変わらぬ愛と永遠の絆。彼と過ごして、何度目の夏だろう。
ほまれは空を見上げた。
星の明かりがとても綺麗な、夏の夜。
***
「おまたせ」
日は沈み空はもう暗い。
街頭と吊るされた提灯が夜道を照らす。
浴衣を着た人や子どもが行き交い、いつもとは違う、少し楽しげな雰囲気を醸し出す。
待ち合わせ時刻に少し遅れてしまったほまれは淡い水色に、大柄な朝顔の涼しげな浴衣。
伸びた髪は母が綺麗に結ってくれた。
星形の髪留めを纏めた髪に飾ってある。
下駄ではなくサンダルを合わせて正解だった。
小走りに待ち合わせ場所まで駆けてゆく。
はぐくみ神社の入り口で待っていたハリーは、ほまれの言葉に振り向いた。
浅葱色の甚平に赤毛の青年。
初めてみんなでお祭りに来た日と違って手ぶらだった。
「ごめんね。もう花火始まってるね」
大会が近いので練習量も自然と増えた。
はぐくみ市で恒例となったナイトプールは、練習で行けなかったので、今日だけはと思ったけど。
先程から花火が打ち上がる音が聞こえ、花火の光が道すがら見えた。
「かまへんよ。ビューティハリーもさっき閉めたとこやし」
ハリーは笑う。
「水色も、よう似合うとるで。可愛い」
言って右手を差し出した。
「ほな、行こか」
ほまれがその右手を掴んで、自然と指が絡まる。
何度経験しても、ドキドキする。
心臓が煩くて。
歩きながら、少し目を伏せた。
屋台で少しだけ食べ物を買って手を繋ぎ石段を登る。
石段を登り切ると、人はまばらで。
場所取りをして座る人もいたが、打ち上げ会場ではないので案外穴場なのかも知れないと毎年思う。
あの日、みんなで話したあの場所で。
欄干に手を掛けて、空を見上げた。
何となく、お互い言葉はない。
花火の音が近くで響く。
ヒューと言う笛の音に、続いてドーンと爆発音。
光が綺麗に空中で模様を描き散っていく。
屋台からも花火は見えるのだが。
何となく毎年登っている石段。
たぶん、私たちプリキュアのハリーとの思い出の場所だから。
はなたちも今日、どこかで花火を見ているんだろうか。
「なぁ、ほまれ」
ハリーが呟く。
花火の音はそれなりに大きいが、すぐ横のハリーの声はしっかり聞こえた。
「 結婚せえへん? 」
ほまれが目を見開く。
ハリーを見れば、彼は優しい眼差しをこちらに向けていた。
「・・・・・っ?!」
突然の事に言葉が出ない。
考えてもみなかった、と言う事はないけど。
本当は、ハリーは未来に居なければいけない存在で。
結婚なんて、夢のまた夢だと思っていた。
2人で居られれば、それで、
それだけで幸せだった。
「ダメ?」
ハリーが顔を覗き込む。
その顔が、近くて。
ほまれが首を横に振る。
「ダメじゃない…けど…」
ーーびっくりした。
それが素直な感想だった。
涙が出そうになるのを堪える。
叶わない夢だと思っていたから。
ただ、ただ嬉しくて。
「沢山考えたし悩んだけど…、でもやっぱり俺はほまれが好きだから。…誰にも取られたくない」
花火の音が煩いはずなのに。
周りの音が入ってこない。
ハリーの声がやたらと響く。
自分の鼓動が、すごく早い。
「俺は人間じゃないし、此処に居ていい存在でもない事はわかってる。…だから普通の女の子の幸せを、与えてやる事は出来んかもしれんけど」
ハリーはほまれをまっすぐに見る。
真剣に、ただほまれだけを写す茶色の綺麗な瞳。
「それ以上にきっと、
誰よりも幸せにしたる」
甚平のポケットから箱を取り出した。
蓋を開けると、白っぽい宝石ーダイヤモンドのついたシンプルなデザインの指輪。
「変わらぬ愛と、永遠の絆」
ハリーはほまれに身体ごと向き直る。
「俺と、結婚して下さい」
涙が溢れる。
嬉しくて。
ーー嬉しくて。
私は、ハリーと一緒に生きて行きたい。
そう願った。
…けど。
一緒にいるだけでいいと、そう信じていた。
結婚なんて…、夢だと思ってたから。
そんな言葉を、ハリーの口から聞けるなんて…
思ってもみなかった。
こんなに嬉しい言葉だなんて、思わなかった。
「…はい」
小さな声で頷くのが精一杯だった。
ハリーが指輪を箱から取り出して、ほまれの左手を持ち上げる。
その薬指に、誕生石のダイヤを飾る。
「 ほまれ、愛してる 」
ほまれの左手の甲に、優しく唇を落とす。
まるであの日の、人魚姫の王子様のように優しく微笑むハリー。
涙が止まらなくて。
「ありがとう…。幸せだよ。私。
私も、ハリーが大好き」
ほまれの背に手を回して、ハリーがぎゅっと抱きしめる。
ほまれも、ハリーの背に手を回す。
「あの時、から…ずっと。
ずっと。大好き」
花火は変わらず打ち上がる。
もうすぐクライマックスの大花火。
でもたぶん、幸せな時間は、
これからも、ずっと永遠に。
End***