あの日の想いを1年ぶりにその姿を見た。
キュアトゥモロー。
最後に見た、あの時と同じ。
全てを慈しみ、揺るぎない瞳で未来を見ている彼女。
俺は今、ほまれの守ってくれた未来に彼女といる。
ほまれの向かう「クライアス社の存在しない未来」とは別の、違う未来。
俺の幸せを願ってくれたほまれ。
もう二度と逢うことはないーー。
「ありがとう、ハリー」
言われて振り返れば、色素の薄い長い髪の少女がいた。
すぐにわかる。
はぐたんだ。
「はぐみって言うの。自己紹介なんて今更な感じね」
笑う彼女。
はぐみ。
はながはぐたんと名付けた時、安直すぎだと思っていたが、案外的を射ていたのかもしれない。…なんて、冷静な事を思う自分もいる。
伝えたかった想い。
「ありがとうは、こっちや」
きっとほまれは、いつでも俺を応援してくれていれる。
そんなほまれの想いに応えたい。
「ずっと伝えたかった。
…覚えてるか?敵である俺を、クライアス社から救ってくれた」
はぐみを真っ直ぐに見る。
変身を解いた姿は、初めて見た。名前も知らなかった。俺と彼女は、まだそんな関係なんだ。
「せやから俺は、前を向いて…未来に進む事が出来たんや」
俺は彼女が救って来た、何人もの内のひとりでしかない。
「あん時から俺は…、
キュアトゥモロー…君が好きだった」
彼女は何とも思ってないかもしれない。
それでもいい。それでも、伝えたかった。
好き、だと。
ーー輝木ほまれは、
ハリハム・ハリーが大好きです。
あの日勇気を出して告白してくれたほまれ。
彼女を傷付けてまで、伝えたかった想い。
最後まで俺の幸せを願ってくれた、ほまれの為にも、
俺はーー、
「それは本当に、私に伝えたかった言葉?」
はぐみがハリーを見る。
真っ直ぐにハリーの言葉を受け止めて返す。
「朧気だけど、私覚えてるよ。はぐたんだった頃のこと。ハリーのこと一番近くで見て来たから、知ってる」
哀しげに笑うはぐみの笑顔が、妙に胸をザワ付かせる。
「ハリーは今、誰のことを思ってるの?」
ーー誰…?
ハリーが目を見開く。
「誰って…それ、は…」
それは、
黄色のショートカットに、茶色い瞳。
目にいっぱいの涙を溜めてハリーを見つめる、
ーーほまれ。
ハリーの声が掠れて、言葉に詰まる。
声が出ない。
「私がハリーに前を向くキッカケを作ったのかもしれない。でも、前を向いた先で見つけたものはきっと…私じゃない」
今頭を掠めたのは、キュアトゥモローである彼女ではなくて。
本当は最初からずっと、
俺が見ていたのは。
ほまれだった。
胸が痛くて、苦しい。
鼓動が激しくなる。
だって、
だって俺はもう、二度とほまれに逢えないのに。
涙が溢れて頬を伝う。
俯いて膝から崩れ落ちるハリーに、はぐみは何も言わずにただその場にいるだけだった。
「ごめんな、はぐたん。ありがとう。
やっと気ぃ付いたわ、俺」
ハリーが小さく呟いた。
ーーほまれが、好きだ。
はぐたんへの好きとも、キュアトゥモローへの好きとも、ビシンやリストルへのそれとも違う感情。
あの日、ほまれが俺に好きだと告げた日から、ずっと重く、胸の奥深くに何かが積もっていた。
涙が止まらない。
次から次へと溢れる、後悔の気持ち。
もうこの手が、あの子に届くことはない。
今更気付いたって、もう遅い。
End***