マスフト機体を洗浄しリビングへ向かう端正で精巧な顔に付く形の良い薄づきの脣は、これから行われる毎夜の楽しみを想像してやわく弧を描く。
「兄貴っ、…フット兄貴?…二人共、何処行った?」
愛嬌を込めて思い描いていた愛しい兄達を呼びながら扉を開ける。しかしそこには誰もおらず、電子機器がごうんと時折稼働する僅かな振動音が淋しく鳴っているだけ。
上の兄、ゴールドアームはマスクより先に洗浄を済ませている。下の兄、ゴールドフットは一日中この家に居るのが当たり前。てっきりいつものようにリビングで寛いで自分を待ってくれていると思っていたマスクは、きょろり瞳のアイセンサーを滑らかに動かしあたりを見回す。するとリビングの隣。シアタールームの扉の隙間から僅かに光の点滅が確認される。部屋を移るとそこには大きな革張りの臙脂ソファに座る慣れ親しみ、探していたフットの後頭部があった。
「兄貴?ここに居たのか、呼んだんだぜ俺」
「知ってる。良いとこだったんだよ。」
むち、とした扇状的な金の脚を組み、大きな傷が印象的な美しい顔を此方に一瞥くれることなく、上の兄から買い与えられた、壁に埋め込まれた100インチの黒い板を見つめ続けている。放送内容はロードショーらしく、白い服を着た人間達が美しげな草原で何やら踊り狂っているシーンだった。若干…悪趣味な感じがするのは気のせいか。
「これが良いとこなのか?」
「主人公の女が勝ちそうなんだよ、知らねえけど。ぶっ倒れるのが一番遅いやつが優勝なんだろ?」
俺も知らねえけど違って欲しい。どんなルールだよ。そう思い、これに負けたのが悔しかったのでテーブルの上に置かれたリモコンをサッと取ると有無を言わせぬ内に適当なチャンネルを押す。ありきたりなニュース番組へと切り替わる。あ、と隣で小さな音が聞こえたが、あの映画に執心しているわけでは無かったのだろう。特に非難されることもなくニュース番組をつまらなさそうに見ている。というか執心されていても困る。天気予報のコーナーに切り替わり、明日は一日中雨だと簡素な週間天気表の雨アイコンがしとしと傘を濡らして小憎たらしい。
「げえ、明日試合なのに…」
「へえ。それはお可哀想なことで」
「う、…ごめんって。頑張るからさ…」
「フン、最初からそう言えってんだ」
気分が上がらないとぼやけば、漸く此方を向いた兄はあり得ないほど優しくにこり微笑むと思っても無いであろう憐れみの言葉をぶつけてくる。しかしマスクは憤慨する様子はなく、寧ろ居心地が悪そうに謝罪する。不可解な状況。しかしフットには嫌味を言えるだけの正当性は充分にあり、それが判っているので、素直に謝ることしか出来ないのだった。ついとまたそっぽを向かれてしまい、慌ててフットの右腕を取る。
「ごめんフット兄貴、許してくれよ」
「別に怒ってねえし。ま、明日のお前次第だな?やる気出ませんでしたァなんかで負けたら
ぶっ飛ばすぞ」
びしり眼前に人差し指を突きつけたフットは、一呼吸置くとわかりゃいい。とリモコンに手を伸ばしチャンネルをぴこぴこ何度か変えて、次に番組表を映し出すと先程のロードショーの名前を探し始めた。そこまで真剣に見てないなら別のでいいじゃんか!と心で叫ぶが先ほどのこともあって咎めることは出来なかった。アーム兄貴助けて。あ、そうだった。
「そ、そういやさ!アームの兄貴は?何処行っちまったのかな、探したんだけど居ねえんだよなあ」
半分は本当に気になっているが、もう半分はフットに視聴を中止させたい下心から来ている。アームに心の中でごめんと謝るマスクを見て、あ、そうだった。という顔をしたフットは幸運にもテレビを消した。
