「そういえば、イデアくんそろそろお誕生日なんだって?」
何がそう言えばなのだ、と突然話を向けられたイデアは固まる。彼は予鈴が鳴るぎりぎりまで別所で時間を潰し、授業が始まる直前に教室へ戻った。恐る恐るといった足取りで、クラスメイトと楽しげに団欒するケイトの脇を通り抜ける際、「イデアくんじゃん!」と親しげに声をかけられる。イデアからするとこの挙動からもう理解が及ばない。陽気な彼らからしたら、自分はただの、ちょっと奇妙な背景に過ぎないと念じて、思い込んでどうにか教室へと足を運んでいるのに。
「ヒッ、ケ、ケイト氏、どこ情報ですか、それ……」
ケイトと話していた学友の視線も自然と己の顔に集中し、イデアは藪蛇な気持ちだった。拙者、席に座ろうとしただけなのだが……!?
「誰だったかなー?」
ケイトは視線を上に上げ、手を口元に当てて考える仕草を取る。イデアの髪の炎の勢いは教室にいる時なんかは特にない。しかし、稀に授業中彼の興味を惹く題材だったのだろうか、頭頂部が勢いよく燃え盛っているのを目にすることがある。すらりとした手足、浮世離れした姿形、筋張った手の甲、デスマスクと見紛う白い肌、周囲を拒絶するように彼を取り巻いて流れる青い炎。イデアくんって映えるよな〜、でもそれ言ったら嫌がるんだろうな。
「あー、これ言っちゃっていいの? ネタバレにならない?」
「は?」
頭脳明晰と謳われているのに、ケイトの会話についていけない様子のイデアを見て、ケイトはからかいたい気持ちになった。歩幅を合わせるどころか、ついておいでよ、とばかりに奸計が走り出す。だって、彼には自分の誕生日を祝う学友がいるという発想すらないのだ。
オルトくんが兄さんをお祝いしてあげて! って皆に言ってたような気もするし、アズールが用意したプレゼントをマジカメにアップしてたような気もする。ああ、ディアソムニア寮の子がソワソワしてたような?
でも、それらの証拠どれをも口には出さず、ケイトは笑いかける。
「イデアくんが愛されキャラって話」
イデアは一瞬虚をつかれたような表情を浮かべる。そして、漸く予鈴が鳴った。
「リア充の考えてることは理解できない……」とぶつくさ言いながら、やっと解放されたという風に分かりやすく脱力して自分の席へ戻っていくイデアに、おーい聞こえてんぞと内心苦笑しつつ、ケイトは彼の誕生日当日になったら、構い倒してやろうと心に決めたのだった。イデアはこの刹那的なノリを望んでいないとわかっていながら。