辛さが喉元通り過ぎれば(そよいと) 七……八…………。
バーベルを持ち上げる腕が、回数を追うごとに重たくなってくる。
(オーソドックスなのは煮物かおでんだろうか)
九…………。
視界の端にトレーナー、もとい新開さんの姿を認める。余計なことを考えてしまうのは、目の前にのしかかる負荷からの逃避なのだろうか。
(けれど、この時期ならもっと、さっぱりしたものが食べたい。となると)
…………十。
(さっぱり…………大根サラダ?)
「よし、休憩」
「ふう……」
取り敢えずの結論が出たと同時にカウントが終わり、十キロのバーベルを所定の位置に戻す。仰向けの体勢のまま私は、天井の壁の無機質な模様の一点をぼんやりとみつめていた。
当初は五キロほどで息も絶え絶えだった私が、今は倍の重量をそれらしく動かせる程度には進歩している。とはいえまだまだ初心者の域を出ない重量に違いはないし、まだまだトレーナーもとい新開さんのサポートは必須だけれど。いつものジム内、ほぼ貸し切り状態で行われるトレーニングは定期的に続けている甲斐あって、微々たる成長とともに「ある」寄りの体力に近づきつつある。
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