空に光るはすべて星 162〜170250214 st valentine's day
きっとそれで正解
あんたが居た地域の、地球の風習なんだって?甘いものが苦手だと知ってるから香りだけ。こないだ美味しいって言った豆の、焙煎士に探してもらった、香料の後付けじゃなく元々ショコラの香りがする珈琲。…どうかな?美味しい?…本物のショコラもあるけど、口移しで舐めるぐらいなら…味わって、みる?
どうした驚いた顔して?俺だってお前に花を贈りたくなる日もあるさ。待ち合わせ場所の途中で花を売っている子どもがいて…シ一シアに似てたんだ。お前なら、花を買ってやるんじゃないか、と思って、な。有り金全部はたいちまった。…持てない?じゃあホテルに直行して、いっそ寝台に敷き詰めてしまうか
250222 猫の日
強い人
気紛れで捨て猫を拾っただけだ。ボロボロでぐちゃぐちゃで無理言って連れ帰ったが留守にしてる間に餌を食べなくなった。無理矢理食べさせたが子供を庇って走れるくらい元気になり、宇宙に帰ると言い出した。そうだな。俺はお前を捨て猫だと思っていたが、お前は自分で立ち上がり走り出せる獅子だったな
野良猫が居たんだ。出張の宿の窓を開けたらするりと中に入ってきてさ、左目や左前足はじめ全身が傷だらけの大きな雄猫で、部屋の隅から動かなくなって、俺が深夜まで残業したら抗議するように寄って来て寝台に入るまで睨んでた。朝になったらもう居なかったけど、地球に来たらまた逢えそうな気がするよ
240321 誕生日
何で知ってるかって?手配書に生年月日が書かれてて…うん、だから実は俺、あんたの本名も知っ…あ、そんな話がしたいわけじゃなくて!結局サプライズにはならなかったけどお祝いを直接言いたかっただけなんだ。ビ夕一なチョコケ一キ、口にあうといいな…。誕生日おめでとう!よい一年になりますように
お前の為のパーティなのに抜けてよかったのか?もう義理は果たした?疲れているんじゃないか?無理するなよ。……んん、どうも性に合わないな。…笑うなよ。お前は何でも持ってるし何も思い付かなかったから身一つで来ちまった。お前さえ良ければ…その、今夜は…ずっと一緒にいるよ。誕生日おめでとう
250327 桜の日
本気にしないよ、それでいい?
急に気温上がって風も強くなってきたし週末に雨が降る予報だから散る前に撮った。お前が見たがっていたのをたまたま思い出して画像整理する前に気紛れで送っただけだ、勘違いするなよ。……綺麗?そうかよかったな。じゃあもう切るぞ。また無理してこっちに来ようとして体調を崩したりするんじゃないぞ
メールありがと画像見たよ。いまあの街に来ているんだ?背景に写ってたね、懐かしいな…。桜って白かったり赤味が強かったり、花の大きさもいろいろあるんだな。知らなかったよ……俺、本当に知らないこと一杯あって、あんたが俺の言ったことを忘れないでいてくれる人だったってのが、本当に、嬉しいよ
250401 April Fools' Day
嘘だけ、うまくなっていく
もう二度と逢わない。俺はお前の事なんか何とも思っていない。お前を抱いたのは単なる気まぐれだし夜泣きする子どもをあやしていただけだ。お前だって楽しんだんだからもういいだろ?飽きたんだよ俺はもう、子どもの相手なんか。悪い夢を見たと思ってこんな犯罪者の事なんか早く忘れて幸せになっちまえ
あんた、あいかわらず嘘が下手だな。そんな心にもないこと言えば俺が泣いて宇宙に逃げ帰るとでも思ったのか?俺はもうあの頃の子どもじゃないんだよ。当局に密告してあんたを逮捕してもらってから死刑を偽造して改めて身柄を拘束する、って考えたんだけどどうかな?あんたを監禁して飼えたら楽しそうだ
250404 獅子の日
なんだって知ってた
獅子は発達した筋肉で飛びかかり喉元に噛み付き、気道を締め上げ獲物を仕留めるそうだが、で、お前はこれから俺をどうするつもりだ?百獣の王の名に相応しい振る舞いが若獅子であるお前に出来ると思っているのか?柔らかな脇腹は獅子の弱点だそうだが、撫で上げると良い声で鳴くじゃないか。もう諦めろ
我が社の紋章だし「あの獣のように気高くあれ」と父さんに言われてたからそりゃ気になるさ、野生の最後の一頭の死亡が確認されたって。家族に先立たれずっと彷徨っていたのかな…何を考えてたんだろう…え?やっと家族の所に行けて良かった?そうかもだけど、一緒に居たという狼の事が、今は気になるよ
250727 すいかの日
麦茶っクス
強烈な日差し。麦藁帽子、収穫、胡瓜トマト玉蜀黍、西瓜。古井戸、冷やす。縁台風鈴蚊取り線香麦茶。壊れた扇風機、風、ぬるい。触れる、指、絡まる。汗ばむ肌、唇、舌、白い歯、ぬめる、汗、シャツ張付く、もどかしい、目に、汗が。痛い。笑う、塩辛い。ぬめる、ひぐらし、お前と俺、ひとつに溶けてく
地球の夏って色んな音が聞こえるんだね。あれは風鈴、音で涼を感じるってすごいね。扇風機は壊れかけじゃなきゃもっと静かなの?麦茶の氷が溶けてカランと鳴って、西瓜を冷やしてるせせらぎの音。アブラゼミにクマゼミ。ひぐらしが鳴き出すと夕方が近くて、……もっと教えてよ。俺、上手くなったでしよ
250806
隣との距離
あ、ころんだ。段差も特に無いのに何故だと思うがそんな場所でころぶのが子どもという生き物だったな忘れてたよ。両手をしっかり地面に付け上半身を支え顔を上げ、頬に泥が付いてはいるが「泣いてないな。偉いぞ」跪き目線を合わせ顔を寄せ褒めると見開いた両目からあっという間に大粒の涙が溢れ出した
学園にいた頃の俺は体格が良い方だったし、兄とか寮長とかホルダーとか皆を庇護する立場で、誇らしく別に嫌じゃなかったけど、俺、あんたと出逢ってから、時々自分が小動物になったみたいな気がして、あんたの匂いに包まれて、あんたに触れられていると胸の奥がじんわり暖かくなって安心して眠れるんだ
250909 救急の日
救うのは僕じゃない
指先切っただけだしそんな大袈裟な包帯はいらないんじゃ?……予防接種はバイト先で受けたけど…地球は未知の感染症が怖い?甘く考えるな?…えーと、はい、うん。ありがと。でも怪我は足だから髪は自分で洗え…、あー、…髪洗ってもらうって気持ちイイな…。次は俺が、あんたの髪洗っても、いいかな?
義肢になってベッドから降りた時、地面が平坦では無い事を初めて知った気がした。病院の廊下のかすかな凸凹に躓かないよう歩くため必死にならなきゃ1mも進めないんだ愕然としたよ。歩けなきゃ地球では生きていけないし、多分俺はMSの操縦が出来なきゃあっという間に見捨てられていたと思う。…昔の話だ