「ところで、セノが俺の大胸筋を揉みにくるのですが」「アルハイゼン、頼みがある」
唐突にアルハイゼンの家に訪れたセノは言った。
「胸を揉ませてくれないか」
アルハイゼンは一度本から目を離し、そしてすぐに文字を追った。セノはその間も真剣な表情を崩さない。
「…………」
沈黙が部屋の中に充満した。
「大マハマトラともあろうお方がわざわざ男に声をかけるとは。まさか、武器と同じ扱いをして愛想を尽かされたのか?」
アルハイゼンは特に他人の趣味嗜好を気にするような人間ではない。とはいえ、顔見知り(戦友と言ってもいいかもしれない)が突然、己で性的搾取させろと言ってきたら流石に動揺せざるを得なかった。一瞬の沈黙は彼にしては珍しく返事に迷った事の表れである。人によっては返事をするほどのものでもないと無視していると思われるかもしれないが。
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