自室の窓から外を見ていた。
視線の先、そこにはトレーニング中の天彦さんが洗濯物を干しているいおくんと楽しそうに話していた。
「また見てんの?」
「そういうふみやさんこそまた来たんですか?」
ふみやさんがノックもなく勝手に入ってくるのはいつものこと。
その辺に落ちているものを踏まないように避けながら窓際に座る僕の隣に来る。
「そんなに天彦が好きならさっさと告白すればいいのに」
「それで振られて来いってことですか?」
「うん」
簡単に言ってくれる。
天彦さんはとても優しくて素敵な人。
こんなクソ吉のことをいつも気にかけてくれる。
だけどその優しさは自分にだけ特別ではないことくらいわかってる。
だから告白したところで…
「振られるのが分かってるのに告白なんてしません。天彦さんを困らせたくないですから」
「じゃあ大瀬はずっとこうやって遠くから見てるつもりなんだ?」
「そう言うふみやさんはどうなんです?さっさといおくんに告白すればいいのに」
「…したよ、依央利に告白。一ヶ月前にかな?振られたけど」
物凄く驚いた。
だって二人はお似合いだと思っていたから。
ここ最近作りたいものがあってずっと引きこもっていたから、そんな事になってるなんて知らなかった。
「それは…自分に失恋仲間になれってことですか?」
「依央利に『ふみやさんが本当に好きなのは僕じゃないでしょ』って言われてさ」
「そうなんですか?じゃあふみやさんは誰が好きなんです?」
「大瀬」
「はい」
「…いや、呼んだんじゃなくて」
…ん?
は?
…えーと。
ちょっと待って。
待って?
「俺は大瀬が好きだ」
空耳じゃなかった。
冗談ですよね?そう言おうと顔をあげた時だった。
目の前にはふみやさんの顔。
唇には何かが触れていて一瞬なにが起きているのかわからなくて思考回路が一時停止していた。
「ははっ、顔真っ赤」
物凄くびっくりして真っ赤になっている僕を見てふみやさんは笑っている。
…からかわれてる?
もう何が何だか分からない、どうしてこうなったのか色々急展開すぎてついていけないでいる。
「あの…じゃあ、さっさと振られて来いっていうのは…」
「傷心中なら付き合ってくれる可能性があるかと思って」
「ふみやさんって性格悪いですね」
「俺だってもう振られるのは嫌だからさ」
「…いおくんに言われたのが誰のことなのか分からなくて、みなさんにそうやって声かけてるとかないですよね?」
「えぇー…大瀬って疑り深いね」
「ふみやさんに信用がないだけです」
いおくんに言われたことを考えるのがだんだん面倒になって手当たり次第…とか。
じゃなきゃ理解できない。
わざわざ自分を選ぶなんて趣味が悪すぎる。
「いや本当だって。俺、今めちゃめちゃドキドキしてるし」
ふみやさんに手を引かれ腕の中に収まる。
ふざけているのかと思っていたけど胸に手を当てると確かに鼓動は凄く早かった。
ふみやさんでも緊張するんだ。
綺麗な紫色の瞳が僕を見つめる。
ただ真っ直ぐ。
何だか急にこっちまで恥ずかしなって、よく分からなくなってふみやさんの顔が見れない。
手で顔を覆って隠すのに必死で、抱き締められているのに逃げるのが遅くなってしまった。
後にそれが大変だと気付くのは暫くしてからだった。
何しろ僕達はそんなやりとりを窓際でしていて、外には天彦さんといおくんがいたのだから。