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「あっつー!ねー、休憩しないー?」
「……家までもうすぐだろ」
ターコイズブルーの爽やかな青空とは裏腹に、アスファルトから照り返すジリジリとした熱が皮膚を刺す
天気予報では梅雨明けを報せていたが、既に東の空には真夏のような入道雲が顔を覗かせている
エージェントからの依頼を受けて仮面カフェへ出向いた帰り道、ルーイと静流は肩を並べて歩いていた
ふと、先ほどからぐだぐだと文句を垂れていた静流が足を止め、ルーイを振り返ると、何かを閃いたように口角を上げて持っていたビニール袋をカサカサと揺する
「リーダー、せっかくだしそこの公園でコレ、
飲まない?」
「……は?ぜってー帰ってからのが良いだろ」
ルーイからの返事は明らかにNOであったが、静流は素知らぬ顔で木の生い茂った公園の中へと進んで行く
ルーイはげんなりとした顔で溜息を吐きながら、静流の後を追った
木陰のベンチに並んで腰掛けるとそよそよと生温い風に包まれ、直射日光の元にいるより幾分かはマシに感じられた
静流は、エージェントから差し入れにと貰ったラムネの瓶を袋から取り出すと、ん、とルーイに差し出す
無言で受け取ると、灼熱に晒されていたはずなのに瓶は未だひんやりとして、汗ばんだ手に冷たさが染み渡った
「最近、こーいうラムネってあんまり見ないよね」
独り言のように静流が呟いて、ペリペリとビニールを剥がすと手際よく玉押しを押し込めば、隣からしゅわしゅわと泡の弾ける音がする
ベンチの背もたれに背中を預け、猫背を伸ばして空を見上げると、木々の隙間から見える青空に飛行機雲が伸びていて、ラムネの中に浮かぶ泡のように見えた
「あー、生き返るぅー」
カラカラと音を響かせるガラス玉から察するに、静流の瓶はもう半分程まで空いてしまったようだ
手元に視線を落とすと、静流から渡されたラムネの瓶が、暑さでびっしょりと汗をかいている
「早く飲まないと、ぬるくなっちゃわない?」
先に飲み干した静流が、ガラス玉を取り出して楽しそうに青空を覗きながら尋ねる
家に持ち帰って冷蔵庫で冷やしてから、涼しい部屋で飲んだ方が美味いに決まってる
そう思いながら、栓を開けて一口煽ると、甘い香りが鼻を抜け、喉をぱちぱちとした刺激が駆け抜ける
液体の中でガラス玉がユラユラと揺れて、何を求めてかふらふらと彷徨って掴みどころのない静流にも、そんな静流に対する自分の不明瞭な感情にも見えた
「……まぁ、悪くねぇな」
「でしょ?」
差し入れてくれたのはエージェントだろ、とツッコんでやりたかったが、茹だるような暑さで言葉を発する気にもなれず、再び瓶に口を付け飲み干すのが精一杯だった
こいつの我儘に付き合うのも、悪くない
全てを映し出してしまいそうなガラス玉を瓶の中に閉じ込めたまま、ビニール袋へ粗雑に瓶を突っ込むと、カランッと乾いた音がした