「お前最近長風呂だろ?新しい洗浄剤買ったとかなんとかって。待ってらんねえし先に寝室連れてかれたんだよ。…そしたらダークのお偉い連中から通信入りやがって、長くなりそうだったからそのまま置いて来た。」
「マジかよ、兄貴可哀想だな……ていうか先にって、もうおっ始める気だったのかよ!ずりいな」
「うっせえな、長風呂なのが悪い。…お前に見せたかったぜ…通信鳴った時の兄貴の顔。鼻先までくっついてる時に、…ぶはッ駄目だ、こえーのなんの」
にやにやと悪い顔で鼻をトントンと指先で突きながら思い出し笑いをするフットに釣られて笑ってしまう。そりゃさぞ怖いだろうよと想像するとさらにおかしくなる。ひとしきり二人で笑うと空気は和んだ感じがして、フットも楽しそうにテーブルに置いたタンブラーに入れた水をこくりと飲み下した。
「ん、…はあ」
笑って喉が渇いたのか、嚥下する際閉じていた瞳を薄くあけどこか恍惚そうなその表情が、この兄に自身の昂りを甘く激しく口淫させた時の記憶を呼び覚まさす。ごく、と喉がなる音がやけに大きく鳴って、フットはマスクの方を見るとタンブラーを差し出してくる。
「おら。まだ残ってるからやるよ」
「あ、ああ。ありがとフット兄貴…」
「ん。」
受け取ると満足そうな兄の顔。無意識の包容力にぎゅんぎゅんと回路が締めつけられるのが抑えられない。熱くなった排気を隠す気も起きず、また性懲りも無くリモコンを手に取ろうとする兄を優しく抱き寄せる。
「うぉっ、!おい、何すんだ急に、つか早く飲めよそれ」
「うん飲むけどさ……兄貴、これ、呑ませてよ。俺に。」
何をほざくのか、言葉にせずとも顔に書いてあるフットに先ほど貰ったタンブラーを握らせて自分の手でそれを包んだ。ね?お願い、兄貴。甘い仮面を被って微笑みかければ即、断る。…ことはなく、気まずそうに目を逸らす。
「お前…、ハァ…ッたく、スキモノが…」
「うん。好きだよフット兄貴。」
発した言葉の意味をわざと間違えて受け取り、トドメに優しく囁くと、顔に
サッと朱色が浮かんで、走る稲妻が目立ちそれは綺麗だった。
やった、落ちた。
フットは紅潮したままの面持ちでほんの少しだけ戦慄く白い脣を薄く開いて水を含む。
節目がちな目と、口の中でとろり溜めた水が頬を微かに膨らませて可愛らしい。
「…」
「合ってる合ってる。へへ、頂戴。」
詳細を聞くこと無く口に入れたのは良いものの、果たしてこれを求めていたのか些か不安になったフットは目配せで確認をとってきた。それに対して、親指と人差し指を合わせ輪を作り花が咲くような笑みを浮かべたマスク。すると安堵した様子で溢れないように人差し指の甲で閉じた境目を抑えながらゆっくりした動作で此方を向いてくれる。
「はぁ、かわいい…兄貴…。いただきます。」
ちゅ、はぷ、はぷ、注ぎ易い位置をまさぐって何度か唇を交わす。所在なさげな様子で緩慢に指を軽く閉じたり、開いたりしていたのでマスクはその手を優しく掴み取り、自分の腰に回すよう促せば、エスコートに素直に応じ手を添えてくる。それが愛おしくって、堪らなくて、守ってあげたいと思うのに、機体は興奮した逸物に煮えた欲をずぐん、と集中させる。右手は後頭部を、左手は背中に回す。できるだけ密着すると兄の熱。そして随分柔らかくなってしまった魅惑の金が、弟の硬いモスグリーン色の足にぴとり添えられる。早く飲めと瞳が催促し、揺れる。飲み込んでは意味ないし、零しそうになるのが嫌なのだろう。精オイルを溜めさせた時もおんなじようにしていたが、もう少し苦そうだった。
