(仮)ブラックベリー「真宵ちゃん、もう来てる?」
片手にビニール袋を提げた成歩堂が事務所に戻ってきた。
「なるほどくん? いるよー」
真宵は事務所のキッチンからひょっこりと顔を出しなが応えた。
家元としても忙しいであろう真宵は、合間を縫ってはこうして事務所に来ていた。
「ちょっとこれ、依頼人のご家族からもらったんだけどさ……」
「わぁブッラクベリー! こんなにたくさん?」
成歩堂が開いた袋の中にはほとんど黒色に近い実がずっしりと入っている。
1キロくらいはありそうだ。
「そう。ジャムにするといいですよって言われたんだけど、」
「この真宵さまにまっかせない!」
真宵は胸をどんと頼もしく叩いて見せた。
「じゃあ頼むよ」
「うん」
成歩堂から袋を受け取った真宵はまたキッチンへと姿を消した。
そして成歩堂は自分のデスクに腰掛けた。
そんなふたりの様子をちらちらと伺っていた人物たちがいた。
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「なるほどくん、いま大丈夫?」
「いいけど、なにかあった?」
成歩堂が書類から顔を上げると、割烹着姿の真宵が小皿とスプーンを持っていた。
「ちょっと味見してもらおうと思って、これ」
真宵が差し出したスプーンを成歩堂は当たり前のように口に含む。
そして真宵は当たり前のように、成歩堂の口からスプーンを引き抜いた。
「これってさっきのブラックベリー?」
「そう。みぬきちゃんも食べるならもう少し甘い方がいいかな?」
「うーん。おいしいし、これでいいんじゃないか?」
審判を待っていた真宵の顔がぱっと綻んだ。
「ほんと? じゃあもう少し煮詰めたら完成かな」
「さすが真宵ちゃん。いつもおいしいもの作ってくれてありがとう」
「なるほどくんの頼みならいつでも作ってあげるよ! 味見してくれてありがとう」
そう言って真宵はまたキッチンへ消えた。
「ねえ、春美ちゃん」
「なんでしょうか、心音さん」
「本当に付き合ってないの?」
「わたしにもわかりません……」