お題「距離」「よーし、じゃあ今日の6限のLHRは席替えをするぞ」
担任がそう高らかに宣言して朝のHRは終わった。一学期が終わり夏休みもあっという間に過ぎ、二学期が始まった。一学期の間は始業式のときの名簿順の席のまま過ごした。輝矢、久楽間だから名簿順だとむーちゃんと前後だったので席が変わってしまうのはなんだか惜しい。
休み時間になるとくるっと後ろを向いて笑いかけてくれる。ささやかながらそれが毎日の楽しみだったりする。
自分が宗氏に特別な想いを抱いているのには気づいていた。が、この気持ちを宗氏に伝える気はない。伝えてしまえば宗氏を困らしてしまうのは分かりきっていた。俺が宗氏の夢を妨げる原因になる訳にはいかないから。それにこの気持ちがなんなのか自分でもよく分かっていない。俗に言う「恋」なのかもしれないし、「友愛」の延長線なのかもしれない。なにか分からないけど、ただ宗氏のそばにいれればいい。それもわがままなのかもしれないけど。
◇
5限までの授業を終え、6限のLHRの時間になった。先生特製のくじ引きボックスから順に1枚ずつくじを引いていく。
先生の呼びかけでクラスみんなが新しい席に移動する。ガタガタと机を動かし左端の1番後ろの席に移動する。人と関わらずに済むから端の席は嬉しい。ひと足早く席についてぼんやりと周りを眺めていると、隣に人が来た。
「うーちゃん、また近くだな」
そう言ってこちらに微笑みかけてきたその人物は宗氏だった。……どうしよう。前後の時より目が合う回数が多いし、近いし、少し…困ってしまう。必死になんでもないように振る舞い、悟られまいとする日々が始まった。