釜の蓋海底での闘いを終えてからというもの、水晶公とは起床と就寝のあいさつを欠かさないようになった。お互いにとってそれがどれほど大きい意味を持つか、語らずともわかっていた。
今夜は、普段なら星見の間を出ている時刻になっても会話の切れ目が見つからず、気づけば歩きながら話し続けていた。居住館の管理人に声をかけて自室まで移動し、ドアの前で向かい合う。
「ずいぶん話し込んでしまったな」
「公は忙しいのに、申し訳ない」
「あなたより優先される仕事はないよ」
「光栄だなあ」
軽く吹き出してみせる。大丈夫。大丈夫。自然に振る舞えているはずだ。
くすくす笑う水晶公が、ゆっくりと私の手を取った。
「本当に、あなたが無事でよかった」
心の底からの喜びをたたえた微笑みだ。軽く握られた手は、穏やかな温度を保っている。
4672