっと応えてくれない。
ーーそんなこと、わかってる。
「ごめんね…最後なのに…。
ううん、最後だから、わがまま言いたかったのかも」
溢れる涙を手で拭う。
「…ありがとう」
何も言わないハリーに、
想いは募るだけ。
「泣かないって決めたのにね。
やっぱ、無理だった」
離れたくない。
思いが届かなくても…。
側に居るだけでいいのに。
もうそれすら、叶わない。
「大好きだよっ」
少しだけ間があって。
不意にハリーが振り返る。
ほまれが顔を上げると同時に、視界が暗くなった。
金属の冷たい感触と、ハリーの匂い。
背中に回った手のぬくもりに、すぐに自分が抱きしめられていると気付く。
「ほまれ…、」
小さな声で名前を呼ばれて、心臓が高鳴る。
「…ありがとうな。
こんな俺のこと、好きになってくれて」
状況が飲み込めなくて、頭が真っ白になる。
恥ずかしくて、顔を上げることが出来ない。
「けど俺はほまれを、幸せには…出来ない」
冷静に紡がれる、残酷な真実。
「俺の帰る未来は…たぶん、
ほまれの進む未来とは違うから」
…わかってた。
何となくだけど、そんな気がしてた。
『ハリーの帰る未来は、クライアス社の無くなった未来』
『私たちの進む未来は、クライアス社の存在しない未来』
きっと、交わることのない、未来。
「せやから、」
ハリーがほまれの頭を優しく撫でる。
小さい子どもの頭を撫でるそれとは違う。
ほまれの存在を確かめる様に、ゆっくりと優しく。
ほまれが顔を上げると、ハリーと目が合った。
寂しそうに笑うハリーの笑顔。
そっとほまれの額に、唇を落とした。
「これが最初で、最後」
もう一度目が合って。
ハリーはゆっくりと離れて行った。
「俺のことは忘れて、幸せになるんやで」
心臓の音がうるさい。
何で?
何で、今なの?
涙が止まらなくて。
それはつまりーー。
そんなの、忘れられなくなるだけじゃん。
「…ばか」
涙で歪む視界の中、ほまれがもう一度手を伸ばす。
今度はその手を、ハリーが掴んだ。
指が絡まる。
後少し。
もう、ほんの少しだけど。
貴方が未来に帰るその時まで、
貴方の隣でーー。
End***