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    ゆゆゆ。

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    オンリーだし頑張ってなにか書きたい〜となって急いで書きあげた小説

    リツキと綾斗(CP要素なし)

     この世界の顔も知らない誰かが画面の向こうでボタンを押す。スマートフォンやパソコンなどの機器を媒介にして音が流れてくる。懸命に耳を傾ける人、BGMにして聞き流す人……色んな聴き手がいて、琴線に触れることがなく途中で止めたり、最後まで流したりする。そして、その一回が数値として画面に現れる。


    「んー……」

     更新するごとに再生回数と高評価の数が増えていく。
     数時間前に投稿した楽曲は既に数千回再生されていた。ボカラ曲全体としてはかなりいい滑り出し……だと思う。俺は画面から視線を逸らして目を伏せる。
     前回はどうだっただろう。確か今くらいの時間にはもう一万回再生までされていたような気がする。コメントだって多分もっとついていた。
     ここ最近はアップテンポで曲自体にインパクトがある方が伸びやすい傾向にある。初めの数秒の短い時間でどれだけ視聴者の心を惹きつけるかにかかっていて、サビで衝撃を与えて繰り返し聞いてもらえるような中毒性を与える。流行る曲は大体そういうセオリーの元で成り立っている。けど、ただそれを追求していけばいいというわけではない。同じ曲調ばっかり出していても変わり映えしないし、飽きられる。

    「はぁ……」

     世間にとって喜ばれるものを創った方が伸びるし、評価もされる。けど、ボカラPはこの世に何万人といて、その中でどうやって個性を出すかが大事で。「誰でも作れる楽曲」では意味がない。価値がない。俺が作りたい音楽でもない。そんな蟠りを、吐き出したい感情を、つい先程音に乗せて昇華した。ピアノの音に混ぜて、まるで美しいもののように柔らかく包み込んだ。そのはずなのに収まることはなく、また思考の渦に呑み込まれていく。自分が作りたいものはこれで良かったのか。良かったのなら、どうしてこんなにも悩んでいるのか。
     考えていると、いつの間にか時刻は深夜二時になろうとしていた。そろそろ寝るか、と思いながら開きっぱなしにしていたウインドウを一つ一つ閉じていく。SNSのウインドウを閉じようとした時、ひとつの投稿が目に入った。

    ────二時からメン限生放送。

     イラストレーターによって描かれた、青空に佇む金髪イケメンのアイコンがタイムラインに流れていく。綾斗だ。告知ポストの下には配信サイトのリンクが張られていた。こんな夜遅くにメンバー限定生放送なんて一体何を話すのだろう。そう思いながら下に続いているリプライを見ていく。

    ────もしかしてリツキPの新曲のこと!?
    ────リツキPだなw

    「……え?」

     なんで、俺? 画面に映った文字を見つめながら、一瞬目を疑う。けど、リツキPという名前で活動しているのは多分俺だけだし、新曲を出したリツキPとまで指定されればもう俺の事でしかない。ファンの中では何故か緊急生放送=リツキPの話というのが通説になっているようで、リプライは何故か俺の名前で溢れていた。

    「ええ……」

     今までもそうだったのだろうか。今までも生放送で俺の曲の話をしていたことがあったのだろうか。
     綾斗の歌ってみたを聞いたことはあったが、生放送を見た事はないしメンバーにも入っていない。そもそもクリエイター仲間ではあるが別にファンというわけではないし、本人曰くあっちが俺のファンらしいし。けど、一度湧いてきた好奇心を収めることはできなかった。クリックすると、メンバーシップの画面が出てくる。
     ……月、五百円。
     今まで他人のメンバーシップなんて入ったことがないので、相場も分からない。月五百円であれば一年で六千円だ。そう考えると、結構とるじゃねーか、と思ってしまう。金はあるが支払うのは癪なので、俺は綾斗に通話をかけてみた。綾斗はワンコールで応答した。

    『……もしもし』

    「綾斗、お前生放送で何話すつもり?」

     開口一番、何の挨拶も前触れなく尋ねる。綾斗は電話口でがたんと激しい音を立てた。

    「……なんか落とした?」

    『いや、大丈夫だけど……なんで知って……』

     通話越しでも分かるくらい動揺した声で返す綾斗。その反応で、流石の俺ももう合点がいった。こいつ、照れてるな。リプライの内容の通りこの後俺の話をするつもりで、それがバレたのが恥ずかしくて照れてるんだ。俺はにやりと口角を上げて、畳み掛けるように続けた。

