自堕落に暮らしていたおじさんがファウストにスカウトされる時の話 空になった缶、瓶、カップ麺の器、その他諸々。部屋に散乱するそれらを見て、グレゴールは長く深いため息をついた。
(そろそろ、全部片付けるべきだな)
ガシガシと髪の毛を掻く。適当に括った髪の毛は更に乱れ、グレゴールはもう一度ため息を吐いた。
人間というのは不思議なもので、今のいままでは平然と暮らしていたゴミ溜めに、ふと我に帰ると耐えられなくなってくるのだ。グレゴールにとってはこの瞬間がそうだった。この部屋の惨状に、これ以上は耐えられそうにない。今すぐ全てを捨て去ってやりたかった。
ゴミ箱はとっくの昔に一杯になっている。掃除をするならばまずゴミ出しから始めるべきだろう。それから書類(主に家賃の督促状)を片付ける。それから、良い加減切らしている食器用洗剤を買ってきて、片付けていない食器を洗って……。
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