眠り姫久しぶりに、君の顔を見た気がする。
扉を開けば無機質なその部屋には、点滴のチューブや管、沢山の機械に囲まれ、ベッドで眠るはなの姿。
ーー止まっていた時は、動き出した。
他ならぬ、過去のはなの手で。
未来の世界では時もまた動き出し、此処に居るはなの時間も進み出した。
「全部終わったよ、はな。ただいま」
声を掛けても返事はない。
機械音が規則的にはなの心音を告げている。
ジョージは眠り続けるはなに近付き、ベッドの横で立ち止まる。
「幼い君に出逢ったんだ…」
窓から見える澄んだ青空は、あの時幼いはなと見たものと同じ空。ジョージは手を伸ばして、そっとはなに触れた。
頭を優しく撫でる。
柔らかなその髪が少しだけ揺れた。
「でも君はやっぱり、こんな未来は望んで居なかったね」
本当は知っていた。
はなは、永遠なんて望んでいない。
それを望んで居たのは僕だけだと、知っていた。
これは、自分勝手な願望。
「はな、」
頬に触れれば、時を刻む彼女の肌は温かい。
いつものように。
「…キュアエール」
口の中で小さく呟く。
「終わったんだ。全部。
ヒーローは悪を倒して、世界を救った」
はなの眠るベッドの端に座る。
「これがおとぎ話なら、眠ったお姫様は目覚める所だよ」
かさつく親指でそっと、唇をなぞる。
何度も何度も、重ねた唇。
その唇に触れて。
重なれば。
恥ずかしそうに笑ったはな。
そんな彼女は、もう笑うことはない。
どんなに声を掛けても、唇を重ねても、返事はなくて。
「愛してる…。
幸せな時を、ありがとう」
涙が一筋、ジョージの頬を伝う。
時間が動き出す。
止まっていたはなの寿命が進んでいく。
着実に君の最期が近付いてくる。
別れが、もうすぐそこに。
これがはな、君の望んだ未来。
最期の時まで、君の隣で。
側にあった機械音が不規則に変わり、耳障りな警告音を発する中で。
彼女は苦しむ様子もなく眠り続ける。
「おやすみ、はな」
きっとまたすぐに、逢える。
「またね」
End**