    「タイムラインに流れてきたから。リプでみんな言ってたけど、俺の新曲のこと話すの?」

     どんなこと話すんだよ。俺のファンだし、曲褒めてくれるんだろ? そう問い詰めてからかってやるつもりだったが、綾斗は鋭い口調で否定した。

    『は、はぁ!? そんなわけねぇだろ! 自意識過剰なんじゃねぇの? あれはタイミングが被ったからリスナーが勘違いしてるだけで……』

     数週間前、飲みの席で俺の事を散々褒めていた本人とは思えないセリフが飛んでくる。リスナーが勘違い……勘違いして、あんなリプライになるのだろうか。自意識過剰。まるで自分が作った曲が否定されたみたいな気持ちになり、心にずしんと重たいものが落ちる。俺は耳元に当てていたスマートフォンを離した。

    「あっそ。じゃあ切る」
     
    『あ、待っ……』

    「……なに?」

     微かな声に、仕方なく通話終了ボタンに伸びていた手を止める。しかし、綾斗は止めた割になかなか喋り出そうとしなかった。五秒ほど沈黙が流れ、もう切ってやろうかと思った瞬間、ようやくぼそりと小さな声が返ってくる。

    『……新曲……、良かった』

     絞り出すような微かな声。返ってきたのは溜めた割にたった一言だけだ。けれど、確かに柔らかくて温かい音をはらんでいて、俺が一番聞きたかった言葉だった。飽きられるとか、再生回数とか、そういう「本当は気にしたくなかったこと」がゆっくりと、ほんの少しだけ飛散する。もう聞いてくれたんだ、という喜びの感情と、お前さっきの態度なんだったんだよ!と咎めたい感情が混ざり合う。

    「良かったなら先言えよ!!」

    『だって……リツキが生配信のこと知ってるなんて思わなくて……』

     綾斗は段々と語尾を小さくしながら『ごめん』と一言呟いた。やっぱり咄嗟にそう言ったってことは照れてるってことか。なんだ、こいつやっぱり俺のファンじゃん。

    「じゃあさ、どう良かったの?」

    『え』

    「あ、そうだ。生放送で言えよ。どうせ言うつもりだったんだろ?」

    『え、え……』

     綾斗の声が途切れ途切れになる。一瞬電波が悪いのかと思ったが、普通に戸惑っているだけみたいだ。『いや』『待って』と言いながら困惑する綾斗を置いて俺は話を続ける。

    「その代わりメン限はなしな。これからは俺が見れるとこで俺の話して」

    『え、むり……』

    「なんで無理なんだよ。飲みの時は散々話してたくせに」

    『あ、あれは……酒飲んでたから』

    「生放送の前に飲んどけばいーじゃん」

     この期に及んで抵抗する綾斗に、俺は唇をとがらせる。
    その後もやいのやいのと言い合いを続けていると、もう配信時刻の三分前になっていた。

    「もうそろそろ時間だな」

    『……本当にやるのか?』

    「当たり前だろ」

     観念したらしい綾斗ががたがたと音を立てながら、配信の準備をする。俺は一度通話を切った。綾斗をからかう気持ちがあったのは確かだが、この曲をどんな風に捉えて、どこが「良い」と思ったのか純粋に気になる。いつもより伸びは良くないからこそ、もっと綾斗の言葉を聞いて安心して、悪くなかったんだと思いたい。
     数秒後、綾斗のアカウントからメン限放送ではなく通常の放送にするという告知が流れてきた。ふふ、と笑みが零れる。配信は一分後、二時ぴったりに開始した。

    『……突然配信場所変えて悪い。いろいろあって……メン限は来週にする』

     ぱっと画面が切り替わり、相変わらず仏頂面の綾斗が映し出される。同時に大量のコメントが流れ始めた。こんな深夜なのに視聴人数は多い。しかもほとんどが女性……と思われる文体だ。俺は若干いらつきを覚えた。

    『それで、その……リツキPの新曲なんだけど……』

     画面上の綾斗が訥々と語り始める。一発目からそれか。なにかしら前座があるものだろうと思っていたので驚く。でも、聞きたかったのはそこだ。コメントの流れる速度が速くなる。

    『い、イントロのピアノからすげぇ良くて、歌詞も最高で……』

     たどたどしく、言葉を探すように綾斗が語り始める。普段からこうなのか、それとも俺に聞かれていると分かっているからなのか。深紫の瞳を僅かに逸らしながら綾斗は続ける。

    『言葉選びがやっぱりリツキPらしいっていうか、暗めの曲だけど繊細で綺麗で……調声も上手すぎるし……あーそうなんだよな、リツキPの曲ってボカラの良さを最大限に引き出してて……』

