マスフト機体を洗浄しリビングへ向かう端正で精巧な顔に付く形の良い薄づきの脣は、これから行われる毎夜の楽しみを想像してやわく弧を描く。
「兄貴っ、…フット兄貴?…二人共、何処行った?」
愛嬌を込めて思い描いていた愛しい兄達を呼びながら扉を開ける。しかしそこには誰もおらず、電子機器がごうんと時折稼働する僅かな振動音が淋しく鳴っているだけ。
上の兄、ゴールドアームはマスクより先に洗浄を済ませている。下の兄、ゴールドフットは一日中この家に居るのが当たり前。てっきりいつものようにリビングで寛いで自分を待ってくれていると思っていたマスクは、きょろり瞳のアイセンサーを滑らかに動かしあたりを見回す。するとリビングの隣。シアタールームの扉の隙間から僅かに光の点滅が確認される。部屋を移るとそこには大きな革張りの臙脂ソファに座る慣れ親しみ、探していたフットの後頭部があった。
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