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    ミヤホロ

    @3m8hr

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    ミヤホロ

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    浜辺のんしょさに(とうんじ)。水分補給はこまめにしましょうね。
    お盆前にあげたかったけど間に合わなかった〜〜!

    水分補給はこまめにしましょう「つめたーい!頭キーンってする……」
    「はは、一気に食べ過ぎですよー」
    「そんなに山盛り食べてよく平気だね、鯰尾」

    晴れた夏の日。
    屋根の下、熱中症対策に作ったかき氷を頬張りながら、浜辺を眺める。
    誰が言い出したか、砂浜で訓練がしたいとの声で今日は本丸の希望者で海にやってきた。
    連隊戦で初めて砂浜を経験した男士たちは、普段との足場の違いに苦戦していたので志願した者が多い。
    はじめは訓練のつもりでいたのだが、なかなかこういう機会もない。今日の出陣や遠征は無しにして、浜辺や海で遊びたい者は遊んでよし!としたので、なかなかの大所帯だ。
    審神者業で年中執務室に引きこもっている私も季節を感じたい!と意気込んで来たものの、日差しの強さに早々に白旗をあげた。
    今は海の家を模して建てられた小屋で刀たちの様子を伺いながらかき氷発案者の鯰尾と補給係に回っている。補給係と言いながら自分もかき氷を食べているのは、まあご愛嬌だ。日陰であっても暑いのだここは。

    「兄弟、いち兄が呼んでいる。びーちばれーをやるそうだ」
    「はいはーい!主、あっちに行ってきていいですか?」
    「もちろん!せっかくだから行っておいでー」
    「じゃ、行ってきますね!」
    「いってらっしゃーい」

    少し遠くから聞こえる話し声と波の音。さっきまでガリガリ音を立てていたかき氷機も今は休憩中だ。いつもなら画面とにらめっこしながら戦闘状況や資材の確認をしている時間なのに、なんと穏やかなことか……。
    浜辺での過ごし方は皆様々で、眺めているだけでも楽しい。木刀で手合わせをする者、砂になれるためランニングする者、砂で大きなお城を作ろうとしている者──。道具を持ち寄って釣りをする者や、海に所縁のある刀の中にはサーフィンをする者たちも。
    脇差と江は「気配を探るのが上手くなるんだ」と本当か嘘か分からないことを言いながらスイカ割りをしていた。

    午前とはいえ燦々と降り注ぐ日差しの下、一際眩しい姿を見つけた。
    雲生さんだ。
    秋田くんに誘われて、ビーチバレーの仲間に入ったらしい。
    浜辺ということで、水着に日よけの上着を肩にかけたレアなお姿だ。雲を紡いで糸にしたようなふわふわの白い髪に、シミひとつない色白の肌が、夏の日差しを反射している。
    「眩しいなあ……」
    「熱心だね、主」
    「わっ!?」
    「そんなに驚かなくても」
    私の目の前で手をヒラヒラさせながら、隣にやってきたのは雲次さんだ。
    「予想はしてたけど、暑いね」
    「雲次さん、夏初めてだもんね。かき氷食べる?」
    「もらおうかな」
    ポータブルの冷凍庫から氷を取り出して、かき氷機にセットする。削るためのハンドルが硬くて奮闘していたら雲次さんが代わってくれたので、私は味を選んでもらうべく各種シロップを並べた。
    雲次さんは海辺に行かないのか聞いたら、どうやら釣り組について行ったところ足元を走ったフナムシに耐えられず、やむなく戻ってきたらしい。
    「まさか岩場にもああいうのがいるなんて思いもしなかったよ……」
    「気持ちはわかるよ、私も苦手」
    青く染まったかき氷を渡す。
    ちゃっかり少し分けてもらった氷に、同じくブルーハワイのシロップをかけてひと口頬張った。

