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    mee30232362

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    mee30232362

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    嘘吐き「ねぇ」

    腕をぐいっと引っ張られて立ち止まる。
    力はそんなに強くない。

    陽も傾き掛けたビューティーハリー。
    庭先は騒がしいが、それぞれが出払っていてとても静かだった。

    ぶっきらぼうなその声の主に少しだけ驚く。
    振り返ると、やはりそこには少年がいて。

    「…ビシン」

    その名前を呟いて振り向けば、少年は少し俯きがちにほまれから目を逸らす。

    「どうかしたの?ハリーたちならいないよ」

    顔を覗き込むと、あからさまに顔を背ける。

    「…違う。アンタに用があるの」

    夕陽のせいか、少しだけ赤くなった頬。何だか機嫌悪そうに唇を尖らせている。
    自分から声を掛けた癖に…。
    でもそれを口にしたら更に機嫌が悪くなりそうで。

    「・・・・・・」

    綺麗な白い髪に、まだ幼さの残る顔。肌は白くて睫毛は長い。よく見ると本当に美少年と言う言葉がピッタリだ。…なんて、ぼんやりと考えながらゆっくりと彼の言葉を待つ。

    ややあって。彼は小さく口を動かす。


    「…ごめんなさい」

    小さな小さな、消え入りそうな声だった。
    でも、はっきり聞こえた。
    ビシンはほまれの腕をぎゅっと握る。

    「・・・・・・?」

    意外な言葉に、目を見開く。

    「…嫌な事して…ごめんなさい」

    蚊の鳴くような声で呟く。

    周りは誰もいなかった。
    もうすぐタイムマシンも完成する。ほんのわずかな穏やかな時間。
    少しだけ素直になってくれた彼の言葉に、思わず笑みが溢れた。

    「…いいよ。別に気にしてない」

    ビシンはチラリと目線をこちらに移す。
    少し困っているような何かを求めるような視線と目が合った。
    身長は同じくらいだけど、何だか幼く見えるその顔。睨んでいるようにも見える大きな瞳は真っ直ぐにほまれを見ていた。

    「…本当?」
    「少なくとも私はね」

    ようやくビシンはほまれの腕を離した。


    根は本当に素直なんだろう、と思う。

    捻くれているように見えても、結局誰かと一緒に居たくて。ハリーやみんなと過ごした時間が忘れられなくて。縋って。
    バラバラになる苦しみから逃れようとした。
    これ以上仲間が傷付かないように。
    自分が壊れてしまわないように。
    その為なら他のみんなを傷付けてもいい。

    思い出の中に浸りたい。
    ーーハリーと一緒に。


    それが少しだけ羨ましい。


    「ハリーの事、よろしくね」

    静かに伝える。
    ビシンは驚いて大きな目を更に見開いた。

    「え、何?なんで?」


    「ハリーには、想いを伝えたい相手がいるんだって」
    「…それって…、」

    言い掛けたビシンの言葉には頷くだけで応える。今はあまり、その名前を聞きたくはなくて。

    「フレフレしてあげて。私がはなたちにしてもらったみたいに。頑張れって…、どんな結果になっても、頑張ったねって」

    言いながらも、ほまれは上手く笑えない。
    きっと今自分は、応援と言う言葉に不似合いな顔をしている。

    私は彼女を知らないから、どうなるのか全く分からないし、知る術もないけれど。


    「…アンタは、それでいいの?」

    少しだけ考えて、真っ直ぐに前を見る。
    この気持ちに、嘘はない。…あの日からずっと。

    「いいの。ハリーが幸せになれるならそれでいい」

    願わくば…。
    この想いが通じて、一緒に幸せを見たかった。
    始めから叶わないと知っていたのに。
    そう願わずにはいられなかった。

    でもそれは叶わない。絶対に。

    「…ハリーは、幸せにならなきゃダメなんだよ」

    たくさん、たくさん。
    辛い思いをしたんだろう。

    ひとりぼっちで。
    せっかく出逢えた仲間兄弟とも離れる事になって。
    故郷を失うって、どんな気持ちなのかな…。
    想像すら付かない。

    クライアス社に辿り着くまで、どんなふうに生きて来たんだろう。クライアス社に入ってからも、人を傷付けて、葛藤して、苦しんで。
    優しいハリーはきっと、辛かったと思う。
    でも、自分の辛い気持ちを隠して。

    ハリーにとって“あの子”はきっと…やっと見つけた、希望だったんだろうな。




    「嘘吐き」




    表情のない顔でビシンがほまれを見て呟く。
    面白くないと言っている風だ。でも、と付け足す。

    「いい子だね。…ほまれは」


    言われたその言葉が、頭の中で繰り返される。

    ーーイイコ。


    嘘なんて吐いてない。
    私は本当に、ハリーの幸せを願っている。

    ーーハリーの幸せだけを。


    微かに笑い声が聞こえた気がして、ほまれは窓の外を見た。
    夕暮れの、オレンジに染まる窓の外。
    ビシンと違って、きっと自分にとってはハリーと見る最後の夕陽。


    私が幸せを願っているのはハリーだけ。


    それは、あの子と2人の幸せじゃない。
    私は、ハリーとあの子の幸せを願っているんじゃない。

    笑顔で並ぶ2人を、見たくはない。




    私はハリーの希望にはなれなかった。

    あの子がいなければ。


    ーーそれは自分だったかもしれない。


    あの子さえいなければ。



    なんて…、願ってしまう。
    …胸が苦しい。

    ほまれはぎゅっと拳を握り、それを自身の胸に当てた。俯いて足元を見る。


    こんな事を考えてしまう自分はプリキュア失格だと、薄々気付いてはいた。綺麗事を並べた所で、本当の自分はイイコになんてなれない。
    きっと、あの頃からビシンは気付いているんだ。はなやさあやたちと自分は始めから違っていた。
    だから、最後に…来てくれた。

    「私は全然、イイコなんかじゃないよ」

    ほまれは自嘲気味に笑う。
    ビシンの大きな瞳は、ほまれを捉えたままだった。どうかな、と口の中で呟く。


    「ほまれはいい子だよ」

    真っ直ぐにほまれを見るビシン。
    笑う彼の顔は、何処か含みのあるいつもの悪戯な笑みだった。


    「僕はほまれのそう言う所、嫌いじゃないから」








    End***









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