「ぁあ………ぁ……」
言葉にならないような声を出した赤瀬は、クマだらけの目をなんとか開け、ケータイで時間を確かめた。
14:07 と表示されるケータイ。「まだ深夜だ………」と呟いた彼は、また寝ようとした。しかし、彼は自分のことでまた目が少しずつ開いてきた。
天井を眺める。
眺めていた彼はスッと机の上に置いてある手帖に話しかける。
「僕ってさ……いつか、あの時みたいに……死ぬのかな…」
手帖はその声を聞き、ドキッとした。
そうだ、彼は自殺未遂をしたことがあった。図書館で赤瀬と出会った手帖はそのまま彼の所有物となり、長い間、彼と共に過ごした。自殺未遂をしたことも、彼の性格から浮き出る何気ない言葉により、なんとなく察知していた。
だからこそ手帖は自殺未遂した記憶を消した。彼の弱みも全て、帳消しにするように仕向けた。
赤瀬の所有物となった以上は彼の弱みから短所、不安までできることなら全て取り除きたかった手帖は赤瀬が持っている、ある程度の感情や性格を変えた。
自分が見た中ではこれ以上に文才があり、語彙力も豊富で国語力が飛び抜けている人間はいなかった。失くすのが惜しかった。
そんな中で異常なまでの不安や心配を取り除いた手帖だが、あの時の記憶を取り戻したかのように赤瀬はおかしなことを聞いてきたのだ。
焦る。
焦ってしまう。
どう答えればいいのだ。
どう答えるのが正解なのか!
どう返事してあげれば彼は安心するのか!
しかし、そのように考えてる時間も惜しい。なんとかして手帖は当たり障りもない答えを考え、瞬間的にスッと答えた。
“どういうこと……?君は死なないよ、大丈夫”
手帖は声が出せないが、紙面に書いた文字は見なくても赤瀬には伝わる。紙面は細かいニュアンスを必要としない。
自分が手帖で良かったと、内心安心した。
「そっか………そうだよな」と答えた彼は、すぐさま「はは、はははは……僕が死ぬなんて!おかしい話、そんなわけないのに」と意味が欠ける独り言を言い出した。
“記憶は消したはずなのに”と手帖はグルグルと悩み出した。
“なんで、なんで覚えてるのだ。なんで”
“彼は、また、同じように、あの時のように、あの……!”
嫌な想像をし始めた手帖をよそに、赤瀬の前にある人物が現れた。
「お前さ、頼まれた仕事終わったんだろ?寝ることもできなくなったか?」
嫌味のように口を出す男、それは青瀬だった。悩んでいた手帖を気掛かりに思い、赤瀬のために姿を現した彼は赤瀬に「寝ろよ」という意味でを込めて言葉を発した。
「え、何故、君が………?」と、言いかけた彼は青瀬にため息をつかれた。
「変な声が聞こえたんだよ、お前のせいでこっちも寝れやしねぇ…分かるか!お前のせいで」とトゲのある言い方をする青瀬に対し、手帖は“せ、青瀬…!その言い方は………”と彼に伝えた。
手帖の言葉を聞き、青瀬は落ち着くようの「はぁ……言い過ぎたな。お前、まさか寝れないわけ?」と、赤瀬に問いかけた。
赤瀬は「………」と無言を貫き、壁の方に体を向けた。「嫌な夢を少しだけ見ただけさ」と呟き、赤瀬は目を瞑った。
青瀬は「本当か」と聞いた。普段は嫌な夢を見て目が覚めてもすぐ寝付く彼に違和感を感じた青瀬はまた話しかけた。
赤瀬は再び無言になった。青瀬はまた溜息をつき、赤瀬の布団に入った。
「え、なんで?!」と飛び起きた赤瀬を横目に、青瀬は「いちいち驚くな鬱陶しい」と言い出した。赤瀬は目をぱちぱちさせていたが、そんなことお構いなしに青瀬は言った。
「本当のこと言えよお前。嘘下手だな昔から」
その声を聞き、赤瀬はまた布団に顔を埋めながら「……いつも飲んでた睡眠改善薬があっただろ?あれが無くなって……前に間違えて買った睡眠薬をの、飲んじゃった……」と話した。
スッと起き上がり、ゴミ箱を見た青瀬は目を丸くした。
「お前…!これ……依存性が高い薬じゃねーか!こんなもん多量に飲んじまったのか?!」と青瀬は声を荒げた。
その声を聞いた赤瀬はすぐさま「2粒飲もうとしたんだ…!気付いたら結構飲んじゃった…」と申し訳なさそうに答えた。
「お前さ………徹夜明けに飲む薬の数間違えて飲む癖、治せよ…」と呆れたような口調で言った青瀬に赤瀬は「ごめん……ごめん…」と謝罪した。
青瀬は布団に戻りながら赤瀬に対してまた話した。
「原因が分かったから良いが。あんな薬、多量に飲んでるせいでさっきおかしなこと言ってたぞ手帖に」と言われた赤瀬は、「え、なんて言ってた?」と不安そうに青瀬の方を見つめた。
青瀬は赤瀬の不安そうな顔を見ながらつい笑った。
「ッフ……w すまんが忘れた。別に俺に言ったわけじゃないし、手帖自身も今はもう休んでるからな」
「えぇ………」と赤瀬は上半身をに布団をかけて反応した。そんな赤瀬に青瀬は腕を赤瀬の肩にまわし、彼を抱きしめた。
「ま、寝ろよ。俺がいたら安心するだろ?今は何も考えなくていいし」と青瀬は赤瀬に話した。赤瀬は普段とは違う青瀬の優しさに驚きつつも、青瀬の気持ちを受け取り微笑んだ。
「ありがとう、青瀬……心配かけちゃってごめんね」と赤瀬は青瀬を抱き返した。
「心配はな、ある程度持っとけばいいが心配しすぎるとお前自身を壊すぞ」と青瀬は忠告し、赤瀬はウンウンと青瀬の胸の中で頷いた。
暗い深夜、2人は暗い部屋の中で暖を取りながら眠りについた。