    「僕もあっちに混ざろうかな」
    雲次さんの視線を辿ると、どうやらちょうどビーチバレー組が試合を終えたらしい。
    秋田くんと雲生さんがにこにこでハイタッチを交わしていた。やっぱり眩しくて、こちらまで顔が緩んでしまう。
    「全く、夢中なんだから……二人で過ごせるプランでも立てようか?」
    「い、いや、あの、」
    揶揄うような声に顔が急激熱くなるのを感じる。
    百振りを超える刀の主としてはできるだけ平等に接しようと心がけているものの、ままならないのが心というもので。特定のひと振りをこっそり目で追っていることに、同派のこの刀にはすぐさまバレてしまったのである。
    「予測と計画なら得意だよ、僕は。畑当番5回免除でどう?」
    「対価が高いのか安いのか分からない……」
    随分楽しそうに覗き込んでくる雲次さんの顔を見ていられなくて浜辺の方に目を移す。すると不意に、浜辺にいる雲生さんと目が合った気がした。少し顔が険しい。
    「あ、気づかれちゃったかな」
    「えっ?」
    「主とかき氷、抜け駆けしちゃったこと」
    「まーたそうやってからかう!」
    「はは」
    笑いながら、雲次さんはかき氷のカップを潰してゴミ袋に捨てた。おしゃべりしながらもサクサクと食べ進めていたらしい。
    「それじゃ、僕は雲生と交代してくるから。うまくやりなね」
    「うまくって何!?」
    「ついでに水分も摂るように言っておいて!」
    「ちょっと!」

    予測だの計画だの言った割に雑かつ急すぎる!
    動揺と顔に集まった熱をなんとか鎮めたくて、私は残りのかき氷に手をつけた。

    ◇◇◇

    知識として知ってはいたが、夏は暑い。
    日陰のない海辺などは地面からの反射も手伝って煮えるようだ。いくら丈夫に作られているとはいえ、人の身を得た今、あまり暑い中にいると倒れかねない。
    ボールを目で追いながらそろそろ休憩を、と思ったタイミングでホイッスルが鳴る。試合終了だ。
    「皆、水分を摂るんだよ」
    「「「はーい」」」
    粟田口派はパラソルやクーラーボックスを持参しているようだ。本丸初期から夏を経験して来ているだけあって準備がいい。
    海小屋に飲み物を置いておくと主がおっしゃっていたが、数の多い刀派は自主的にあれこれ持ち込んでいる。
    そういえば、主はどう過ごしているだろうか。到着してしばらくは海辺の景色や波打ち際で短刀たちと水遊びを楽しんでおられたが、夏の日差しが堪えたようで、その後海小屋で涼むとのことだった。
    かくいう私も暑さに随分体力を持って行かれてしまった。主の様子を伺うついでに少し涼んで来たほうがいいだろう。
    海小屋の方を伺うと、屋根の下に主の姿を見つける。隣には釣りに行ったはずの雲次が。
    ふと雲次と目が合った。悪戯を思いついたような表情を浮かべると、主の顔を覗き込む。何を言ったのか、主が顔を赤く染めて慌てて何かを訴えている。
    ああ、眉間に皺が寄っていくのが分かる。雲次の言うところの「怖い顔」になっているかもしれない。こんなに分かりやすい煽りにのせられるとは。太陽の熱にやられたか、今の私は少し冷静さを欠いているようだ。
    今主の前に立ったら、なんだか情けないところを見せてしまいそうだ。それは避けたい。とはいえ、このまま炎天下の浜辺に突っ立っているわけにもいかない。主と雲次の会話も気になる。海小屋へと一歩踏み出したところで、一瞬主と視線が交わった。
    いけない。切り替えなければ……。
    深呼吸をひとつしたところで雲次が席を立つ。主の後ろから、気づかれないように「ステイ」の合図が送られた。何か伝えたいことでもあるのだろう。十中八九揶揄いの類のような気がするが、大人しく従うことにした。

