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    瀬名🍭

    書きかけ、未修正の物含めてSS落書きごちゃ混ぜ。

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    瀬名🍭

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    やっと会えたね〜

    ##とれじぇい

    とれじぇ続き「よく言えば新風が吹き荒れて息がしやすくなる。覚えあるでしょ?」
     快活な一年坊たちの背を見送りながら、トレイは悪戯っぽく笑うケイトの囁きが耳元で聞こえたような気がした。彼らの行先には晴れあがって透明な冬空が広がっている。当事者では解決できないぬかるみに新星たちが突破口を見出してくれた。今にして思えば、ケイトもトレイも転機をずっと待ち詫びていたのだ。
    「トレイくんはまた変化を迫られている」
     リーフグリーンの瞳の占星術家から賜ったありがたい言葉にお前もだろ、とトレイは肩を竦める。緩やかな変化でいい。急いては事を仕損ずる。トレイが再び運動場の北に位置する尖塔の方角へ向き直ると、天を衝くように尖った銀杏並木の樹冠の隙間から、黄金に染まった樹影が、足元の湿った落ち葉に降り注いでいた。トレイはマチの広い手提げ袋の持ち手を握り直し、荷の質量を確かめた。

    「ここでいいんだよな……」
     トレイはきょろきょろと首を回らして周囲を伺う。運動場の北端に位置するチェスの駒(ピース)のような高楼の裏手に今は廃園となったパティオがあった。日は傾きかけ、名門校の名に恥じぬ、見事に刈りそろえられたゼブラカットの芝生に、塔の影は色濃く伸びている。
     約束の時間にはまだ早かったが、ジェイドの指定した場所が運動場のはずれで、文化部のトレイは日頃立ち寄らない奥まった場所だったので、時間に余裕をもって訪れていた。パティオと見たのは、崩れ掛けたレンガの壁が四方にあり、床には色鮮やかなマジョリカ焼きのタイルが今は朽ちて砂を被っていたからだ。朽ち果てたパティオと隣り合う庭園の奥に銀木犀が植樹され、その近くに白いテーブルセットが置かれていた。木の根本にはグラウンドカバーとしてタマリュウが配されている。このテーブルセットはジェイドが用意したのだろう、これだけがまだ真新しく、庭の中央のオブジェや、トピアリーを鑑賞できるように置かれている。といっても、廃墟と化したこの庭では、オブジェは半壊し、トピアリーも枝が伸び放題、もともとどんなデザインだったのか判然としない。棺のような台座のオブジェに、7つの木。庭の四方を取り囲む生垣も往時は丁寧に刈り込まれていたのであろうが、イチイやツゲが荒れ放題で、つるバラが煉瓦を覆い尽くしていた。銀木犀の周囲を光が当たったように輝かせているのはシルバーリーフ。白いダイニングテーブルとベンチの後方には森があり、廃園との境目は融解しているが、ヒイラギやイチイの赤い実が宙を区切るように揺れている。
     ダイニングテーブルセットを残して、肝心のジェイドが見当たらない。
     庭を横切ると、中央に据えられた黒い棺は蓋が少しずらされているのが分かった。僅かに開かれていて、その中に雨水が溜まり、枯れ葉と鳥の羽のようなものがぷかぷか漂っている。
     銀木犀の側のテーブルの上にはシックな薄紫のテーブルクロスが敷かれ、あとはトレイを待つだけと言ったふうに、紅茶道具が一式取り揃えられていた。ひらひらと椅子の上に落ち葉が舞い込んでいる。待ち人はどこへ消えてしまったのだろう。「ジェイド?」
     トレイは荷物を置いて、周囲を見渡してみた。森へと続く赤い実に釣られるようにして、藪の中へ足を踏み入れていくと、あの長身を折り曲げてジェイドがしゃがみこんでいる。体調を崩してしまったのだろうか。
    「おい、大丈夫か?」
    と駆け寄ろうとすると、ジェイドは勢いよく振り向いた。何か攻撃を予期しているかのように。一瞬浮かんだ表情は何を考えているかわからない。時折ケイトが見せる表情に似ていた。空が翳る。
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    瀬名🍭

    PROGRESS不定期でトとジェがお茶会する♣️🐬SSのまとめ(未完) 捏造多。随時更新。お題:salty lovers
    Merman’s test garden 魚類は虫歯にならない。歯を蝕む病は人類と砂糖の出会いによって生まれ、海中暮らしで甘味を知らなかった人魚もまた、人と交わることで歯を患うようになったと言われる。太古の昔、人間の王子と結ばれた人魚の姫は、心優しいハンサムではなく実際のところお城の豪華なテーブルに並んだ愛しき者たち――チョコレートケーキにミルクレープ、焼きたてのスコーンにクロテッドクリームとたっぷりのジャムを添えた、華麗なるティータイム――と恋に落ちた、なんて使い古されたジョークがある程だ。
     それまで、栄養補給を主たる眼目に据えた、質実な食卓しか知らぬ人魚たちの心を蕩かしたこれら、危険で甘美な食の嗜好品はsweety loversと名付けられ持て囃された。他方、人間に人魚、獣人、妖精と多様な種族がファースト・コンタクトを済ませたばかりで、種の保存において血筋の混淆を危険視する声も少なくなかった。昼日向に会いたくても会えず、仲を公言することもできない、陸の上の恋人を持つ人魚たちはなかなか口にできぬ希少な砂糖になぞらえ、情人をもまたsweety loversと隠れて呼びならわし、種の垣根を越え、忍んで愛を交わしたと伝えられている。
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