「ま、っふく!」
「んへ、ごめ、んって。んく、」
にへにへ笑っていると遂に怒られてしまった。漸く口の中に入れた生温かくて心地よい無味無臭の液体を飲み干し、そのまま舌を絡め合わせて縦横無尽に動かすと、口蓋まで調教された可哀想な兄はびくん、と大きく震えて息が荒くなって力が抜けていく。腰に添えていた手を強く回してくる。手が塞がっているから、膝をフットの狭間へ向けて割り込ませぷにぷにしたソコをくちくちいじくる。思った通り、ぐじゅくじゅに濡れている。脣を離すと、お互い興奮していたせいでねとねとしてしまった唾液がはしたなく糸をひいた。
「兄貴、遅いな。」
「…あぁ…」
「なぁ、良い?」
話しかけながらゆっくりと、優しく赤い革の上へ寝かせる。座面が広く、シングルサイズより少し狭いくらいの幅に押し倒されたフットは、良いかと問いたことには応えなかったがその代わり。すり、と脚でマスクの機体を撫でた。
「フット兄貴…!」
「あ!っん、んっ!う"ぁ…っ」
盛りのついた弟を興奮させるには十分すぎる行動。案の定喰らい付いて、なんの装飾もなされていない青い胸板にむしゃぶりつかれる。
その中心にはかつて兄や弟と同じように所属を証明するステッカーが貼られていたが、今は取られておりつるりとしている。アームとマスクにとって、只のゴールドフット。それでいい、それがいいから。
「はぁっ、はぁ!ん、んっ…すきだ…あにき…俺っ兄貴、俺の頭…撫でて…」
「ひ、ぎぅ、!ぁああっ!あ"!ぃ…っ…んっ」
ぺちゃぺちゃ水音を立てて色の薄い舌を這わせながら上目遣いで懇願してくるマスク。敏感な部分を時折りかりりと歯で鳴らされると喉が締まって切ない悲鳴が出る。快楽で周囲の音がぼわんと歪みつつ、撫でろと言われたのがわかったので、あまり力の入らない腕でがしがし撫でた。どちらかというと、揺らされているに近かったが、マスクは嬉しそうに笑っていた。
「ふ、ふふ、えへへっ…はぁ、あにき…はぁ……はぁ、フット…フット兄貴…」
じゅる、と念押しに胸の端を吸うと、顔と顔を近づけて、同時にいつ出したのか、整いつつ長いせいでいつも意地悪にフットの子宮を責め立てるコネクタをずりずり擦り、カウパー液で機体を汚してくる。あんなに可愛げなおねだりをしていた癖に。
「ふ…んっ…あ、ます、く、……♡」
「ん、あっ、…おれ…なんか、っ今日…すっげえ興奮してんだ…、ぜんぎ、してねえっけど、もう、挿れたい…兄貴…挿れても怒んない…?」
「は…ッあ?ふ、っ……ざ、…も、うすきにしろよっ…!わかるだろっ…、この、ば…!…えっ、あっ!おっ!?、うう、ぅぉ…、オご……ほっ♡」
「う"…………っ!!すきだ、あにきいっ!!」
抱いて来るかと思えばしおらしくなる弟、愛してくれている故の優しさだったのだろうが今のフットに取っては拷問でしかない。ただ好きにしろと言ったのは悪手であったと刹那思い直したが時既に遅く。ずろろろッ!と長い長いストロークで一気に奥まで突き刺しごちゅごちゅ遠慮なく暴れる怒張に、まともな言葉も出せぬまま強制的な強すぎる絶頂に負けた。勝てたことなど一度として無いのだったが。
「オ"おッ♡んぉ"おっ!!つぇ、え"、っあがっ… ♡ おぁ、ひ、あっ!じぬ、ぅ、♡じ、ぬ!ま、アッ♡!あっ♡ああっ♡あ"っ♡あァア"っ♡!!」
「あは、っはっ!かわいい、かわい、い!っあ!あっあにきすきっおれのッあにき!!だい…すきっ!!うぁ、あにきのおく♡こりこりしてる、!」