    ◇◇◇

    「雲次」
    「もう雲生、また顔が怖くなってるよ」
    「あなたのせいでもあるのですが」
    「はは、ごめんって」
    僕の合図に気づいてその場で待っていた雲生はいつも以上にしかめ面で、思わず笑ってしまった。
    先ほど揶揄ったのが、ついでに二人でかき氷を食べていたのがお気に召さなかったんだろう。
    こんなに分かりやすいのに、なんで主には伝わらないのかな。

    主が雲生を見つめる回数の多さには、割と顕現してすぐに気づいた。
    僕らは本丸の中では新参者だ。はじめは新しい刀の様子が気になるのかなと思っていたのだけれど、どうも様子が違う。僕より雲生を見ている時間の方が圧倒的に長いのだ。それなのに、雲生が主の方を向くと慌てて視線を逸らす。
    ただの人間ならともかく、僕らは刀剣男士である。割と視線や気配には敏感な性質だ。
    それゆえ本人が視線に気づかないはずもなく、当初は何かしでかしてしまったのかと顔を青くする雲生を宥めるのが常だった。主の視線に好意が滲んでいるのは側から見るとかなり分かりやすいのだけど、本人には伝わっていないらしい。いつの間にか相談の中身は「どうすれば会話の際に目を逸らさずにいてくれるのか」「もう少し主と話す機会を作るにはどう動くべきか」といった変化していった。
    あんまり主のことばかり話すから、思わず「好きだねえ」なんて茶化したら、すっかり茹で上がった顔で驚いていて、そんな雲生に僕が驚いたのだった。
    そこからはできるだけ接する機会が増えるように計画を立てたり、手を回したりして。お互いの距離も近くなってきたし、雰囲気も良さそうだ。
    こうなったらあとはどちらかが決定打の一言を伝えるだけ──と思っていたのに、関係を崩したくないだの、見守りたいだけだの言ってここ3ヶ月ほど一向に動く様子がない。そのくせ、こうやって不満を顔に出すのだからちょっと呆れてしまう。

    「僕に妬くくらいなら主のとこ行ってきなよ。君と交代するって言ってきたからさ」
    「雲次、あの」
    「それに、僕らは顕現して初めての夏だろ?体が暑さに慣れてない。顔赤いし、一度日陰に入ったほうがいいんじゃない」
    本丸は大所帯だ。ふたりで過ごすチャンスはモノにしないと、次がいつになるかわからない。
    彼らの進展のなさに焦れていた僕は思わず畳み掛けた。
    暑さに体力を奪われているのは間違いないようで、雲生は少し困ったような顔で頷く。
    「……そうですね……少々頭が回らなくなっているような気がしますし、涼んできます」
    「うん。ちゃんと水分とって。それと、健闘を祈るよ」
    「……そこは期待しないでください」

    少し早足で小屋に向かう彼を見送って、僕はビーチバレーに混ざるべく歩き出した。
    主の視線に気づいてからはや数ヶ月。刀にとっては一瞬だけれど、人の子には充分な時間じゃないか?さっさとどうにかなってくれればいいよ。


