あの夏うーちゃんが今日は実家で寝ると言って、さよならをした次の日、うーちゃんは学校に来なかった。
自分で起きれるから迎えに来なくといいと言われ僕はそのまま学校に行った。
しかし昼休憩になってもうーちゃんは来なかった。流石に心配なので帰りにうーちゃん家に寄ろうと思う。
家のチャイムを鳴らすが返事が来ない。
「うーちゃん、僕だ。心配で様子を見に来たのだが扉を開けてはくれないか?」
すると恐る恐る出てくるうーちゃんの姿が見えた。目が若干腫れているような気がした。
「とりあえず、中入って...」
声も掠れていたため、念の為水を買ってきておいてきて良かった。
「今日、学校に来なかったがどうしたんだ?」
そう言うと一瞬うーちゃんがビクッと反応した。
「ちょっと体調が悪くて、心配かけちゃってごめんね」
「いや、大丈夫だ。うーちゃんのことだからそんなことだろうと思っていた。」
そのまま沈黙が続いていた。先にこの沈黙を切ったのは潮だった。
「あのさ...もし周りの人に人殺しがいたらむーちゃんはどう思う?」
「それは難しい問題だな。僕はとても酷い人だと思うがちゃんと理由があるなら責めることはできまい」
「....ねぇ、その人殺しが俺だったらどうする?」
当然の回答に声が出なかった。しばらくの間時間が止まったような気がした。うーちゃんが人殺し?そんなことがありえるのだろうか。
「それは本当に言っているのか?」
「.....うん、昨日学校の奴と喧嘩事になって突然触られたから突き放そうとしたら打ち所が悪くて大量の血を見て、怖くなってきてそのまま逃げだしたんだ。」
「そうだったのか。話してくれてありがとう。辛かっただろうに。」
夏が始まったばかりなのに潮は酷く震えていた。
抱きしめて安心させたいのにそんなことができない自分が惨めで悔しい。
「人殺しが観光区長なんて出来るわけないでしょ?だから遠いとこで死んでこようかなって。」
「え?」
驚きを隠せず変な声が出てしまった。うーちゃんが死ぬ?いつもそばにいてくれたうーちゃんが?
「........だったら僕も連れていってくれ」
「何言ってるのむーちゃん、これは俺が決めたことなんだよ」
「だからだ。潮がいない人生なんて嫌で仕方がない。だったら一緒に死んだ方がよっぽどマシだ」
真剣な眼差しでこちらを見てくる。
そんな目で見ないでよ。死にたくなくなっちゃうじゃん。
「......あーもう!どうなっても知らないからね!」
「うーちゃん準備はできただろうか?」
「うんいいよ、この家ともおさらばだね。ロボママも今までありがとう。」
最後の言葉を言い、護身用のナイフと財布などを鞄に詰めて家を出る。
「これはもう要らないね」
それは昼班のみんなで撮った写真やHAMAツアーズの人達との思い出の写真だった。
「本当に捨てていいのか?」
「うん大丈夫。」
そして僕らは逃げだした。この狭い世界から。家族もクラスの奴らも何もかも捨てて君と二人で。
遠い誰も知らないようなところで二人で死にに行く。もうこの世界に価値などない。二人でいれればそれでいい。きっと人殺しなんてそこら中にいるだろう。うーちゃんは何も悪くない。何も悪くなんだ。
さぁ行こう。人殺しとダメ人間の君と僕の旅を。
僕らはきっと誰にも本当に愛して貰えなかったのだろうと思う。そんな嫌な共通点で信じあって共に過ごしていた。
あの時震えていたうーちゃんの身体はもう既に消えていた。
「これからどこに行く?」
そう言いながら僕らは線路の上を歩いた。
「どうしようむーちゃん.....そろそろお金に限界が......」
「だったら僕に任せてくれ。」
そう言ってむーちゃんはある提案をした。
それは自分の顔が良いことを利用してお店の人の目を奪い俺がその隙にお金を盗むという作戦だ。案の定むーちゃんの顔にやられてすんなり盗む事ができた。こんなことを何度も繰り返し、ばれたりして2人で逃げていた。だから今更怖いものなんてなかったんだ。むーちゃんと一緒なら何処にでも行ける気がした。
これはあぶれ者の小さな逃避行の旅だ。
いつか夢を見たんだ。優しくて誰にも好かれる主人公みたいだったら汚くなった俺たちのことも見捨てずにちゃんと救ってくれるのかなって。でもそんな夢は捨てた。だって現実を見ても『シアワセ』の四文字なんてなかったんだから。
今までの人生で思い知ったんだ。あの火事も人を殺したことも。
自分は何も悪くないと誰もがきっとそう思ってる。
大黒家の力を使ってなのか、僕たちを探し回っている情報が出た。警察も動き出していて隠れながら移動している。こんな真夏にあてもなく彷徨う蝉の群れに、水も無くなり視界がぐらついてきた。こんな状況でもどっちが逃げ切れるかなどとバカみたいにはしゃぎあった。するとふと潮がナイフを取り出した。
「むーちゃんが今まで傍に居たからここまで来れたんだ。」
「だからもう良いんだ。死ぬのは俺1人で。」
そして潮は首を切った。まるで何かの映画のワンシーンのようだ。白昼夢を見ている気がした。
『助けられなかった』
気づけば僕は警察署にいた。大黒さんや主任も呼ばれ詳しいことを聞かれたが潮のことで頭がいっぱいで何も思い出せなかった。いろいろあり僕は釈放され、自宅に帰された。家族に散々怒られたが詳しいことは何も聞いてこなった。
HAMAツアーズの人達には主任が説明してくれた。部屋に入ると1人だけの空間になる。
君だけが見つからない。潮だけがいなくなってしまった。
そして時は過ぎていった。ただ暑い日が過ぎていった。家族もクラスの人もいるのに何故か君だけは何処にもいない。
夏がくるといつもあの日のことを思い出してしまう。
ずっと君を探しているんだ。ずっと言いたいことがあるんだ。
九月の終わりになりくしゃみして、六月の匂いを繰り返す。
君の笑顔やあのころの無邪気さは僕の頭の中で飽和している。
『誰も何も悪くない。潮は何も悪くない。投げ出してしまおう。』
そう言えばこんなことにはならなかったのだろうか。
僕はまた君のいない夏を過ごしている。どこかできっと会える日まで。