「や"っ、♡う、うあ♡あ"あぁーー!っ♡ん!んおぉおっ♡」
腰を打ちつけられながら愛を叫ばれて恥ずかしさと嬉しさでいっぱいな頭が紡げる言葉は何も無く、いつもみたく子宮口まで届いたさきっぽにぐちぐち味見されてみっともない声が止まらなかった。興奮していると、自供していたようにいつもより数段口数の多い弟は酔っているのかと思うほど顔が赤い。飲ませたのは水の筈なのに。
「ふへ、あにき…っ♡あにきの、ひだひだまんこ…ぎゅうぎゅうして、すげえッあっつい、おれのちんこ、♡とけちまうってば…♡」
「ま、……っ♡う"♡ぅ、!!っい、イッ♡だま、れッ!ぁっ♡」
いつまで経っても、何度も接続を繰り返しても、自分のレセプタのことを言われると、頭がズキズキするほど羞恥を感じてしまう。だからと言って聴覚センサーを切ってしまう訳にもいかず、意味がないとはわかっていても、せめて腕で顔を隠して自分を守った。
「あ…!?って、どけろよッ…!」
「うぁっ、!や、あ、ひぐっ、ひっ、んああっ♡」
「かわいいかお、みせろよあにきっ、あにきっにはいつもみせてるくせにっ…みせてくれよっ!」
「わがっ♡みせ、みせるからっ!それやめ…っ♡ぉ!!♡」
マスクも自分が何を叫んでいるのかあまり分からなくなっているようだった。怒っているのか悲しいのか気持ちいいのか分からないまま、フットの腕を掴むのとは反対の手で、今日は放置されっぱなしのクリトリスをしこしこと扱いてくる。勿論コネクタは挿しっぱなし、相変わらず弱いところを念入りにぐちゃぐちゃにちにちと練り回すのは止まらない。
「あぎっ、い♡いぐ、まずくっあ、あッ!お"♡ぐるッ!あぁァアッ!!♡♡あぁっ、あぇ、えっ♡かひ、ゅっ♡……」
「うぁ"っ……♡ひ、あにきっ…おれも…ぉッ♡」
ひだひだの内部がキツく痙攣するのに耐えられなくて、釣られるままにどぷん、どぷり、とマスクにしては濃厚な精オイルを兄の器に叩きつけそれは中身がぱんぱんになるまで続いた。見せろと言われたせいで隠すことも出来ないまま、絶頂した顔を見つめ合うことになってしまう。フットはきっと己はあられもない雌のような表情なのに、マスクの方は可愛くも、しっかり種を付ける側の雄の顔で目を細めて快感に身を任せている。悔しいが、マスクの目が細くなっていたことで、フットの顔が映らずに、自分で見ることにならなくてよかったと、そうなんだと、無理矢理納得した。
息を整えたあと時計を見ると、短針が9から10へ移り、長針は20に差し掛かっている。殆ど一時間経つがしかしまだアームは戻ってこない。座面は広いがくっつきたいために横幅は三人並んでぴったりになってしまうソファに、疲労困憊のフットを寝かせると床に座ったマスクはぼやいた。
「アーム兄貴、明日怖えだろうな、」
「あ……?なんで…、」
「だってよ、フット兄貴寝そうじゃんか、俺のせいなんだけどさ」
話の感じだと、まだキスも出来ないうちに中断させられたのだろうと思う。明日の試合を考えるとぶるりと、オイルの温度が少し下がったような、嫌な感じがする。フットは微睡みつつあるが、それでもにやと意地悪く笑う。
「フン…良いじゃねえか、これで気合いが入るじゃねえか。イイ思いした分。…きっちり扱いて貰えよ、マスク」
「うぁ、…分かった…、俺も寝なきゃな…おやすみ、フット兄貴。明日はゆっくり寝てくれな、ちゃんと綺麗にしとくからさ。」
「…ああ」
背を向けて話をしていたマスクが、眠りにつく寸前の、兄の何処となく寂しげな顔を見ることは無かった。