     流れてくるコメントを拾いながら、飲み物片手に語る綾斗。褒めてくれることを期待していたが、飛んできたのは想像以上の言葉数だった。嬉しいけど、むずがゆい。頬が火照る感覚があり、それを隠すように頬杖をついて目を眇める。

    『あー……はず……』

     画面からまた声が聞こえて、俺は視線を上げた。綾斗は赤くなった頬を鎮めるように手で顔の近くを扇いでいた。

    『……いや、なんでもない』

     流石に本人に見られているから、とは言えないのだろう。綾斗はリスナーに取り繕いながら視線を横にずらす。おそらくコメントを見ているのだろう、黒目が上下に動いていた。

    『あー……歌ってみたは勿論出すけど、後になるかもな。もう音程は覚えたけど、高音出るように調整したいから』

     歌ってみた出すの? というコメントに綾斗が返事をする。数時間前に出したばかりなのにもう音程を覚えたらしい。流石に一回や二回聴いただけでは覚えられないだろうから、短時間で既に何回もリピートしているということだ。すげーな、と純粋に尊敬しつつその熱量に若干驚いていると、コメントも同様に騒ぎ始めた。

    ────え、やば!
    ────毎度だけど凄すぎない?

     一斉にコメントが流れていく。俺の目にはなんか黄色いアイコンが流れてんな、くらいの感覚だが、綾斗はマウスに手を置きながら平然とした様子で画面を見ていた。よく見ると、一般視聴者とメンバー会員に入っている視聴者ではアイコンが違うらしい。イメージカラーの黄色アイコンが無駄に多いのはメンバー会員に入っている人が多いからだろう。

    『今日……? いや、今歌うのは無理』

     音程を覚えている、と言ったからか「今日は歌わないの?」とコメントが流れた。流石に今すぐは難しいだろ、と思ったが、「確かにいつもすぐ歌ってくれるもんね」「限定じゃないから無理でしょ」とリスナーがコメントをしている。いつもすぐに歌ってくれる……。ということは、言葉通り普段はメン限の放送で音程を覚えた後すぐに歌っている、ということだろう。オフボーカルを出すのはいつも数日後なので、おそらくはアカペラだ。歌ってくれないのは、リスナーの言う通りこれがメン限じゃないからか。純粋にコンディションの問題か。それとも……。

     ────歌えよ。
     
     綾斗がどんな風にこの曲を捉えたのか、どう歌うのか、純粋に興味があった。思ったことをそのままコメント欄に入力し、送信する。一秒、二秒……三秒くらいは画面に表示されていただろうか。けど、すぐに他のコメントに埋もれてしまう。これじゃあ、気づかないな。リツキP名義のアカウントでそのままコメントしたが、流れが速いし気付かれることはないだろう。そう思っていたのだが。

    『リツっ……!?!』

     画面を見ていた綾斗が一瞬固まる。耳まで赤くしながらじっと一点を見つめ、それからハッとしたように手で口元を隠した。まさかこの速度で気付いたのか。驚いていると、リスナーも綾斗の反応で気付いたらしくコメントが一気に増えた。

     ───え、うそリツキP本物!?
     ───綾斗くん顔赤くなってる!かわいすぎ
     ───本人に言われてるじゃん
     ───これは歌うしかない

     洪水のようにどっとコメントが溢れ出す。綾斗は赤面しながら僅かに声を荒らげた。

    『お、お前ら他人事だと思ってんだろ! 練習だってそんなにしてねーし、こんな不完全な歌リツキPに聞かせらんねえよ!』

     机上に勢いよく手をつき、リスナーに対抗する綾斗。配信の形態やコンディションは関係なく、ただ今俺に聞かれるのが嫌だったらしい。綾斗の曲は動画でしか聞いた事がないが、普通に上手いと思う。のびのびとしていて低い声なのに高音も綺麗で。けど、あれも何度も練習をして声を調整して、万全の状態で歌い上げて、適切な加工を施したものだろう。リスナーはもちろん、いつ俺に聞かれてもいいように。
     そう考えると、なんだか目の前にいるこの男が健気に見えてきた。立派な成人済の男に健気という言葉を使うのはなんだか変だが、ついそう思ってしまう。俺はキーボードに手を添えて赴くままにコメントを打った。

     ────聞きたいから、今歌って。










     


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