    ◇◇◇


    「主、失礼します」
    「いらっしゃい!暑かったでしょう?冷たいもの用意するから少し待ってね」
    手伝おうとする雲生さんに椅子をすすめて座ってもらう。外はやはり暑かったようで、いつもよりほんのり顔が赤い。
    とりあえず冷たい飲み物を、と考えてクーラーボックスを覗く。大きなペットボトルの間に、夏らしいなと思って買っておいたラムネが冷えている。
    「雲生さん、ラムネをどうぞ」
    「ありがとうございます」
    雲生さんはラムネを受け取ると、持ったまま何か考えるような顔をする。
    「そっか雲生さん、ラムネ初めてだっけ」
    「短刀たちが飲んでいるのは見たことがあるのですが……開け方を教えていただけますか?」
    「ええと、口だけで説明しづらいな……まだラムネはあるから、一度これを開けてみせるね」
    雲生さんからラムネを受け取る。部品を分けると、瓶の口へと押し込んだ。プシュッと音がして、ビー玉が落ちる。そのまま上から押さえるが、勢いよく液体が噴き上がり、手を濡らした。
    「あ〜、こぼれちゃった!ごめん雲生さん、そこの布巾を取っ……て」
    目の前にふわふわの白い髪が広がる。
    目元を髪が隠してしまって、表情が読み取れない。雲生さんの意図がつかめずにいると、ラムネを押さえていた手を取られた。
    あたたかく、やわらかなものが触れる。目の前の光景を受け入れる前に、今度はぱくりと指を食まれた。
    人間、驚きすぎると声が出ないと聞いてはいたけれど、本当に声が出ない。ついでに身動きも取れない。
    小さなリップ音を残して、手が解放される。
    「…………あまい、ですね」
    なんで顔をしてくれるんだ。こちらが溶けてしまうのではないかと思うほどに、うっとりと甘い微笑みを浮かべている。
    甘いのはあなたでしょう!という台詞が体を駆け巡る。しかし驚きから抜け出せずにいる私は固まったままで、ようやく視線を上げた雲生さんと目が合う。ターコイズブルーの瞳が揺れる。
    突如、彼は弾けるように立ち上がった。
    「も、申し訳ありません!今すぐ拭くものをお持ちします!」
    すぐにカウンターからウェットティッシュを持ってくると、手を丁寧に拭われる。なんとも居た堪れない。
    「あの、自分で、やれる……ので……」
    「!……………申し訳ありません……」
    お互いに物凄く動揺しているらしい。その上、雲生さんは物凄く落ち込んで、項垂れながら机を拭いてくれている。
    「なんとお詫びをすべきか……例え好意を持っていただいていたとしても、同意もなくこのような行為を働くなどあってはならないことです」
    「いえ、あああの、外、暑かったもんね!ラムネが飲みたかったんですよね!?」
    真っ青な顔をして謝る雲生さんに、余計に慌ててしまう。咄嗟にフォローになっているかよく分からない言葉を口にしたところで、遅れて情報が脳に到着する。
    今、彼はなんて言った?
    「う、雲生さん」
    「はい」
    「いま……今、なんとおっしゃいましたか」
    「例え好意を持っていただいていたとしても、同意もなく口付けを」
    「知ってたの!!?」
    「あっ」
    知られていた。恥ずかしい。というか、雲次にバレた時点で予想できたことなのに、自分の気持ちでいっぱいいっぱいで、全く気づきもしなかった。これ以上無いくらい顔が熱い。さっきまでの比じゃない。
    「その、よく私の方を見てくださっていたので……」
    「ああああ!すみません!」
    「いえ、嬉しかった……です……」
    口元を手で覆った雲生さんの表情は半分しかわからないが、顔がさらに赤くなったのは分かった。
    会話が途切れ、波の音が妙に大きく聞こえる。何を言うべきか、そもそも何か言うべきなのか。完全にパニックに陥った私は脳が考えるのを止めつつあることだけをかろうじて把握する。
    先に冷静さを取り戻し、静寂を破ったのは雲生さんだった。
    「…………主、」
    「ひゃい!?」
    雲生さんはいつも執務室で見かけるようなあの緊張感のある表情で、私の心臓が一際大きく鳴るのを感じた。
    「貴女を、お慕いしております」
    「……わ、たしも」
    「どうか、私を貴女のお側に置いていただけないでしょうか」
    肝心な時だというのに、言葉をうまく紡げない。
    やっとのことで首を縦に振る。
    雲生さんはふ、と微笑んで……糸が切れたかのようにテーブルに突っ伏してしまった。
    「雲生さん!?」
    「安心して、緊張が、解けてしまって……申し訳ありません、何か飲むものをいただけますか」
    急いで冷えたスポーツドリンクを手渡し、保冷剤にタオルを巻いて首元に当てる。
    「格好がつきませんね……」
    「びっくりしたよ!初めての夏なんだから、無理しないで」
    「……ロジャー」
    ついでにもう一つ保冷剤を取り出す。まだ頬が熱くて、タオル越しの冷たさが心地良い。いつもの主に戻るにはもう少し時間がかかりそうだった。
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