一粒の幸せ11月22日いい夫婦の日。
だからって祭日じゃないし。
朝起きていつも通り出勤して仕事して、保育園に娘を迎えに行って帰宅してご飯を作る。
残業の日は夫であるジョージさんがご飯を作ってくれたりもするけど、今日は私が作れそうだ。夕飯はオムライスとサラダかな。
なんて。
何でもない1日が今日も終わろうとしていた。
「おやすみ、はぐたん」
可愛い寝顔のその頬にキスをして、はなは布団から静かに離れた。
控え目に言っても可愛い娘だが、誰に似たのか活発で好奇心旺盛で。寝かし付けも長いと1時間以上かかってしまう。今日も長かった。
足音を立てないように歩き、寝室のドアを出る。
「お疲れさま。はな」
優しく微笑むジョージは珍しくキッチンに立っていて、2つカップを出してやかんでお湯を沸かしている。
「疲れたー!やっと寝たー!自由だー!」
少し抑えた声でジョージの元に近付けば、ローテーブルには見慣れたコンビニの袋があった。
「ジョージさん、これ何?」
と、言いながらだが、ジョージの答えも待たずに中を覗くと。
「わぁ!カップケーキだ!買って来てくれたの?ありがとうっ」
そこには小さなカップケーキが2個入っていた。ピンク色の生クリームに苺が2個乗っている。
あれ?苺が2個?
見覚えのあるコンビニスイーツだけど、普段販売している物は苺が1個だったはずだ。
「コンビニに寄ったら売ってたんだ。いい夫婦の日限定の商品で、苺が2個乗ってるらしい」
やかんの湯が沸いて、ジョージは火を止める。
インスタントの紅茶のティーバッグをカップに入れて湯を注いだ。
「そうなんだ!苺が1個増えただけで、なんかすごいお得感と幸せを感じるっ♪」
わくわくした笑顔でもう1個のカップケーキを袋から出した。
「あれ?こっちは苺1個なんだ」
苺が1個のカップケーキと苺が2個のカップケーキをローテーブルに並べた。
「ああ、限定品は人気だからそれがラストだって店員さんが言っていたよ」
そこにジョージが紅茶を運ぶ。
2組のカップのソーサーにはスプーンと片方にだけ角砂糖が置かれていた。当たり前のように苺が2個乗ったカップケーキの方に角砂糖付きの紅茶が置かれる。ストレートはジョージ、角砂糖ははなの紅茶だ。
「いいの?」
「別に。はなの為に買ってきたんだし」
言ってジョージはソファに座った。足を組んで、紅茶のカップを口に運ぶ。元々そこにあったのか、いつの間にか手元には本が用意されていていた。
ジョージはスイーツにあまり興味がない。
こうして付き合って食べてはくれるが、自分で買って来る事は稀だった。だから、たぶん本当に何とも思ってないんだろう。
はなはジョージの顔と、手元のケーキを見比べる。
少しだけ考えてから。
2個乗っている苺の内の1個をスプーンで切り、ジョージのカップケーキに乗せた。
「はい、半分こ」
にっこり笑うはな。
ジョージは少しだけ目を見開いて驚いたふうだった。そして、ふっと笑った。
「半分こって…」
「あ!子どもっぽいと思ったでしょ?」
はなは口を尖らせる。
「いや、そんな事は…」
と、言いながらジョージは笑う。
はなは笑うジョージを見ながら自分のカップケーキを近付けて並べた。
「幸せは半分こで、2倍幸せなんだよ!」
ほら、お揃いだし!と言いながらカップケーキを見た。
ジョージもはなの視線を追ってカップケーキに目をやる。
本当に、小さな小さな一粒の幸せ。
ジョージははなの頭をそっと撫でる。
はなも笑顔でそれに応えた。
きっと何でもない毎日が一番幸せだと思う。
明日も、明後日も。
「ありがとう」
End***